ニューヨークの恋人たち

 

日曜に観た「スター80」*1の主人公(被害者) ドロシー・ストラットンの出演映画(そしてドロシーがつきあっていたピーター・ボクノヴィッチ監督作品)ということで、好奇心からではないかと自問しながらも結局鑑賞。

冒頭とてもチャーミングなタクシードライバーが出てきて、探偵役ベン・ギャザラとのやりとりも軽妙。これがドロシーかと思いきやパティ・ハンセンという人で、キース・リチャーズの妻とのこと。彼女はえらく魅力的。

ストーリーは、探偵事務所が二つの人妻浮気調査を頼まれ、追っかけているうちに・・という、「フォロー・ミー*2を彷彿とさせるものなのだが、三人の探偵がいてそれぞれの交際相手との話なども出てきて、話があっちこっち行くところあり。そこにからむカントリー歌手のエピソードは悪くなかった。

人妻の一人がオードリー・ヘップバーン、もう一人がドロシー・ストラットン。

50代のオードリーの立ち姿はとても美しい。80年代に現物のオードリーをみていた時より、自分がその年齢になっている今、この年齢なりの美しさを感じる。彼女とほのかな恋愛関係みたいになる探偵、ベン・ギャザラもオードリーも子どもがいて、子どものことを大事に思いつつ自分も大事にしたいという空気は軽妙で洒落ていて大人っぽくいい感じ。色々裏話を読んでいる*3と、二人は実際に交際していたことがあるらしくそれに基づく話だったとか・・またゴシップ的な視点が加わってしまう。

完成はドロシー亡き後だったのだろうか、冒頭にドロシーへの献辞が流れる。あくまで軽妙で80年代初頭のNYの空気を味わう映画。「恋におちて」にも出てくる書店リゾーリも映るがNY五番街でいろいろゲリラ撮影した模様。

スター80

マリエル・ヘミングウェイ演じるカナダの素朴な女の子ドロシー・ストラットンがエリック・ロバーツ*1演じる興行師的なセンスの男ポール・スナイダーに売り出され、雑誌「プレイボーイ」のプレイメイトをきっかけに映画界などにも進出していくが。。という実際の事件を描いた作品。

パッケージの雰囲気などからも「ヘルター・スケルター*2や「サンセット大通り*3のようなこわいものみたさの見世物のような気持ちに引きずられつつの鑑賞だったが、マリエル・ヘミングウェイの純朴さからのスタートがリアルで、彼女が大きな世界をみるようになってしまったらいつまでもえらそうにしている男のアラがみえてきたりする感じがすごくよくわかり、男の、終わりかけているものへの未練の甲斐のなさがとてもリアルに胸に響く。

かなり実話に基づいているそうで、彼女が出会う映画監督はピーター・ボクダノビッチのことだと後で知る。彼女が出ているボグダノヴィッチ作品を観ようとしている自分は結局はかなりゴシップ的な気分になっているのかな。。

ロッド・スチュワートの「アイム・セクシー」、ビリー・ジョエルの「素顔のままで」、ヴィレッジ・ピープル「YMCA」などの楽曲が自分も生きていた80年前後の空気をすごく感じさせる。

「プレイボーイ」王国を築いたヒュー・ヘフナーの屋敷をみていると「ブギー・ナイツ」「全裸監督」「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」*4などの映像が頭に明滅する。そしてかなり前に観た「ハスラー」紙を創刊したラリー・フリントを描いた同名の映画なども思い出す。

 

愛情物語

 

いい話っぽいこういうジャケットに抵抗があるのに、レンタル時や、再生時に色々間違って鑑賞・・ところが、決して悪くなかった。

エディ・デューチンという実在のピアニストを描いた物語、このジャケットから想像するものよりずっと苦味を表現していて状況は違えど「クレイマー・クレイマー」のダスティン・ホフマン的な悩みも結構切実に主人公を襲ったり、人生って残酷だとしょっぱなはものすごく向日的な主人公*1につぶやかすのに足りる不穏さに溢れている。

