重版出来 14 ~誠光社 「アウト・オブ・民藝」

 

重版出来! (14) (ビッグコミックス)

重版出来! (14) (ビッグコミックス)

 

この巻は、最近よくみかける個人経営のブックカフェの立ち上げの話が。取次にもそういうことに対応している部署があるんだ。。とりあえず今回ははじまり。またこの先いろいろあるのだろうけれど・・

 

ここに出てくるような形式の本屋さんとして、まず自分が思い浮かべたのは京都、河原町丸太町の誠光社。

www.seikosha-books.com

恵文社におられた方がされている書店だけど、興味のあるテーマを取り上げられていることが多い。

最近関心を持ったのは「アウト・オブ・民藝」という、民藝運動から漏れてしまった、手仕事の話だ。

 

アウト・オブ・民藝 改訂版

アウト・オブ・民藝 改訂版

 

 

誠光社さんからの情報で、

 

www.artscenter-akita.jp

 

のんびり」という秋田のフリーペーパーで気になり、そのあと男鹿のなまはげ館での展示を拝見し、気になる人になった勝平得之という版画家は、ブルーノ・タウトが秋田での滞在したときの案内役であり、まさにアウト・オブ・民藝的テーマと関わりがあるということを知る。こちらは、なまはげ館に行った後、古本屋さんから取り寄せた勝平さんの木版画集「秋田歳時記」。

f:id:ponyman:20200305122929j:plain

 

non-biri.net

↑のんびりの14号に勝平さんの特集あり。

 

また、2月中開催されていた佐々木一澄さんの新著「こけし図譜」原画展も、こけしの絵もだけど、こけし工人さんの絵にとても光るものがあり、楽しめた。

 

www.seikosha-books.com

 

佐々木さんは、以前一乗寺の、こけしや郷土玩具などに強いマヤルカ古書店で、郷土玩具カレンダーを購入し、気になっていた方だ。

 

mayaruka.com

 

以前には、脚本家木皿泉さんを招いての山田太一シナリオの読み解きイベント*1なども開催され、誠光社は、自分の興味の幅を広げて、よい刺激を与えてくれる本屋さんだ。

www.seikosha-books.com

魔女とディナー

 

ああ面白かった!主人公はだいたい定年周辺の男性。年齢の近い楽しさ。6つの短編が収録されている。

一番最後に載っている「私のスカイ」、私が好きな「犬」「お年寄り」というセットに、私と同じ自治会役員、ゴミの見守りなんて要素が加わり、もう最高!

地獄の警備員

 

地獄の警備員 [DVD]

地獄の警備員 [DVD]

  • 発売日: 2008/06/20
  • メディア: DVD
 

 みたのはVHS版。1992年黒沢清監督作品。

 警備員さんがとんどもない人物だったら?という日常の盲点を突いた作品。松重豊演じる殺人鬼的な警備員は、元力士という設定。ホラー映画をみていると、脳の、物事をおかしく感じる部分を刺激される気がするのだけど(防衛反応?)、松重氏が相撲のぶつかり稽古風の体の動かし方をするところなど、観ながら笑ってしまう。別に笑かせに来るわけではなく、獲物を追い詰めている、その真摯さをそのまま表現している、そこにおかしみがあるところがとても良い。この雰囲気、佐々木浩久監督の「発狂する唇」(2000)や「血を吸う宇宙」(2001)*1とも相通じる気がしたのだけど、佐々木監督はwikipediaによると、1993年まで黒沢清監督の全作品の助監督を務められたとあり、この作品でも助監督をされているので、この空気は佐々木監督のあれらの作品と血縁関係にあるといってもいいだろうと思う。

印象に残ったのが諏訪太朗氏。物語の中でも、諏訪氏が演じている人物に光が当たるように設計されているのだけど、諏訪氏もまた「発狂する唇」や「血を吸う宇宙」での存在感がくっきりしている俳優さん。この映画で嫌味な役を好演の大杉漣さんも、「発狂する唇」での奮闘がすごかった。やはり、姉妹作品的に、あわせての鑑賞がより相乗効果で楽しめると思われる。

そして、この作品の話に戻ると、この松重さん演じるモンスターの扱い、「美女と野獣」の香りも漂わせていて、不思議なコクを感じる作品である。

寝ても覚めても

 

