2016-01-01から1年間の記事一覧

神に選ばれし無敵の男

美術や音楽の構成が徹底していて、はりつめた美しさでため息が出るほど素晴らしかった。ティム・ロス扮するハヌッセンの夢の朽ちる寸前の美にも圧倒されるし、「神に選ばれし無敵の男」であった、素朴な男ジシェと弟ベンジャミンの、真実をみつめる瞳にもう…

世代

アンジェイ・ワイダ監督のデビュー作。ドイツ占領軍へのポーランド側の抵抗運動に、ごく青年らしい人と人とのつながりから参加する人々。みな市民でその戦い方のアマチュアっぽさにリアリティがある。権力を持つもののこわさ、権力の側にある人間は有無をい…

甘い罠

若松孝二監督生誕80年祭ということで、若松プロダクションのページで初監督作品の「甘い罠」が公開されている。盟友足立正生監督や宮台真司氏等々のコメントも一緒に公開されているが、若松監督らしくない基礎の映画の文法に則って作られた作品とのことで…

てんまると家族絵日記 3,4

「ペットショップにいくまえに」というフリーペ―パーがもとになった展覧会やそれに賛同された書店で売られている、動物保護活動基金も含む豆本。1,2巻*1を試しに買ってみたらもうほんと声を出して笑ってしまうおもしろさで続きもレティシア書房で購入。大き…

ギケイキ

今まで橋本治さんの「双調平家物語」*1の中でも、また歌舞伎の舞台に出てくる義経にも特に魅力は感じなかったのだけど、これを読んで初めて義経に親しみを感じた。町田さんの描く主人公は「告白」であれ「宿屋めぐり」*2であれ、めちゃくちゃしていてもすご…

平成二十八年度 松竹大歌舞伎 獨道中五十三驛

地元京都造形大学春秋座にて 筋書きの市川猿翁さんの巻頭挨拶にもあるように究極の娯楽作品。途中の口上や、弥次喜多の配置の仕方など観客が迷子にならない工夫が一杯あった。 「東海道中膝栗毛」に着想を得た鶴屋南北が仇討を主軸に「岡崎の猫」や「お半長…

特攻要塞都市 (サンチャゴに雨が降る)

無知にしてチリ・クーデータのことを全然知らなかった。1973年9月11日軍部反動派によるクーデーター。場所は違えど世界を見渡すと同じようなことが起きているし、他人事ではない怖さもあった。アメリカの9.11の事件の後作られた「セプテンバー11」*1というオ…

The Humbling

アル・パチーノ主演。多くの人にみてもらいたい自身の出演作に挙げている作品。 アクターとして生きてきた人間の、演じていること=人生のような姿。セラピーで会った女の打ち明け話がテネシー・ウィリアムズの戯曲の世界のように思え、若い女と愛を語らうと…

殺し屋たちの挽歌

これは拾い物だった。twitterで、ティム・ロス氏やテレンス・スタンプ氏の話をしていて、ふと追っかけたくなり・・予備知識がなかったのだけど、楽しめた。仲間を法廷で裏切ったテレンス・スタンプ。警察に守られているはずの彼が、ある日昔の仲間の手下、ジ…

バクマン。

神木隆之介氏の表情、細かい演技がすごくいい。楽しめた。20巻もあるという原作が一本の映画にまとまっているということで、端折るところは端折ってあるのだろう、はじめ信じられないほどとんとん拍子に話が進む。でもテンポの良さは気持ちいい。評判にな…

紙の月

テレビドラマでしている時みていたのだけど、角田光代原作らしく人物の描写が容赦なくて、甘ったるい考え方の主人公に近親憎悪的な気持ちも手伝い、どうなるんだ・・と面白くみていた記憶が。ドラマの方では同じ学校を出た仲間同士のそれぞれの、あってもな…

重版出来! 8

作品を世に出すための出版社側の努力・・それが、「儲け」とかいうイヤな感じでなく、「成果」を出すこと・・という風にとらえることができるのは、主人公が、元柔道の選手で、という、ソフトなスポ根設定もきいているな。その加減もうまいなあ。。でも、松…

東京タラレバ娘 6

東京タラレバ娘(6) (Kissコミックス)作者: 東村アキコ出版社/メーカー: 講談社発売日: 2016/09/13メディア: Kindle版この商品を含むブログ (2件) を見るKEY、完全にヒーローになっている・・なんやかやいっても王子様降臨系物語だな。救いがなきゃ、…

雪花の虎 3

架空の人物かもしれない鬼小島弥太郎。「いた」方向での話の展開の方が面白い・・だからそっちの説で行く!っていうの、いい。東村さんの取捨選択の判断力、この女主人公、虎にうまく反映されている。雪花の虎 3 (ビッグコミックススペシャル)作者: 東村アキ…

付喪神

御伽草子の「付喪神」を町田康さんが思い切った文にしていてとてもわかりやすい。そして石黒亜矢子さんのコミカルだけど不気味な絵。中学生でも楽しめる感じかも・・このシリーズの他の本堀江敏幸×絵・MARUU「象の草子」 藤野可織×絵・水沢そら「木幡狐」 日…

