配信名画座

12月に入って娘の家に育児手伝いに。隙をみて配信鑑賞。

1. 「雨」

 

ふや町映画タウンのおすすめ☆

サマセット・モームの原作はミッション系スクールの真面目中高生時代に読んでいた。公立小学校からミッション系スクールに行ってはじめてのキリスト教文化に南蛮文化到来みたいにくらくらしていた頃、私にこの作品の話をしたのは皮肉屋の父だったか?

筋は知っているのでストーリーを追って衝撃を受けるということはないけれど、どこからあの展開になるのかという観察めいた楽しさあり。絶対者の話を扱っているうちに自分が絶対者みたいな錯覚を犯してしまう人たちの姿。宗教の世界のことだけではないな。

ジョーン・クロフォードの熱演。大変魅力的。彼女の牽引力なしには成立しない作品。とても迫力があったもので「何がジェーンに起こったか」ではイジメ役だったか?とか錯覚を起こし調べたらおとなしいお姉さんの方の役だった。衝撃的だった途中のやりとりばかり印象に残っていたが筋を再読したらもう一回観たくなる。

この作品を観た直後は皮肉な展開にさもありなんという感じだったが、ゆっくり噛みしめると最後のジョーン・クロフォードの振る舞いは魂の救済を奪われたもののやけくその悲しみの姿のようにも思えてきた。

 

2.「極楽特急

 

エルンスト・ルビッチ監督。

富豪未亡人と泥棒カップルという日常とはかけ離れたお話たけどクリスマスシーズンに観ると祝祭感があって楽しめた。音楽も良い。未亡人はお金使いまくる役なのだけどどこか清潔な魅力も感じてしまう。ケイ・フランシスという女優さんだそうだ。

未亡人への求婚者二人の鍔競り合いからの空気が面白い。ルビッチ監督「ニノチカ」でもおじさんたちの描写面白かった記憶。名匠の手堅いお料理をごちそうになったような充実感。

人間の約束

 

1986年 吉田喜重監督作品。

黒澤監督の「八月の狂詩曲*1で、おばあさん役を演じた村瀬幸子さんの迫力が素晴らしく、こちらにも出ておられることは突き止めていたのだけど、介護がテーマのこの作品、思い切りがいり、とっかかりに時間がかかった。

吉田喜重監督の訃報にふれ、今が観るべきタイミングと鑑賞。

老いていく側の気持ち、尊厳がきちんと描かれ、いやな感じが全然しなかった。これとくらべると1985年の伊藤俊也監督の「花いちもんめ」*2とか明るいのだけどちょっと見世物っぽいつくりに感じてしまう。

寝たきりになって認知症も進んでいる村瀬さんの、はじらいの表現のデリケートさ。本人も多少衰えはじめているものの、妻の人生を引き受けようとしている三國連太郎のぼろぼろの姿の気高さ。がっちりしている三國さんならではの表現もあり、打たれた。

三世代同居世帯で、杉本哲太演じる孫の言葉が、若さゆえの、古いもの小バカにして全否定という感じで遠慮がなさすぎ、ムカっとしつつも、「個人で引き受ける限界を超えている。社会で面倒見なきゃ」という言葉はまさにその通り。精神論でひとつの家族でしょいこんでいいものでは決してない。介護保険の世の中だからすんなり入ってくる概念かもだが・・

老人病院の描写がこんなところに入りたくないなという気持ちになるだけのものだったりはちょっとな、なんだが、80年代だしな。平気で週刊誌の惹句とかに「介護地獄」とかいう煽り立てるような言葉が並んでいた時代だし。「ペコロスの母に会いに行く*3のような社会で見守る方向でのあたたかい展望という域にはまだ至ってなく、介護にまつわることが深刻に受け止める種類のものとして描かれていた。それを考えると昨年の宮藤官九郎のドラマ「俺の家の話」などは、介護される側の尊厳も描き、それに困らされている家族の気持ちも引き受けつつの面白い秀逸な物語だったな。

 