寝ても覚めても

寝ても覚めても

  • 発売日: 2019/03/06
  • メディア: Prime Video
 

 あらすじをきいていた時は恋愛もの、50代後半に差し掛かっている自分が今さら楽しめるのだろうか?だったが、ものすごく面白かった。ナチュラルなのに鋭くて、よくわかるとなった。物語のキーとして出てくるのが牛腸茂雄さんの写真。佐藤真監督が撮られた「SELF AND OTHERS」というドキュメンタリーでなじみがあった。下のオフィシャルサイトのトップに出ている二人の双子の女の子の写真は、まさに顔は似ているけれど、性格の全く違う二人の男性(東出昌大による二役)を象徴する感じもあるし、キューブリックの映画「シャイニング」の双子のような、どこか不安を掻き立てるものもある。そして、二回出てくる牛腸さんの展覧会でのそれぞれの男性の反応がとてもそれぞれらしく、効果的な使われ方をしている。

www.cine.co.jp

原作は柴崎友香氏。映画で、リズムの基本淡々とした感じ、友人との関わりあいなどの雰囲気から、柴崎さんの「きょうのできごと*1や「きょうのできごと、十年後」*2にも共通する空気を感じたのだけど、監督の「ハッピーアワー」*3もやはり人と人との何気ない日々からのドラマで、もちろん両方の個性がブレンドされてこの作品が出来上がってはいるのだろうけれど、まだ触れていない原作の手触りをぜひ確認したいなと思った。

 
🥰

映画の中で、東日本大震災の日や、東北 名取市が出てくる。関西の描写の中にも、震災とは関係ないけれど、主人公の女性の考え方に影響するようなエピソードが出てくる。こういうことがあってこのひとはこう思うんだなということが、とても胸に落ちた。

 
笑顔とハート3つ
 

だから、何

 

だから、何。

だから、何。

 

 20年くらい中野翠さんの年末に出るコラムを楽しみに読んでいる。おととしの「ズレてる、私!?」*1の時は、国際情勢的なところで「?」と思うこともあったのだけど、今回は基本的には異論なく楽しめた。

自分がみたドラマ「詐欺の子」での桃井かおり氏やイッセー尾形氏の演技への評価、大林宣彦監督の安藤桃子監督との対談番組「シネアスト 大林宣彦」も自分と同じく楽しんでみておられた、などなんか、もしtwitterされてこれらを書いておられたらイイネつけまくりみたいな感じだった。(twitterにコラムに載せるもの流したらもったいないけれど)

とりあげられていたナイツ塙の著書「言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか」

 

言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか (集英社新書)

言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか (集英社新書)

 

は、ちょうど植竹公和さんのアカシック・ラジオというところで二回にわたって話をきいていて 楽しんでいたので、中野さんも食いつくようにして読まれたそうで嬉しかった。

 あととっても気になった本は南伸坊さんの「私のイラストレーション史」。南さんは和田誠さんの煙草の広告をみて「こういうおもしろい仕事をする!」と心に決められ、また東京五輪の亀倉雄作のポスターに刺激を受けたことが書いてあるそうだが、ドラマ「いだてん」にも亀倉氏出てきておられたし、また和田さんのピースの広告については「銀座界隈トキメキの日々」にも書かれていたなあと、イメージが増幅して楽しめた。和田さん関連でもうひとつ書いておきたいことは、追悼番組の「徹子の部屋」で、清水崑のイラストに影響されて高校時代に教師の似顔絵をかいて人気をとったこと。実は清水崑氏、長崎出身の祖父の友人で、黄桜のカッパのCMにかかわっておられたため、そのあとの小島功氏のエロティックなカッパと混同されがちで、「ちょっと違うんだよ」と心の中で思っていたため、和田さんの発言の中に出てきてどこかに書き記しときたかったのだ。しかし、三谷幸喜氏も和田誠氏の絵にあこがれ、よくマネをされていたときくし、清水崑氏は、和田誠氏、南伸坊氏、三谷幸喜氏につながる系譜とこの機に明言しておきたい。

 

私のイラストレーション史

私のイラストレーション史

  • 作者:南 伸坊
  • 出版社/メーカー: 亜紀書房
  • 発売日: 2019/05/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 

銀座界隈ドキドキの日々 (文春文庫)

銀座界隈ドキドキの日々 (文春文庫)

 

 もう一冊中野さんの本で興味を持ったのが「二笑亭綺譚」。二笑亭というのがなんとも奇天烈な建物だというのは、以前中野さんの本で知ったと思う。この本では、富岡八幡宮の骨董市に行かれたあと、門前仲町へと向かう商店街の中の二笑亭の跡地を通られ、いつもどおり不穏な気持ちになられたことが書かれている。この本の著者式場隆三郎さんというのは、山下清の発見者の精神科医だそうだ。山下清の本*2に出てくる先生に当たるのかな。 

定本 二笑亭綺譚 (ちくま文庫)
 

 あっ、そうだ、もうひとつ中野さんがらみで。坪内祐三さんが先日亡くなられた。中野さんの本や、周りの評判で読んでおきたいなと思っていたところだった。(たまたま買ったサンデー毎日の2/2号のコラムでも中野さんが追悼を書いておられる。)