てんまると家族絵日記 1,2

展覧会や挿絵で石黒亜矢子さんの絵が好きになって、いろいろ調べていたら伊藤潤二さんの奥様だと知り、つまり伊藤さんの描かれた家族でも一番人気の猫マンガ「よん&むー」*1に出てくる奥さんは石黒さんだったのね!と知った時の喜び! こちらの本は「よん&…

夜空に星のあるように

テレンス・スタンプ出演の「イギリスから来た男」*1に、若き彼が出演のこの映画の一場面が出てくるとのことで、みてみた。原題は「Poor Cow」。若年失業率の高そうな60年代後半のイギリス。泥棒でもするしかないかのような男と結婚し、男が投獄され、子供を…

ママゴト 1

twitter上で作者の松田洋子さんのtweetがリツィートで回ってきておもしろい趣味の方だなとフォローしたのが松田さんとの出会い。(松田洋子さんのtwitterはこちら)。でもタナダユキ監督の映画「赤い文化住宅の初子」*1の原作も松田さんらしく、その前から知…

ボリス絵日記

ヒグチユウコさんの絵に出会ったきっかけはヒグチさんのinstagramが載せてあったtwitterだったかな・・耽美的な毒を含んだ細密画風の作品と飼い猫ボリスや名久井直子さんの猫、小春、息子さんのぬいぐるみの猫、ニャンコをモデルにさらっと描いてあるコミカ…

芸能人寛容論

武田砂鉄さんに注目したのは、確か子どもが被害者のニュースで、被害者の親をよくも知らない人たちが責め始めたりしていやな空気になっているのをきちんと整理して書いておられる文章をみてから。それ以来、新聞などで署名記事があると注目してきたし、twitt…

豚鶏心中

負のエネルギーを源泉にファンタジーを紡ぐ男の物語。松井良彦監督は寺山修司との出会いがあり、この映画も天井桟敷館で長期上映をしていたよう。被差別がひとつのマグマになっているが、あくまでも徹底的に小さくて惨めな枠の中の主人公。背徳的なシーンが…

カルト村で生まれました。

この著者は、移動販売で卵や野菜などを売りに来て、「タダの祭り」というイベントのチラシなどを配っている有名なY内部で生まれ育った人。絵がかわいらしく、口調も柔らかでおもしろいので、読みやすいけれど、集団ってこわいなあという気持ちになる。自給自…

蕾の眺め

平田満の役回りに、日活ロマンポルノ版「蒲田行進曲」の趣きあり。 ものすごい豪華スタッフとキャストの日活ロマンポルノ。(田中登監督、早坂暁脚本、「蒲田行進曲」でいうところの「銀ちゃん」的存在としての佐藤浩市。ストリップの振付師に加藤嘉←ものす…

軍旗はためく下に

昭和47年のこの作品、今これだけのものが作れるだろうか?遠慮もなにもなくシャープに、そして、夫の死の真実をただ知りたい戦争未亡人の左幸子をうまく使って、ごく身近に、戦場ひいては人間同士の集まりの現実を共有できるようになっている。ずしんとき…

ビリィ★ザ★キッドの新しい夜明け

86年に公開ということだけど、アカデミズムをおしゃれに、あるいはおもしろおかしく扱ったりする流れ(栗本慎一郎の姿も懐かしい)やバブル崩壊以前のこわさ知らずな空気がとても漂っていて、香山リカの80年代の回想本*1を読んだときの、懐かしい、そして…

地球で一番幸せな場所

10歳ってなんてすてきな年齢なんだろう!姿かたちはまだ子供だけどその精神はかなり完結していて、透明で。この映画は私の大好きな10歳をじっくり味わえる。 舞台はベトナム ホーチミン。主人公の少女が出くわす射るような視線とか、こどもの世界の厳し…

不思議の国のアリス

サミー・デイビス・Jrのイモ虫、リンゴ・スターの海ガメもどきなど豪華は豪華なナンセンスミュージカル。それぞれが歌ったり踊ったりは楽しいし、意表をつくような画面なども楽しいのだけど、どこかテレビ映画だなと思うような間があり、不思議の国、鏡の国…

JR京都伊勢丹 世界の巨匠たちが子どもだったころ

オフィシャルページ子どものための本格的美術博物館として開館した、おかざき世界子ども美術博物館が所蔵するコレクションより、世界の有名美術家73人が10代に描いた作品118点を紹介。 私の好きな映画監督やイラストレーター、小さい時のノート*1や小…

手紙は憶えている

2015年アトム・エゴヤン監督作品。アメリカに潜伏しているナチスの残党を巡る話*1はいくつかみてきたが、これまた新しい。老人ホームに住んでいる90歳のゼヴ(狼を意味する)が、友人との復讐の約束を果たしに旅に出るというストーリーだけど、かなり健忘…

煙突の見える場所

東京の下町にお化け煙突という、見る場所によって本数が変わる煙突があって、それがみえる土手の近くに住む夫婦と下宿人、近所の人の物語。お化け煙突のみえかたが、映画の根幹になっている。戦後とはいえ、まだ戦争の影響も強そうな時代。現代よりも否応な…