北国の帝王

 

1973年 ロバート・アルドリッチ監督作品。

すごく男くさいタイトルで長らく自分から遠いものと思いこんでいたが、同監督の「カリフォルニア・ドールズ」「ロンゲストヤード」*1等がえらく気に入って続きを物色していたところ、居島一平坂本頼光の暗黒名画座で紹介*2されその解説をきいてすぐ観ることに。

大恐慌後、人々が仕事にあぶれ別天地を求めて貨車に乗り込む姿なんかをよく映画でみるが、リー・マーヴィン演じる無賃乗車民ホーボーの帝王、エースNo.1とホーボーを憎み「オレの汽車には紛れ込ませない」と豪語するアーネスト・ボーグナイン演じる車掌シャックのプライドをかけた文字通り命がけの丁々発止を描いたもの。余裕のない社会の中、労働の格差、差別、そこからくる憤懣などが何層にも織り成され、そのエネルギーを背景に一つの希望としてのエースの挑戦がある。

1930年代という時代は、「怒りの葡萄*3の時代でもあるのだなとその関連も感じた。

人間の配置が面白く、ホーボー取り締まりへの熱中ぶりが異常の域にも達しているシャックをあきれ顔でみつめる機関士、事なかれ主義でホーボーとの対決などしたくない部下などが丁寧に描かれ、これらの鉄道員たちの存在が物語の土壌となって濃い出来上がりとなっている。

そこに、キース・キャラダイン演じる鼻っ柱の強い若者がエースにからみ、そのやり取りも全く甘くないし、かなり意表を突く展開をしょっぱなからエースがみせ、見ているこっちも驚かされるし楽しませる。エースというのは超法的ではあるが、生活の知恵に満ちた人間で、明晰にものが考えられる賢者、そしてユーモアもあり愛される人物である。

終盤、車掌とエースとの一騎打ち、これが鉄道の取締を巡る話か!と思うような敵討ち的な様相も秘め、心地よい重厚さが時代劇のようであった。

 

参照:wikipediaの「ホーボー」の項もなかなか面白い。