映画に見せる力があり、省略も上手で退屈せずに最後まで完走。戦地での彼に転機をもたらすシーン、とても心に残る。(ミンダナオ島に向かったと思うが、おみやげで買ってきたものは日本製のものが多かった。)

*1:タイロン・パワーが演じていて、冒頭は「長い灰色の線」みたいな風合いだった

まっとうな人生

 

2007年にえらく楽しんだ精神病院から脱走する男女二人コンビ(非恋愛関係)の物語「逃亡くそたわけ」*1の続編。

その後それぞれ伴侶を得て、偶然出会い家族ぐるみでつきあったりする短い時間の話だけど、恋愛関係になったりせずそれぞれの家庭生活を軸にそこからブレずに話が進むのが心地よい。ちょうどコロナ禍の渦中が年月の表記とともに描かれ、あのときはこうだったと自分の生活ともピッタリと重ね合わせられる。こういうことの記録も大事だなあ。富山県が舞台のはなしだがとても事細かに描写されていて絲山さん住んでいるのか?と思うほど。

「逃亡くそたわけ」を読んでいたときは存じあげてなかったけれど双極性障害の当事者としての表現が日常の地繋がりに冷静に描くタッチであり、悲壮感がなく、そこにもほっとさせられる。

「逃亡くそたわけ」の時も挿画が良いなあと思ったら気になっていた阿部真理子さんという方が担当されていたのだけど、こちらも、また冒頭にある舞台になった富山県各地の挿画含め表紙もこの小説の感じを表していてとてもいいなと思ったら、いつもその絵を見るたびに惹かれる長崎訓子さん*2の作品だった。

浪人街

 

マキノ監督が1928年、二十歳の時撮った「浪人街」がすごく芸術的で、でもそのあと路線を変えた、なにか一つの到達点のような作品、とそこまでの知識はあって、でも、そのエポックメイキングなオリジナル版は断片しか残っていないということで、現存するリメイク版を観て良いのか迷うところがあった。(リメイク版でオリジナルを評価してしまう危険を感じて。)

先日黒木和雄監督によるリメイク版が放映されたときの映画好きさんたちの沸き立つ雰囲気をみて、これは避けてきた「浪人街」を観るべきときがやってきたなと決意、マキノ監督みずからによる昭和32年のリメイク版を観た。

驚いたのは近衛十四郎がトップに名前が出ているのだが、すりの女に養ってもらいつつ、プロの高峰三枝子と遊んでみたり、同じく浪人の河津清三郎、藤田進とも揉めてみたり女からせびったお金で飲んでつるんでみたり、ちょっとほめられたものじゃないアンチヒーロー的な感じだったこと。チャウ・シンチー監督作品のよう。むしろ風見鶏的なところもある河津清三郎の方が間抜けな魅力もあり、よく千秋実なんかが演じそうなポジションで良くみえたりして。この中で藤田進はなかなか落ち着いてはいて、三者三様の個性が出してある。ジョン・フォードの映画*1とか「三匹の侍*2とか、90年代の中年男三人ものドラマ*3とか三人の男ものの系譜ってあるなあ。去年の「大豆田とわ子と三人の元夫」もか?

最終的には立派ばかりじゃないこんな浪人たちだからこそという心のうねりがあり、ちょっと「決斗高田の馬場」みたいな心地も。敵役も妙に人間らしく、観ているこっちまで迷った気持ちになったり、人物表現が単純じゃないところがなかなかユニーク。本郷秀雄、森健二の岡っ引きコンビがいい感じ。よくエンタツアチャコが時代劇で演じているようなスタンスを清涼剤的に演じていて好感。

*1:三悪人」「三人の名づけ親

*2:三匹の侍 - 日常整理日誌

*3:「カミさんの悪口」や「オトナの男」

「暁の脱走」と「春婦伝」

原作が同じ二作品を観た。田村泰次郎の短編小説「春婦伝」から。

「暁の脱走」は昭和25年 谷口千吉監督、脚色は谷口千吉黒澤明

「春婦伝」は昭和40年 鈴木清順監督。

私には断然後者が良かった。大きな違いは「暁の~」の方はヒロインを大陸の従軍慰安婦から慰問団の歌手に変えてあること。山口淑子がなんだか学級委員みたいな感じで映画全体も堅く感じてしまう。

