マグノリアの花たち、フクロウと子猫ちゃん

 ハーバート・ロス監督の作品を二つ観た。「マグノリアの花たち」(1989)と「フクロウと子猫ちゃん」(1970)。ダリル・ハンナ目当てで「マグノリアの花たち」の方を借り、その流れで「フクロウ~」も借りた感じだったかな・・

マグノリアの花たち」は、ポール・トーマス・アンダーソン監督の「マグノリア」(1999)と混乱しそうなタイトルだが、こちらの方が先。マグノリアwikipediaによるとアメリカ南部を象徴する花木だそうだ。南部ルイジアナの小さな町で生活する女たちの物語。南北戦争やらアメリカの「赤い州・青い州」などの事柄が頭に浮かび、また冒頭シーンも娘の結婚式に鳥のふんが落ちてきたら困るという理由だけでバンバン鳥撃ちなどしている父親や結婚式の手伝いに全然ならない男兄弟たちが出てきて、マッチョっぽいな・・と思っているところに、個性のキツいご近所さんとしてシャーリー・マクレインが登場し、後じさりしそうになったのだけど、女たちが集まる美容院の店主を演じるドリー・パートンの陽気なかわいらしさ、そこにおずおずやってくるダリル・ハンナへの愛おしさでなんとか映画に入り込んだ。

ジュリア・ロバーツ演じる娘シェルビーの結婚、出産、そして彼女の持っていた病が根底にあり、それにサリー・フィールド演じる母親がどう向き合うか、それを囲む周りの女たちという構造だ。それぞれ個性派ぞろいだけど、我が道を行くという感じで、デリカシーがあり(ないようにみえるマクレイン演じるご近所さんも結構気にしぃだったり)隣人のピンチをスーパーマンみたいに助けられるわけではないけれど、乗り越えるのを見守って少しでも助力になろうと思っている誠実さがあり、女性のつながりってこういうところがあるよなと親しみを感じながら鑑賞。

マグノリアの花たち (字幕版)

マグノリアの花たち (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 ジュリア・ロバーツの母でこの物語の主人公のサリー・フィールドは「ノーマ・レイ」で頑張っていた人だな・・

 

「フクロウと子猫ちゃん」

movies.yahoo.co.jp

こちらは一転してキュートなラブストーリー。バーブラ・ストライサンドがかわいくてテンポ良く面白くて!「追憶」のイメージしか持ってなかったものでとても新鮮。ファッションや1970年前後のNYの雰囲気もとても良い。 「ジョンとメリー」(1969)*1や「ハリーとトント」(1974)などに通じる感じ。

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重版出来  16

 

重版出来!(16) (ビッグコミックス)

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 今回ページ数が割かれていた刀剣本を出す話、専門的で面白かった。松田奈緒子さん、「レタスバーガープリーズ.ok,ok!」*1でも甲冑の話とかとても詳しくて、得意分野だもんな。コミックの中で刀剣を持つ忍者というコンセプトがあたって刀剣本を出そうということになるのだけど、最初に案の出た手軽に手にとれる簡単にまとめたものというアイデアを覆し、むしろ専門的で細部も配慮した他にないものを作るお話。自分の周りの趣味人をみていても、簡単にまとめた本よりむしろぎっちりして信用に足りるものを欲していると思うから説得力があった。「美の暴走機関車」と称される美術出版関係の賞をたくさん受賞している文化局の田部井さんと、その調整役である制作の吉沢さん。チームプレーの葛藤と喜びが丁寧に描かれていて楽しい。

また冒頭の女性誌の作家に主人公の働く青年誌での仕事を提案する話も、作家が円満離婚後実家に暮らし始める設定で、老親あるあるの描写が丁寧でこれも好感を持った。

松田さんの作品、いつも一方的でなく細やかで広い視点があり、楽しみにしている。

宇宙怪獣ドゴラ、ノーライフキング

久しぶりに再見した伊丹監督の「タンポポ」で中村伸郎さんの飄々とした姿がとても印象に残り(80年代に観た時も好きなシーンだったけれど、小津作品での中村さんを観てからだとなお一層楽しく)中村さんの活躍している作品を二本観た。

 

一本目は「宇宙怪獣ドゴラ」。

 

宇宙大怪獣 ドゴラ

宇宙大怪獣 ドゴラ

  • 発売日: 2014/07/01
  • メディア: Prime Video
 

 