村瀬幸子の長男役河原崎長一郎の現実逃避も80年代的で、女の立場で今みると、育児が面倒だから会社の帰りを遅くしている男性みたいで腹立たしいものがあった。結構都合のいい浮気してたりして。でも母の衰えを直視するのがつらいんだな。そして、母の身に起こっていることはいずれ自分にもと思えばこその悪あがきなんだろうな。

そんなこんなこっちの時代感覚の変化も手伝って多少もやもやするところはありつつも(といってもあれはあれで現代でも通じる一面を描いている。現代でも結局理想と現実は違っていて、人間の心はそう変わらない部分だらけだから)村瀬知子と三國連太郎の姿は人生の先輩として圧巻だったし、それぞれの登場人物の心もいらいらするところはありつつも理解はできたりで大層ひき込まれる作品だった。

若山富三郎の初老刑事がいい味。若山さんは「王手」*4とかこちらとか枯れてからの作品の姿に惹かれる。(といっても享年62歳とのことで自分の年齢に近いことに驚きと焦りを覚える。)

三國連太郎佐藤浩市の並ぶシーンもいろいろあった親子ときいているだけにちょっと嬉しい。

敵、ある愛の物語

 

敵,ある愛の物語 [VHS]

敵,ある愛の物語 [VHS]

  • 20世紀 フォックス ホーム エンターテイメント
Amazon

1989年ポール・マザースキー監督。

第二次世界大戦後収容所から出てきたユダヤ人の男。妻子が殺されたと思い、命を救ってくれたポーランド人の元使用人と結婚。。しながらも愛人のところに足繁く通っていたら元妻が生還してきた。。どうする?というストーリー。

ほんとどうしようもないんだけど、途中元妻アンジェリカ・ヒューストンに看破されてしまうようにどれも切り捨てられないうちにこういうことになる、「決められない人」で、こういうことってままあると思う。男女関係においてではないが、自分がまさにソレで、どう決着つけるのかと他人事ではない気持ちで見守った。

愛人役のレナ・オリンの持つ恋の楽しさ、元使用人だったポーランド人の妻の素朴な無邪気さ、それぞれに後ろ髪ひかれ、関係を切ることができない。元妻との間は収容所に連れていかれる前は子どもも二人いて順調で「戦友」ともいえるような間柄なのだと端々の空気でわからせる。感動作の体裁ではないが、ないからこそ、戦争の傷痕を日常レベルで感じさせてくれる。ユーモアさえ漂う自分や身近な隣人のスケッチとして。

ポール・マザースキー、遥か前に猫と暮らす老人のストーリー「ハリーとトント」を観たが、観る前に予想していたかわいらしいだけのものでなく、かなりペーソスの度合いも強く、寂しい気持ちになったことを思い出す。初老になった今みたらもっと身につまされそうでもありもっと共感しそうでもあり。

主人公の男、ダブルスタンダードだったりでひどいと思うこともあるんだけどこういうものだよな。ラストまで観てタイトルの意味がじんわり。にんまり。

この映画は淀川長治さんの「淀川長治のシネマトーク*1に「コニーアイランドが舞台の良質コメディ」と紹介されていて観てみたのだけど、コニー・アイランドの空気、それぞれの女との様々な空間での様子はリアルでもあり美しくもあり面白かった。退屈させずに観させる。

「スター伝説」、「ファイヤー・ドラゴン」

ふや町映画タウンのオーナーと香港映画も好きな常連さんの間では、香港映画の3代巨匠はジョニー・トー、ウエン・ユーピン、ジェフ・ラウということになっているらしい。私もジョニー・トーについてはこの秋ふや町映画タウンのおすすめ印のついている「ザ・ミッション」*1と「暗戦 デッドエンド」*2を観たのが香港映画に開眼するきっかけになったし、先述の常連さんもやはりその二本が決め手になったらしい。で、とりあえずおすすめ印に従って観てみるのがいいかなということで、ジェフ・ラウ監督の「スター伝説」(1993)とウエン・ユーピン監督の「ファイヤー・ドラゴン」(1994)を鑑賞。

ジェフ・ラウ監督は「バンパイア・コップ」*3というお盆に警察で吸血鬼騒ぎという昭和期に香港映画というと思い浮かべるような作品を先日観たところだったのだけど「スター伝説」は全く趣きが違った。

