デルス・ウザーラ

黒澤不遇の時代あたりに作られ、製作に苦労したような話も仄聞しており鑑賞が後回しに。

漫画家ヤマザキマリさんが息子さんにこの作品の主人公の「デルス」という名をつけておられることは知っていていつか観ようと思っていた。

Xでソ連のモスフィルムの映画の話をしていたとき、この映画の話題が出て、どうにもならなかったんだろうなと思ってしまうようなシーンもあれど、全体には素晴らしい映像も観られる名作ということだったので鑑賞。

とても誠実に作られており誠実すぎるゆえに観ているものをワクワクさせるような派手さには欠けているけれど、自然に敬意を持って生きるデルスの生き方を尊ぶ心は十分伝わった。そしてあとで作品の沿革を調べて、デルス・ウザーラは実在の人物だったことを知る。

デルスに敬意を持つ探検隊隊長や武装した彼の指揮下の人間たちをみているとジョン・フォードの映画のようなあたたかい気品を感じる。

人間が上、とかではなく、敬意をもって森と共生していくデルスの姿勢は石牟礼道子さんの著作に流れるものと共通するものが流れていると思う。

アカデミーの外国語映画賞なども受賞しているこの作品、なぜ自分はちょっとぱっとしないのではないかというようなイメージを持っていたのかな。代表作と挙げられるような作品の躍動感を期待してみた人の何か違うという気持ちがそういうイメージを醸成したのかな?

PERFECT DAYS

www.perfectdays-movie.jp

ヴィム・ヴェンダースが日本で撮った新作、褒め言葉、批判両方ないまぜの情報が先に入ってきて、それをつい意識しながらの鑑賞。

役所広司演じる平山は超ルーティン人間でまず親しみと尊敬の念。自分も日々の生活の反復を好んでいるけれど、外から帰ってきた時の玄関のカギ等の並べ方の厳密さ、出先で集めた小さな植物への水やりの手順などがもう徹底。芸術品のよう。小津安二郎的な美。

仕事に行く車の中ではカセットからの音楽。行く先はトイレ掃除、ただのごちゃごちゃと開発された東京の道でもすぐに構築できる自分の世界。ウォークマン発売の頃を思い出す。なので彼の城ともいえる車やカセットを蹂躙する柄本時生演じる同僚にえらく苛ついてしまう、仕事もええ加減だし。と、そのあと、柄本時生の悪くない一面がさりげなく描写されていたりしてあれっと気持ちいい。

劇場公開当時、巨大資本のからんだ美しいトイレが平山の掃除現場であることへの違和感を唱える方々もおられたが、逆にそんなに美しいトイレでもゴミが散らかっていたり、コロナ禍を体験した身には身近に感じる、平山がみつけ手をつないでいた迷子の母が息子と遭遇するなり息子の手を清めるために出すポケットティッシュなど、形だけきれいなことへの皮肉もちょっと感じられたりする。その反面、そんな都会的なトイレで起こるアナログ世界的な微笑ましいやりとりも描かれていたり、それぞれが一人でお昼を食べる、平山の好きな大きな木のある神社で、会釈したら怪訝な顔をされるという違和感、そしてその後なんかも織り込まれ多面的で面白い。

行きつけの古本屋店主犬山イヌコの声がいい。幸田文パトリシア・ハイスミスの話が出てきたり。

あと毎晩晩ごはんを食べに行く地下の飲み屋みたいなところもいい。日常っていいなってつくづく。

石川さゆりのスナックは、「秋刀魚の味*1岸田今日子のシーンを思わせた。彼女が歌う「朝日のあたる家」のアレンジの新鮮さ、平山がカセットで聴く音楽のセンスの良さ。石川さゆりのバーでそのあと遭遇する三浦友和のかっこよさや安藤玉恵のキャスティングも嬉しかったし日本語のセリフや構成がとても自然で良い仕事だなあと感じた。

姪とのくだりは「都会のアリス*2みたいだし、たしか終盤ぼやっと画面に映る赤い花はまた小津調。小津安二郎を自分の中に取り入れ咀嚼して現代日本を描くヴェンダースの映画にしている感じがとてもいい。ほんとヴェンダースが80年代日本で小津風景を探す「東京画」の熟成した続編みたいにも感じた。

と、ここまで書き、いい気持ちで公式ページをみにいったら、その洗練に少し「戦略」的なものも感じてしまい、ヴェンダースが利用されていると批判していた人の気持ちがちょっとわかるような気にもなってしまった・・でも映画ってそういうものかもだしな・・

ジャン・ポール・ゴルチエのファッション狂騒曲

gaultier-movie.jp

 

ゴルチエの人生がテーマの舞台レビューの製作過程を追いながらゴルチエを構成するアイテムを覗いていく趣向の作品

奇抜でケレン味あふれ、異形に惹かれる彼そのものを表すコスチューム。孤独な少年時代から女優へのあこがれ、同性パートナーとの出会い、マドンナとの仕事など、万華鏡的つくり。

「パリ、夜は眠らない。」*1で観たゲイたちのランウェイコンテスト、それに影響を受けたマドンナの楽曲「Vogue」のパフォーマンスに似た空気を舞台に感じたが、やはりマドンナと関わりがあったんだ。

ゴルチエがあこがれ、主演女優にレビューの中でゴルチエの祖母役を演じてもらった「偽れる装い」観てみたいと思った。高齢で日常生活のクオリティが下がってきてたと娘が語る彼女が本番でみせる煌めきに感服

 

偽れる装い(字幕版)

偽れる装い(字幕版)

  • レイモン・ルーロー
Amazon

 

 

洲崎パラダイス赤信号

 

