八月の御所グラウンド

またまたオーディブル

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「十二月の都大路上下ル」」

「八月の御所グラウンド」の二篇が収録されている。

 

注意散漫なものだから、二篇になっていることに気づかず、最初に出て来た「十二月〜」の駅伝ランナーは野球の話と最後どう繋がるのか?などと思いながら聴いてしまった。けれど両方京都が舞台の面白く微笑ましく、そして気持ちをぐっと掴まれる作品だった。

特に「八月の〜」、あらすじだけ目にした時は京都版「フィールド・オブ・ドリームス*1か。。なんて思っていたのだけど、「フィールド〜」と同じく歴史上の野球選手が。。という話だが、その歴史がより身近でよりぐっとくる。野球の試合の描写もうまく、野球に興味のない自分もひきこまれた。中国からの女子留学生の配置がうまい。「鴨川ホルモー*2でも色気のない女の子をすっごく魅力的に描いていたな。「鴨川〜」にも出てきた居酒屋が出てきて、あの夢のような青春はずっとずっと続いているのかと思わされた。

裸足の伯爵夫人

 

裸足の伯爵夫人

裸足の伯爵夫人

  • Humphrey Bogart
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ズボラ心から父の帰宅時上り框を履物も履かずに裸足で飛び降り応対したら「おっと〚裸足の伯爵夫人〛か。。」なんて呟かれたことがあった。

その呟きの元ネタを知りたい、ただその気持ちでこの映画を鑑賞。

俗物の金持ちが品を変え登場する中、最後に現れる彼女の最後の相手「伯爵」。映画界からのシンデレラガール物語ということで、グレース・ケリーのことが頭にちらついたが、失礼な連想だろうな。グレース・ケリーの結婚より前の作品だし。

出てくる人出てくる人深みがなくてわかりやすすぎておかしくなってしまう。一番深みのある意見をいうのは伯爵の姉かな。話の筋は結構面白く冒頭ハンフリー・ボガートエヴァ・ガードナーに出会うあたりは惹き込まれたのにそのあと一つ一つの出来事が薄い調子で次々と出てきてしまい、今ひとつ入り込めない難も。語り手のハンフリー・ボガードがいないシーンのつなぎ方に「今現在の語り手は誰?」となったりみていてこちらの気持ちが散ってしまうところも。

クロード・シャブロルなんかみたいにもうちょっと辛辣に心理劇をエグく描いた方が面白かったのではないかな。

エヴァ・ガードナーの美しさは堪能した。

スープとイデオロギー

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ヤン・ヨンヒ監督 2021年の作品

「ディア・ピョンヤン*1「愛しきソナ」*2では北朝鮮に渡った兄の家族とそれを日本から支えるヤン監督のご両親のことが中心だったが、一作目「ディア・ピョンヤン」が問題になりヤン監督自身北朝鮮渡航が許されなくなってのこの三作目は、大阪鶴橋にいる老いた母と監督、彼女の日本人パートナーを映している。

物語の中でも衰えが進むお母さん、自分自身や夫の家族のことと結びつけて観る。

これは、なぜ済州島出身のお母さんが北朝鮮に肩入れし、息子たち二人を帰国事業の時に北朝鮮に送ったのかその理由に監督がたどり着く物語である。

第二次世界大戦朝鮮半島が分断されることがすすめられていた頃起きた済州島四・三事件という島民の虐殺事件のことを私はこの映画を観るまで知らなかった。済州島に赴き、話をきき、事件のことを間近に感じる監督。この事件以来母は大韓民国をとことん信じられなくなり、息子たちを北朝鮮に送り、北のために尽くしてきたんだろうなという推測に至る監督。私も納得がいった。

厳しい歴史の部分をアニメーションで表現しているのが良い。みやすい表現方法をいつも探って選ぶ監督の仕事の仕方が好きだ。

愛しきソナ

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先日観た「ディア・ピョンヤン*1(2005)から6年後、2011年のヤン・ヨンヒ監督作品

「ディア・ピョンヤン」、北朝鮮の暮らしが映し出され、北朝鮮の体制についていけない気持ちはにじんでいたものの、とりたて扇動的とはみえなかったのだが、北朝鮮では問題となり、監督は北朝鮮渡航できなくなったそう。

この作品もベースは家族に置き、次兄の娘ソナを中心に据えつつ、監督が北朝鮮渡航可能だった間は現地撮影で、その後は写真などで親族の様子を中心に綴っている。幼児のソナが久しぶりの親族から構い倒されている時に浮かべる表情はまさに私の孫が浮かべる顔つきにそっくり。中で鑑賞したことはないピョンヤンの劇場で、カメラを止めてといって、叔母である監督が普段観ているものをきいて、話をきくだけで楽しいといってる思春期のソナや大学の英文科に進んだと英語での手紙をくれる彼女、そしてクラシック音楽を愛しベートーベンを弾くその従兄弟の姿からは、統制されたパレードなどからつい思い浮かんでしまう心の中まで統制されてしまっているのだろうかという憶測は見当違いなんだろうなと気付かされる。