ビデオジャケット表紙から想像するようなちょっと素っ頓狂なような作品でなく、60年代のノスタルジックな風景が美しい、良質の台湾映画を観ているような風合い。そこに香港特有のドラマチックさが加味。香港映画を観ているとキュンとするロマンチックな表現がとてもうまく、なぜだろうと思うのだけど、女優男優ともに振り切っていてこっちはもう引っ張られるまま作品に没入できるからだろうか?とにかく、このお話も「ロミオとジュリエット」ばりの悲恋がなぜかオリジナルよりずっとまっすぐこっちの胸に響いてしまった。その物語を探る娘という設定もとてもよく、気持ちよくすっきり心に入ってくる物語。主人公のアンディ・ラウ、「暗戦」でストイックで切なくてクールなのに血の通う雰囲気で観ているものの気持ちをすっとつかんでくれたが、この映画でもやさぐれの純愛をうまく体現。魅力的だった。

「ファイヤー・ドラゴン」はユエン・ウーピン監督作品。ウォン・カーウァイの「恋する惑星」で金髪の麻薬の売人を演じていたブリジット・リンが主役。かっこいい涼しい顔!すごい身の動き。以前はワイヤーアクションを多用する作品のこと好きではなかったが、この作品では飛んできたーという感じがテンポよく面白く感じた。香港の女優さんのアクションからしっとりまでこなす感じ、いつも気持ちがいいし感嘆する。日本映画での女優の役割とだいぶ違う。本当新鮮で気持ちよい。

政界の陰謀の裏で活躍する忍者みたいな話だが、雑技団を絡ませてあるところが観ていて楽しいし面白いつくりに。真剣な闘いに端役の息抜き的な面白さをまぜて緩急つけるところ、文楽とも通じるものを感じた。ラストもべったりしていず、「シェーン」みたいな爽やかさ。

「ゴット・ギャンブラー」 シリーズ

ふや町映画タウンの大森さんによると香港映画というのは、一つ当たったら同監督、別監督に関わらずどんどんいろんなパターンの続編が作られる世界であるらしい。「ゴッド・ギャンブラー」も枚挙にいとまないほどその名を冠した作品が多いようだ。

「ゴッド・ギャンブラー」(1989)「ゴッド・ギャンブラー完結編」(1994)が同じ監督、主演による一応正編、続編になっていて、

 

そのあと、同じバリー・ウオン監督で作られた前日譚「ゴッド・ギャンブラー 賭神伝説」(1996)がふや町映画タウンのおすすめになっていたもので、三作続けて鑑賞。

 

「ゴッド・ギャンブラー」と完結編は、チョウ・ユンファ主演。「賭神伝説」はゴッド・ギャンブラーが地位を築くまでの若き日の話で主人公はレオン・ライチョウ・ユンファはちらっとだけ出てくる。(それがなかなかよい感じだった。)

正編と続編の5年の間にチョウ・ユンファも太ってそれがネタにもなっている。続編は最初フランスが舞台になったり世界移動してみたり、船が出て来たりえらく豪華になっているけれど、ばかばかしいすれすれのギャグも健在で嬉しくなる。基本ハリウッド映画みたいにかっこよくなりすぎなく、作品内で自分でつっこみをいれるようなバランスが逆にかっこいい。

このシリーズを観ていると、ひとつの題材が当たったらどんどん派生作品を作るところ、意外過ぎるくらいの展開+笑わせ力+アクション+なんでもとりいれる、もらってくる*1ということで、江戸時代の歌舞伎っぽいなあと思う。

あと香港映画、片思いだったり成就されなかったりする恋愛話になんともいえないキュンとした気分になるものが多く「恋愛話がからむと退屈。。」と日ごろ思っている自分がなぜか本当に良い気持ちになることがしばしばなんだけど、その使い方、加減がよくわかってるってことかな。「ゴッド・ギャンブラー 完結編」でも、「賭神伝説」でもかわいいねえ、応援したくなるね、となった。「賭神伝説」でそんな存在だったアニタ・ユンは、「君さえいれば 金枝玉葉*2でも中性的なかわいらしさがあったなあ。