参考にしたのは阿部十三さんという方が執筆されているこちら↓のサイト。 

www.hananoe.jp

阿部さんのサイトに書かれているように確かに映画の出来自体は「ん?」というところも多かった。ダイヤモンド窃盗団と炭素に反応する怪獣、それに筑豊の炭田をからませるという発想は面白い気もするのだけど、結局ばらばらで未消化な感じも。中村伸郎さんは活躍場面がとても多かった。理知的でシニカルな空気を味わえる。刑事を演じる夏木陽介氏も好ましい感じではあった。

 

もう一作観たのが、「ノーライフキング

eiga.com

 

あらすじだけ読んでいた時、「デジモンアドベンチャー」の映画版でみたような、デジタルで危機を乗り越える話かと思ったがそれは見かけ上のとっかかりのみで全然違うことを語っている映画だった。世の中が不安や噂話に支配されてしまう状況が今日的で驚く。中村伸郎氏の出番は少ないものの、とても重要な役回り。当事者を子どもにすることによってテーマに近寄りやすくなっている。そして、いつも感じるが、市川準監督の街や子どもの映し方も良い。今まで観てきた市川監督の作品の旧いものやはかなげな夢への愛着を感じられる空気*1が私は好きなのだけど、この映画も出始め新人類といわれた原作者いとうせいこうさんが提示する世界でも人間の行動って途中出てくるトレンドウォッチャー的なものに消費されるものではなく、その時その時みための形は変えてもおそれとかそこからどうするという判断とか根源的なものは時を超えて同じ不易なもので正解は出なくても歩き続けることが正解だと映像中心のまだるっこくないタッチで伝えているように思えた。

岸政彦さん

2010年12月の「100分de名著」でフランスの社会学者、ピエール・ブルデューの「ディスタンクシオン」が取り上げられた。解説者は社会学者の岸政彦さん。

www.nhk.or.jp

 

先日その4回目を見返していて、分断化された社会の中で他者に対して、やたら持ち上げ同化してしまうのでもなく、もちろん見下すでもなく、とりあえず他者の話を聞き、その現状をみつめること、どういう事情があっての今なのか、「入口まで一緒に行こうよ」という考え方、そこからのスタートという話をされているのが印象に残った。岸さん自身が沖縄での聞き取り調査の時に自分の意見を持ちながらも相手の立場も理解するというスタンスでしようとされているし、共著なども出しておられる打越正行さんも「ヤンキーと地元」という著書を特殊な面白いみせものとしてまとめるのでなく、もっと寄り添い相手のバックボーンを聞きとり、そうやって生活してきた中での今という見つめ方をちゃんとした人間関係の中で作っていかれた話をされていた。

 

ヤンキーと地元 (単行本)

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  • 作者:打越 正行
  • 発売日: 2019/03/23
  • メディア: 単行本
 

 

そうであることがその人にとっては当たり前という現状をまず把握するスタンス。きかれた相手も客観性をもって自分をとらえられたことによりみえてくるものがあるという話。たとえとしてイッセー尾形さんの芝居での表現という話も出ていた。確かに、自分もみていて、イッセーさんの芝居の中に出てくる人の滑稽さに身につまされることもあるし、冬にTVでみたイッセーさんがブラジル移民の人の多い団地でブラジル移民と日本人の関りを演じた「わたしたちはガイジンじゃない」でも、それを感じた。たとえばゴミの捨て方の問題のトラブルなどからお互いこういうところあったよね、と笑いながらみつめなおせるようなところ。だからとにかくしっかり相手をみてそこが入口だというような話。

 

www6.nhk.or.jp

 

80年代から90年代のなんでも面白がればいいという風潮なども痛みを伴いながら思い出したりもした。イッセーさんの芝居の時のような、自分もそういうところあるよね、という面白がり方ではなく、珍獣を見つめるような視点。