「暁の~」の良いところは、主人公の三上上等兵を演じる池部良が極度に痩せこけているリアリティ。そして、「青い山脈*1で、良い感じで主人公をサポートしていた伊豆肇の働き。彼の演じる小田軍曹の飄々としていて、しかしやる時はやるという斜めの方向から援護が魅力的。また観比べると、「暁の~」の方が、この伊豆肇はじめ兵士たちの現場での理不尽に対するぎりぎり精一杯の申し立てというのが強調されているように感じるところ。また山口淑子が中国人と会話する時、さすがすらすらとかわされ字幕なしでの扱いなので怪我をして中国側に山口淑子と一緒に捕虜扱いになっている池部良の不安がきっちりと伝わるところ。

「春婦伝」の方はまず若き野川由美子の野性味あふれる魅力。あの強い目。生き抜こうとする力。そして、決まってる構図。映画全体の躍動感が力強く私の心を惹きつけた。最近鈴木清順監督の後年の、構図は面白いけれど話の運びは極端に走りすぎているような作品*2を続けて観たためちょっと心配しながら観始めたのだが、杞憂。しっかりした作品だった。こちらは日本の従軍慰安婦と同行している朝鮮半島からの慰安婦、そのさらにつらい立場なども告発型ではなく、さらっと点描的に、でも主人公にとっては大事なことを伝える相手として出てきてそこもとても良かった。

「生きて虜囚の辱を受けず」という戦陣訓の足枷が二作品ともの肝になっている。映画の中では、それに上官のエゴをからめてあり、こちらの心への訴えかけの力はとても強い。

 

 

*1:青い山脈 - 日常整理日誌

*2:悲愁物語」(1977)「春桜 ジャパネスク」(1984)など

青い山脈(1949)

 

テーマ曲は有名なんだけど、観たのははじめてかな?1949年 今井正監督。古い田舎町の女子校の陰湿なやりとりに毅然とした態度をとる原節子演じる島崎先生は直球勝負で神々しすぎるけれど、彼女がヒーローとして扱われておしまい、という作品でなく、古臭さが支配する町でも理事会を開いてそれぞれがそれぞれの言葉で話してみれば意外とまじめに考えて判断する人もいるという、民主主義ってこういうことですよという部分、人に信頼を置いているような部分にちょっと感動する。このくだり、めでたさも中くらいなところに抑えてあるところもいい。原節子がバスケをしているシーンはなかなか魅力的。

メガネの女子高生若山セツ子がかわいらしすぎる。芸者の妹で実際的でほんとの意味で役に立つ感じ。「四つの恋の物語*1でも魅力的な姿をみていたし、彼女の出演作品を観るたび、結婚相手であったその後の谷口千吉のことに、自分はどうも引っ掛かり続けてしまう。(自分は外野も外野大外野のくせに、なんだけどあまりに魅力的で・・)。この映画の中で彼女の相手役になった伊豆肇、twitter などで名前はみかけるけれど、おおこの方かと。いかにもバンカラさん。でも、昭和後期の応援団的バンカラでなく、旧制高校のにおいのする知的なバンカラ。話の核になる杉葉子池部良の絵になるカップルの影に隠れるような二人なんだけど、二枚目カップルではないからこその応援したくなるような人間的魅力が二人にはある。

杉葉子、自分の中で東宝映画でヒロインの妹役をしているイメージだけど、この映画では原節子のまっすぐな女神的な存在に対比して、この女の子はなかなか大人だし、いろいろな経験をしてきたんだろうな(かといってズベ公ってわけではない)というようなところがうまく出ていた。そのにおいに敏感に反応しての田舎町の事件という展開でその感じが秀逸。

原節子に思いを寄せる沼田先生というのと、3つのカップルが物語の核にはなっているのだが、もう一つ藤原釜足と奥さんというのもまた一つの夫婦の形という感じで紹介され話に深みが出ている。藤原釜足のまじめさを武器にしたユーモラスなシーンもあり。彼が読み上げる手紙の誤字、有名だなあ。昭和一桁生まれの母からもきいていたような・・