人間の約束

 

1986年 吉田喜重監督作品。

黒澤監督の「八月の狂詩曲*1で、おばあさん役を演じた村瀬幸子さんの迫力が素晴らしく、こちらにも出ておられることは突き止めていたのだけど、介護がテーマのこの作品、思い切りがいり、とっかかりに時間がかかった。

吉田喜重監督の訃報にふれ、今が観るべきタイミングと鑑賞。

老いていく側の気持ち、尊厳がきちんと描かれ、いやな感じが全然しなかった。これとくらべると1985年の伊藤俊也監督の「花いちもんめ」*2とか明るいのだけどちょっと見世物っぽいつくりに感じてしまう。

寝たきりになって認知症も進んでいる村瀬さんの、はじらいの表現のデリケートさ。本人も多少衰えはじめているものの、妻の人生を引き受けようとしている三國連太郎のぼろぼろの姿の気高さ。がっちりしている三國さんならではの表現もあり、打たれた。

三世代同居世帯で、杉本哲太演じる孫の言葉が、若さゆえの、古いもの小バカにして全否定という感じで遠慮がなさすぎ、ムカっとしつつも、「個人で引き受ける限界を超えている。社会で面倒見なきゃ」という言葉はまさにその通り。精神論でひとつの家族でしょいこんでいいものでは決してない。介護保険の世の中だからすんなり入ってくる概念かもだが・・

老人病院の描写がこんなところに入りたくないなという気持ちになるだけのものだったりはちょっとな、なんだが、80年代だしな。平気で週刊誌の惹句とかに「介護地獄」とかいう煽り立てるような言葉が並んでいた時代だし。「ペコロスの母に会いに行く*3のような社会で見守る方向でのあたたかい展望という域にはまだ至ってなく、介護にまつわることが深刻に受け止める種類のものとして描かれていた。それを考えると昨年の宮藤官九郎のドラマ「俺の家の話」などは、介護される側の尊厳も描き、それに困らされている家族の気持ちも引き受けつつの面白い秀逸な物語だったな。

 

村瀬幸子の長男役河原崎長一郎の現実逃避も80年代的で、女の立場で今みると、育児が面倒だから会社の帰りを遅くしている男性みたいで腹立たしいものがあった。結構都合のいい浮気してたりして。でも母の衰えを直視するのがつらいんだな。そして、母の身に起こっていることはいずれ自分にもと思えばこその悪あがきなんだろうな。

そんなこんなこっちの時代感覚の変化も手伝って多少もやもやするところはありつつも(といってもあれはあれで現代でも通じる一面を描いている。現代でも結局理想と現実は違っていて、人間の心はそう変わらない部分だらけだから)村瀬知子と三國連太郎の姿は人生の先輩として圧巻だったし、それぞれの登場人物の心もいらいらするところはありつつも理解はできたりで大層ひき込まれる作品だった。

若山富三郎の初老刑事がいい味。若山さんは「王手」*4とかこちらとか枯れてからの作品の姿に惹かれる。(といっても享年62歳とのことで自分の年齢に近いことに驚きと焦りを覚える。)

三國連太郎佐藤浩市の並ぶシーンもいろいろあった親子ときいているだけにちょっと嬉しい。