八月の狂詩曲、黒澤明 映画の秘密 八月の狂詩曲の現場から

手塚眞監督の「白痴」*1や「ビジュアル・エクスタシー」*2のシリーズなどの美しいビジュアルの映画をいくつか楽しんでいて、監督が手掛けた「黒澤明 映画の秘密 八月の狂詩曲の現場から」という「八月の狂詩曲」のメーキングビデオもレンタルすることに。

それを観る前に・・ということで本編「八月の狂詩曲」の方も併せて鑑賞。

 

八月の狂詩曲

八月の狂詩曲」は「鍋の中」という芥川賞受賞作が原作。原爆で夫を亡くした長崎郊外の祖母の家に孫たち4人が逗留・・移民としてハワイに行った彼女の兄、そしてリチャード・ギア演じるその息子の話がからませてある。こどもたちの会話の口調などは今観るとこんな喋り方するかな、ちょっと堅いかなという感じもあったが、圧倒的なラストの絵面は心に残った。黒澤監督は絵を描く人でコンテを大切にする人なんだなというのは実感。そして、おばあちゃんを演じた村瀬幸子氏の見事な演技。リチャード・ギアアメリカの良さがとてもよく出ていた。

「鍋の中」という原作はどういうタッチなのかとても知りたいところなのだが、wikipediaには

原作者の村田喜代子は、この映画の出来には不満で、「ラストで許そう黒澤明」という一文を『別冊文藝春秋』1991年夏号に寄稿した。

という言葉が載っていてそういうことが書かれたのがちょっとわかるような気もした。

メーキングの方では、「天皇」などといわれている黒澤監督だが、決して周りのスタッフにイエスマンを求めているわけではないという監督自身の発言が出てきてそれは本音だろうなと思った。大きな声が出ることがあっても良い映画を作りたいという一心しかない人のように感じるし、映画というのはそこにいる人の力を結集してこそのものという監督の話は労働条件などが重視される世の中ではオールドファッションなのかもしれないが、その熱は尊く感じた。

主演村瀬幸子氏が、黒澤監督より年上ということもあってか、演技指導をされても全然卑屈にならないところなども面白かったし、音楽についての監督の述懐も興味深かった。「七人の侍」で、千秋実扮する平八の亡くなる時、オーケストラの壮大な演奏案が出されたのを退けて、トランペットによる控えめな演奏にした件、それは本当に正解だったなと思う。あのシーンは平八の作った旗印とともにあの映画の中でとても心に残るシーンだし、ああでなくてはと思う。

あとはセットのこと。黒澤監督が大道具小道具のみえない部分にまでこだわる話は以前からきいていたが、空港のセットには驚かされたし、作られたというおばあちゃんの家もなんと雰囲気の良いおうち、どこにあるのだろうと思うほどの佇まいであった。そして、確かにこういうところ手を抜かないことで観客を醒めさせないのは正しい考えだなと思う。時々汚れのないぺらぺらのセットが気になって仕方のない映画があるから。