1958年 川島雄三監督

20年ぶり*1に再見

初見時よりずっと印象がいい。「風景や情緒は味わえたが結構男女関係等どうしようもなかったような。。」なんて勝手な後味を持っていたが今回は爽やかで前向きな作品に感じる。出てくる人みんな好ましい。

三橋達也が仕方なしに働く蕎麦屋「だまされ屋」の先輩店員の小沢昭一、出てくるだけで面白い。なんてテンポが良くて面白いんだ。そこの女店員芦川いづみ。芦川さんを好きな人にXでたくさん出会い、確かになんと可憐な、と。

新珠三千代のやり手なこと。気持ちがいいし、最終的にはこれで良かった、って感じ。

新珠三千代が洲崎に降り立って働き始める飲み屋の女主人に轟夕起子。彼女の境遇に途中で少し変化があるのだが、その時身なりはもちろん表情まで違っていることに一緒に観た家族が感心しきり。部屋につぎはぎの仕切りがあるんだが、自分より上の戦中世代がパッチワークに対する偏見を持っていたことを思い出した。この映画内での使われ方みたいな印象だな。

脇の人たちの逸話が新珠ー三橋カップルのあったかもしれない形を思わせ、話が重層的になり面白い。ラスト近く街角で映る「男の争い」(55)のポスター。再出発をかけようとしつつしがらみにからみとられたりするあの物語とも交錯する。

どのカットも構図が決まっていて感嘆しきり。

こんな後味の良い映画だったか。。と驚いて幕。多分自分のものの捉え方の変化だろうな。

movies.kadokawa.co.jp

面白かった。

普段観ている時代劇のような標準語で品良く話すのでなく方言まるだしでやることもいうこともエグいエグい。ほんと「アウトレイジ」戦国版。極端な人物造形だがなるほどと唸らされるようなところ大いにありでとても楽しめる。武が演じる豊臣秀吉の、元々百性だから武士の考えることは何もわからん、みたいなスタンスが清々しいし、大森南朋演じる弟 秀長とのかけあいはテレビでみる武そのものなんだけど笑える。映画のキャリアを積んできて好きなようにやれているような。

確かに戦国時代は「アウトレイジ」的世界でもあるなあ。人を動員して命がけで騙したり騙されたり憎んだり。コミック「信長協奏曲*1で親しんでいる世界の人びとがえらい描かれ方しているけどこうかもしれないなあと思わせる力や説得力がある。楽しかった。

狂犬のようでありながらむなしさを体現している信長、すごい迫力でしょっぱなからトチ狂っててリリー・フランキー?にしては若い?なんて思っていたら加瀬亮。「アウトレイジ*2の静かなるインテリヤクザも良かったが、凶暴性を外に出しまくるのもイケるんだなあ。

曽呂利新左衛門演じる木村祐一、吉本のマチズモみたいなものをつい感じてしまって今まで避けて通ってきたが、役柄上もお笑いのものの持つ斜めからの洞察力が発揮され、きっと武が凄く描きたかったところを素晴らしく体現している。

「首」にまつわるエピソードをうまくまとめ壮大な仕掛けの落語のような味わい。

オフィシャルサイトでのメインを色々変えてのcm動画も面白い。

枯れ葉

kareha-movie.com

シャンソンの「枯葉」、子どもの頃よく聴く機会があったがしんみりしすぎていて苦手だった。

それが、それが。。アキ・カウリスマキの最新作「枯れ葉」の最後に流れるのを歌詞をみながら聴いていたらまさにまさに自分に向けられた歌としか思えなくなり本当に良さがわかった。もう青々しくはなくなった葉の枯れる前のほんの一瞬の輝き。この文章だけでは全く伝わらないが映画を観てからだと血肉となって刺さる。

全編監督の映画愛があふれ、静かなる構図の中の慎ましやかな人びとを観ていると小津安二郎や大勢の映画の先人の栄養を受け、それをもう独特の美しくもユーモアをまじえた表現に昇華させ現代の甘くない現実を映し出すこの人は同時代の宝だなあと思った。

今回も犬が素晴らしい働きを。そして犬につけられた名前に大いなるカウリスマキの想いを感じ、なんともいえない心地の良い空気に包まれた。

ナチュラルボーンチキン

www.audible.co.jp

金原ひとみ

良いタイトル。とんでもない根性なし、冒険なんかしたくない自分に向けられているような。。

主人公の超ルーティン人間ぶりが自分の肌にあって心地良いスタート。自分は日常を丁寧に描写してある事物が大好きで、そういうブログも好んで読んでいる。冒険したがらない主人公の振る舞いをすっと聴きこの主人公は自分だと思い込みながら聴く。

金原さんの本を読んだことないのに、なにかとってもエッジがきいて凡人には近寄りがたいハードなものと勝手に思い込んでいたが、ごくごく入りやすく気持ちもいれやすい。

中盤主人公の意外な本音発言(狭量と感じられるもの)が出てきて驚き、その瞬間首を傾げてしまったがその後彼女に起こったできごとを聞き及ぶにつれすべてが腑に落ちる。金原さん自身の境遇とは違う主人公の追い詰められた状態の描写が卓越していており、しかしながら使う比喩がとてもポップで飲み込みやすい。ところどころここまでポップにしなくてもいいと思うくらいではあるけれど。でもこのポップな表現でこそ金原さんであるとも思う。

傷つきたくないから距離をとったつきあいという現代風の知恵で生きていってる主人公に肉薄しどん底までみせての後半。表面だけ整えるのとは反対の人生の格闘をきちっと読者にみせ、それが重苦しいものでなく、ごく隣のあり得るできごととして読者の人生に届くように書かれている姿勢の真摯さにとても好感を抱く。