岸さんの話をきいていて頭に浮かんだのは最近好きになって作品を追っかけているダルデンヌ兄弟の映画。いつも良い悪いじゃなく主人公の置かれた現実をまずみつめ寄り添うところから始まる。「イゴールの約束」*1の不法移民を搾取している親の子どもでやはりその仕事に加担しているイゴールの話、アル中の母親と暮らし施しは受けたくなくどんな手段を使っても仕事を手に入れたい「ロゼッタ*2、先日観た「少年と自転車」でも養護施設で暮らし、父親に会うことを面倒くさがられている少年が優しい里親を裏切って町で自分を受け入れてくれた年嵩のワルに引っ張られてしまうその心情がとてもわかる感じで描かれていた。少年の行動が是ではないけれど、そりゃひきつけられてしまうわなと。少年の犯した罪と赦しと報復、周りの苦しみいうことが不必要なドラマチックな盛り上げとともにではなく、日常と地続きのタッチで描かれ、それぞれの立場が簡潔かつ的確に描かれ単純な善人など存在しない見ごたえのある作品だった。

少年と自転車(字幕版)

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  • 発売日: 2015/04/01
  • メディア: Prime Video
 

 

続けて岸政彦さんと柴崎友香さんの共著「大阪」の話も書こうと思ったけれど長くなるのでそれはまた別に・・(書けたら)

岸さんと沖縄ということで検索していたら出て来たこの著書

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森崎東版の映画「野良犬」*3を思い出す。

女の花道、風流深川唄

 美空ひばり氏のことは生前ちょっと苦手で、興味のある映画でも「ひばりさん主演か・・」と後回しにしがちだった自分なんだけど、みたらみたでよくできていて楽しめる。ちょっとずつ脱感作方式で観ていこう。

今回観たのはいずれも川口松太郎氏原作×美空ひばり氏主演の二作品。

女の花道 [DVD]

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  • 発売日: 2005/03/25
  • メディア: DVD
 

 

風流深川唄 [VHS]

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  • 発売日: 1995/12/08
  • メディア: VHS
 

 「女の花道」は1971年、「風流深川唄」は1960年と10年の開きがあり、「女の花道」の方はずいぶん若い小娘時代から演じているもののえらい風格が漂っている。時々ひばり氏が岡田茉莉子氏にみえる。かなり違うカテゴリーのお二人だと思うが・・「風流~」の方は割合可憐な感じで、鶴田浩二氏との恋愛話が自然にみえる。

両方に杉村春子氏が出演しているのだけど、「女の花道」の踊りのお師匠さんの威厳ある空気の凄いこと。ほれぼれした。ひばり演じる出雲の勧進巫女おきみを取り立てた時の、元からいる弟子たちの僻みを制する「ここに自分の弟子として存在する人間に才能のないものはいない、才能が熟する時間が違うだけだ」という意味の言葉、さすが芸道ものの川口松太郎氏原作だ。

勧進巫女という存在にも興味を持った。

田村高廣氏が超やさ男な歌舞伎の振付師。その姉のいけずな京都弁、堂に入っていた。

田村高廣が入りびたりになる芸妓さんに野川由美子氏。なかなかいい感じ。がんばりすぎる妻に対応しての配置、よいと思う。

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美空ひばり芸能生活25周年記念映画ということで、彼女のための書き下ろし作品らしいが、確かにひばり氏の人生をほのめかすような筋書きになっている。沢島忠監督作品。1950年代終わりごろから1960年代初頭の沢島監督作品でかわいらしく大活躍*1中村嘉葎雄氏が、ちょっと落ち着いた雰囲気で登場。

 

「風流深川唄」は山村聰氏の監督作品で、出演も。深川のお祭りの描写が古の屋台のだしものなど生き生きしていてとても楽しいし、料亭を商うひばりのおとっつあんの粋筋の彼女、山田五十鈴氏もとても魅力的。深川ってこういう空気なんだろうなと伝わってくる。宮口精二氏が鶴田浩二氏の兄貴分的な板前なのだが、これがまた苦労を知っているいぶし銀な感じでとてもいい。宮口氏、ホワイトカラー役も職人役も現場の刑事役も・・何を演じてもサマになるなあ。

メインの話はひばり、鶴田浩二氏の悲恋ものみたいな話でまあそれはどちらでもよい感じだったかな・・鶴田氏もちょい苦手なもので・・

醜聞

 

<あの頃映画> 醜聞(スキャンダル) [DVD]

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  • 発売日: 2013/01/30
  • メディア: DVD
 

 志村喬さんが、「生きる」よりこちらでの役の方が好きだ、というような発言をされたときき、拝見。なんともさえない弁護士っぷりが炸裂。古い法服姿で法廷に現れて嘲笑されたり、とことんな「この人大丈夫?」感、20世紀の終わりにカルト集団の弁護人として現れたあの人の姿が脳裏でちらつく。