それで、遅ればせながら「テレビもあるでよ」という雑誌コラムをまとめたものを読んでいる。(2018年秋刊行)興味のあるタイトルのものを拾い読みしている状態なんだけど、「日本のいちばん長い夏」*3のリメイクと「シン・ゴジラ*4の比較(家族の物語のあるなしによる作品としての出来の差)が書かれているところ、ギリヤーク尼ヶ崎Eテレをみて、ギリヤーク氏を支える弟について丁寧に書かれているところなど、亡くなってから出会ってしまったけれど、時が戻せたらオンタイムで読んでいたかったという気持ちにとてもとてもなっている。

 

テレビもあるでよ

テレビもあるでよ

 

 最後に・・もう一冊読んでみたくなったのが、

 

新宿二丁目 (新潮新書)

新宿二丁目 (新潮新書)

  • 作者:伏見 憲明
  • 発売日: 2019/06/14
  • メディア: 新書
 

映画 「赤線最後の日」*5や「サチコの幸」*6の舞台である新宿二丁目。その変遷はとっても気になっている。

自由学校

eiga.com

2003年にみていた*1のだけど、歌舞伎観劇のシーンで6世中村歌右衛門が出ているときき、みてみた。歌右衛門さん、自分が歌舞伎をみるようになったときはもう逝去されていて、基本的には中野翠さんのコラムや、歌舞伎の本*2で、その凄さを想像するだけの存在だったので。

f:id:ponyman:20200225141402j:plain歌右衛門さんの場面。娘道成寺


前回観たときは、淡島千景がなんだかやかましい感じにみえたのだけど、今回淡島さんの衣装かわいいな、とそれが気になって。クレジットには衣裳 林栄吉、衣裳調整として三越の名前が大きく出ている。やはりそれなりに力が入っているのかな・・

 

f:id:ponyman:20200225140546j:plain

f:id:ponyman:20200225143132j:plain

f:id:ponyman:20200225143153j:plain下の二枚はシャーリー・テンプルという子供服ブランドのような華やかさ。部屋もなんだかキュート。

www.shirley-jp.com

2003年にみたときは、自分の年齢が淡島さんに近く、「騒々しい」みたいな感想を持ってしまったのかもだけど、今みると、言動もかわいらしい。淡島さん1924年生まれで、1951年のこの作品の時は20代。ひょっとして、淡島さんに年齢の近い自分の親世代って、こんな感じで戦後を迎えたひとたちもいるのでは?とも思った。(笠智衆のことを「燻製のにしん」なんてウワサしてみたり、「お金がないと8月15日みたいな気持ちになるわ」なんてセリフがあったり)

冒頭の伊福部昭の音楽はゴジラにも相通じるあのリズム。

高峰三枝子が怒っているときはおっかなすぎるが、(前回もそう思った)なんだか、生活力はあって悪い感じはしない。最後はちょっとかわいらしさを出させようとしすぎかな・・もうちょっとその前までの空気のままでもいけたのではないだろうか?

カルメン

 

カルメン [DVD]

カルメン [DVD]

  • 出版社/メーカー: 東北新社
  • 発売日: 2001/11/21
  • メディア: DVD
 

カルロス・サウラ監督のカルメンカルメンを制作している現場での物語と現実の交錯。

カルト風味とかでなく文句なしに感銘を受けるような作品を観たくなりこちらをチョイス。

観てから、アントニオ・ガデスとパコ・デルシアのよい空気がとても心に残って、そういやパコ・デルシアの出てくるフラメンコのドキュメンタリーをみたなあと検索してみたら、この映画も5年前にしっかり観ていることが判明*1し、びっくり。(ドキュメンタリーの方はこちら)。すっかり忘れていた。5年前の感想に載せていたクリスティーナ・オヨスの素晴らしい表現力などは今回も感じ、多分前回よりもっとくっきりと認識したように思う。

今回はアントニオ・ガデスその人より一緒にその場にいる面々(ガデス・バレエ団や、スペイン舞踊会のガデスの友人とパンフレットにあった)の方に気持ちがいった。ちょっと場が緊張したときなどに、気分を変えるように手を叩き踊りだすあの空気素敵。ダンサーたちの普段の姿勢の良さもとても心に残る。

今回は杖を使った決闘のシーンがとても印象的だった。影も使った表現も効果的。撮影のテオ・エスカミージャはサウラ作品に不可欠の人で、色と光りの表現が最上の評価を受けているという。そして、決闘のシーンでガデスと対決したファン・アントニオ・ヒメネスは、クリスティーナ・オヨスの夫で名高い踊り手であり、妻のひきいる舞踊団で素晴らしい脇役ぶりをしめている、とビデオ同梱の解説に書かれていた。

現実と舞台劇が交錯するこのはなし、劇的をあえて避ける幕切れもシャープで良かった。