第一作目は「暗戦 デッドエンド」*3で大好きになったアンディ・ラウがチンピラ役で出てくる。軽妙できれが良い。さすが。そして、チャウ・シンチー映画によく登場するン・マンタが微妙な中年悪役として出てくる。

なんだかお若い。そして嬉しい。

「賭神伝説」は香港の街並みのさらっとした撮影、芝居芝居してない描写もさしはさまれ、終始「料理の鉄人」的な正編・完結編にくらべモダンを感じさせたりもした。

*1:数限りない引用があると思うのだが、「ゴッド・ギャンブラー」でのわざわざの「戦艦ポチョムキン」シーン(←未見なのに知ってる)とか盛りだくさんでがんばってるなあと・・

*2:君さえいれば 金枝玉葉 - 日常整理日誌

*3:暗戦 デッドエンド - 日常整理日誌

デリンジャー

 

1973年 ジョン・ミリアス監督作品。

ふや町映画タウンのおすすめというだけで、予備知識なしに鑑賞。

1930年代に実在した銀行ギャング、ジョン・デリンジャーを描いたもの。ジョニー・デップが2009年に演じた「パブリック・エネミーズ」も同じ人物が主人公らしい。

ジョン・ミリアス監督についてwikipediaには

アメリカン・ニューシネマ文化の底流を引き継いだ叙事詩的かつアクション性を採り入れた大作が多い。

と書かれているが、確かに銃撃戦に次ぐ銃撃戦ではあるのだが、記録映画ぽいストイックさがあり派手すぎないし、FBIとの闘いを面白く描くところや田舎の父とのやりとりなど非情なばかりの人間ではない側面*1などにアメリカン・ニューシネマっぽい精神も感じた。

ジョン・ミリアス監督、「ビッグ・ウェンズデー」*2も名前が先行していたもので勝手に能天気なサーフィン映画かと思いきや、落ち着いて苦みもあるサーファーの映画で驚いたことがあったけれど、ミリアス監督についてのwikipediaにもあるように描いているのは時代そのものだったのかもしれない。

デリンジャー」でもFBIとギャングとの闘いの歴史のドキュメンタリー的な紹介があり、「Gメン」という名前の発生の説明など興味深いし、チャップリンを執拗につけ狙いアメリカに住めなくしたFBI長官 J・エドガー・フーヴァー*3や、チャップリンと仕事をしていた俳優ダグラス・フェアバンクス、そしてボニーとクライドも名前が出てくる。この映画もジョン・デリンジャーを通してその時代そのものを描いており、大恐慌以降、多くの人が貧窮してしまい生きていくための手段を選ばなくなった「北国の帝王*4などとも時代背景として結びついていることを感じたし、評判はまちまちだけど、ディカプリオがフーヴァーを演じた「J・エドガー」に俄然興味が起きてきた。

*1:ジョン・デリンジャーのwikipediaには父に勘当されたことしか載っていないが・・ギャングという不法行為は許されないが、大恐慌後の世の中で義賊的な色彩もつけられ皆がそれを歓迎するなら父も認めざるを得ないというシーンは落ち着いていてよいものだった。

*2:ビッグ・ウェンズデー - 日常整理日誌

*3:私はNHK BS1で観たフランスのドキュメンタリー「チャップリンとFBI 赤狩りフーバーとの50年」で知った

*4:北国の帝王 - 日常整理日誌

SING

 

スティーヴィー・ワンダーの「Don't  you worry about a thing」が

youtu.be

 

ラジオで別バージョンでかかっていて、調べたらこの映画で使われてることを知り、観てみる。

自分の固定観念アメリカ映画そのままのイメージの作品。ジプシー・キングスとかクィーンとか自分世代的な音楽が多く、その切り貼りは楽しめた。老女優のナナの姿は「サンセット大通り*1も連想させるし、未見の「女優ナナ」も観たくなる。音楽院出身の気位の高い、トッポ・ジージョのようなネズミのスタンダードジャズの演奏はどれも好ましかった。彼にまつわるシーン、アイルランドの音楽映画「ヒア・マイ・ソング」*2を思わすものが。お待ちかねの「You don't worry about a thing」はクライマックスシーンに。