そして・・なストーリー、締めくくりの三船敏郎の台詞がいい!思わずもらい泣き。

酒場でのクリスマスシーンでは「どん底*1に引き続き(って単なる自分の観た順番。「醜聞」は1950年、「どん底」は1957年の作品。)左卜全氏がまたまた汚れた天使のような雰囲気。

山口淑子さんを映画で観たのはじめてかも。ぱっと目をひく華やかな美しさ。

志村喬氏のエンジェルのような娘役 桂木洋子さん。ぴったり。彼女の夢をみてのうわごとを本人が演じるのでなく、志村喬氏にいわせる表現よいと思う。なにもかも映さないほうがいい、省けるところは省くのがベスト、と最近映画を観ていてよく思う。

注目したのは

f:id:ponyman:20210429193503j:plain千石規子さん

そして、

f:id:ponyman:20210429193923j:plain北林谷栄さん。

お二人とも昭和後期には老け役をよくされていた印象だけど、千石さんの若々しさに驚いた。(山口淑子の引き立て役みたいな部分もあったが・・)

北林さん 1911年生まれ 千石さん 1922年生まれで11歳違いか・・ そして、昭和の終わりごろにお二人と並んでおばあさん役をよくされていた浦辺粂子さんは1902年生まれ。千石さんとは20年も年の差があったんだ・・

最後心配になったのは、これはありもしない熱愛報道に三船敏郎山口淑子が闘う話だが、共同戦線を組んでいるうちに二人にラブロマンス的な空気が漂っていそうだけど、それはいいのだろうかということ。

三井弘次のゴシップ新聞のカメラマンぶり リアルだった。

二十四の瞳

 

木下惠介生誕100年 「二十四の瞳」 [DVD]

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「観た気になってしまうともったいない映画」と映画人である先輩のK様に教えていただき急いで鑑賞。

小学生の時原作を読み、冒頭のかわいらしい感じが途中から戦争を経て胸苦しくなり思ったより辛い話だった・・という印象を持ち、映画も観ないでここまで来ていた。

原作で記憶にあるのは、戦争を経て「二十四」の瞳ではなくなること、そのことに寂しさ厳しさを覚えていただけだったのだけど、還暦近くなって映画を観て、この話の始まりが昭和三年、自分の母が一歳の時からスタートすることに気がつき、こんなモダンな先生も島の学校に存在するような世相だったのに、時代が進むにつれ教え子が戦死するのは嫌だというような今きいたら至極当たり前の発言をしてもにらまれるようになり、教師一同委縮するようになって・・と、父母のアルバムを見ているような気持ちの鑑賞になった。

木下恵介作品、理想だけじゃなくて生活を回していくことへの視点がある気がする。「この子を残して」*1でも、永井博士の生活を支えたお姑さんの描写が心に残ったし、「楢山節考*2でも、田中絹代演じるおりんおばあさんの生活技術の確かさに目がいった。さらにはテレビ木下恵介アワーの「三人家族」でも、男所帯で家事を引き受ける弟あおい輝彦の様子がとてもきちんと描かれいてると思っている。この映画でも、それぞれの生徒の事情というものがとても丁寧に描写されていて、家を支えるために学業や才能を犠牲にせざるを得ない、でもそうやって生きていく姿を、みているものが同級生感覚で見守るようなつくりになっていた。苦労なしの人生なんか誰もない、それを幼い時のように苦く感じるのでなく、そういってもらってありがたい、みたいな気持ちになって鑑賞した。生徒たちが必死で見舞いに行った大石先生のおうちのきつねうどんのシーンのあり方もすばらしかった。

二十四の瞳」、青空文庫で原作が読めるようになっている。(こちら)。映画で笠智衆が演じていたおとこ先生、原作でも面白い味わい。映画をみてからだとさらに楽しめる。わたしが小学校の時好きだった言い回し「ぴくに行く」(ピクニックの意で使われる)も再確認でき嬉しかった。

そうそう映画で大石先生の夫は天本英世氏。「仮面ライダー」の死神博士で認識し始め、その後スペインへの造詣の深さなどから畏敬の念を持つようになった俳優さん。

www2.nhk.or.jp