今回の作品には日本の北朝鮮拉致被害者の問題を扱うワイドショーを見る朝鮮総連幹部の父の姿も。はじめは北朝鮮側の主張を代弁していた父だったが、娘である監督に詰められ、北朝鮮の主張を繰り返すことはやめる。

自分が信じていた組織体が当初思っていた夢のような場所ではないことがわかりつつも口にすることはできない複雑な思いが、訪朝している彼の姿にも滲む。そのことは北朝鮮に限った話でなく普遍的で、そこにぐっとくる。自分とは関係ない特殊な世界の話で終わらせないところにこの作品のすばらしさを感じる。

細雪 (市川崑 83)

 

市川崑バージョン「細雪」を40年ぶりに鑑賞。当時から着物の美しさを褒める声を時々きいていたが、提供の三松って街でやたらみかけるお店だよなと聞き流していた。。が、今見ると着物、美しいと思う。

市川崑らしい禍々しさが画面に込めてあったりして久しぶりにみるとこれはこれでの面白さを感じる。コントラストつけすぎでしょ、とか言いながらの鑑賞が楽しい。原作を読んだばかりの夫によると、原作はあたかも京都的な持って回った物言いが売りで*1、この市川版の直接的な言葉の応酬の対決は原作とは随分違うなとのこと。

80年代に観た時も、石坂浩二演じる次女の夫貞之助の、三女への想いに「?」となったが今回も際立っていた。三女以外の女性にもなんで?という描写もあり。雪子が大人しく見えて着替えを男性に見られるの平気、みたいな、なんかちょっと全体的に食えない感じと結びつけてあるのは面白かった。それこそ当てこすり表現ぽくて。

三宅邦子の名前を冒頭にみて楽しみにしていたが旧弊な叔母さん役だった。登場シーンの、時代を体現したような空気は素晴らしかった。

四女役古手川祐子すごく魅力的。ラスト近く、工場地帯での彼女の服装と町の色合いが思わぬ美しさ。

あと、仙道敦子が三女の見合い相手の娘役として楚々とした女学生姿。新鮮。14歳くらいだったよう。

白石加代子がさらりと酒場のお内儀役で出てきて、贅沢な使いようというか、この時代はこんな感じなのか、とか色々思った。

*1:船場はそういう文化とか?

サラバ!(audible)

オーディブル西加奈子直木賞受賞作「サラバ!」を。

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全3巻だけどイラン、エジプト、日本と場所を変え紡がれる家族の物語は魅力があり描写力に優れ一気に聴かせる。男前に生まれつき、個性の強い姉や母の陰で大人しく生きる主人公は松坂桃李の声にぴったり。

主人公の語り口を聴いていると特に後半物語がいよいよの坂道を下る時太宰治の作品に通じるものを感じた。まさにまさに自意識過剰からの物語。どういう風に振る舞うのが正解?と年中惑っている自分に力を与えてくれた。

ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい

 

普段旧い映画中心に鑑賞しているが現代に作られたものも気持ちにさっと寄り添ってくれて良いなあ。

大学のぬいぐるみ好きのサークル「ぬいサー」。京都の大学に入学したばかりの新入生として主人公たちが訪れた時は作る方というより、人がぬいぐるみに話しかけるのがメインの、わかりやすさを求める外部の人に説明するのが難しいようなサークル。最初は、なんだか凄いな、と思っていた主人公たちもそこに落ち着き。。ちょっとほんとに心配になっちゃうような部員もいたけれど、自分の問題を解決する手段と割り切っていて外の社会に繋がるのが困難ではなさそうな部員もいる。冒頭から主人公はごくニュートラルで寄り添える。

ぬいぐるみとしゃべる人は人に打ち明け話をして、聞かされた相手が背負い込むのを申し訳なく思う優しさから?(時間的にはそうだろうな)、話しても理解してもらえないのが虚しいし傷つくから?(自分はこっちだなあ)。

傷つきやすくて他人の痛みが自分の痛みになりきってしまう優しい登場人物。そこまでなりきれない自分の不純を責められているような気持ちにさえなる。大学という特別の時間らしさもあり胸が詰まる。

一人ぬいぐるみに話しかけない、さめた感じの、でも敵対しているわけではない語り手を配置しているのがうまいし、自分にとっても救いになる。優しすぎる主人公たちが心配になりそこまで至れない自分を責めそうになるから。