マキノ監督が1928年、二十歳の時撮った「浪人街」がすごく芸術的で、でもそのあと路線を変えた、なにか一つの到達点のような作品、とそこまでの知識はあって、でも、そのエポックメイキングなオリジナル版は断片しか残っていないということで、現存するリメイク版を観て良いのか迷うところがあった。(リメイク版でオリジナルを評価してしまう危険を感じて。)
先日黒木和雄監督によるリメイク版が放映されたときの映画好きさんたちの沸き立つ雰囲気をみて、これは避けてきた「浪人街」を観るべきときがやってきたなと決意、マキノ監督みずからによる昭和32年のリメイク版を観た。
驚いたのは近衛十四郎がトップに名前が出ているのだが、すりの女に養ってもらいつつ、プロの高峰三枝子と遊んでみたり、同じく浪人の河津清三郎、藤田進とも揉めてみたり女からせびったお金で飲んでつるんでみたり、ちょっとほめられたものじゃないアンチヒーロー的な感じだったこと。チャウ・シンチー監督作品のよう。むしろ風見鶏的なところもある河津清三郎の方が間抜けな魅力もあり、よく千秋実なんかが演じそうなポジションで良くみえたりして。この中で藤田進はなかなか落ち着いてはいて、三者三様の個性が出してある。ジョン・フォードの映画*1とか「三匹の侍」*2とか、90年代の中年男三人ものドラマ*3とか三人の男ものの系譜ってあるなあ。去年の「大豆田とわ子と三人の元夫」もか?
最終的には立派ばかりじゃないこんな浪人たちだからこそという心のうねりがあり、ちょっと「決斗高田の馬場」みたいな心地も。敵役も妙に人間らしく、観ているこっちまで迷った気持ちになったり、人物表現が単純じゃないところがなかなかユニーク。本郷秀雄、森健二の岡っ引きコンビがいい感じ。よくエンタツやアチャコが時代劇で演じているようなスタンスを清涼剤的に演じていて好感。