脚本家・木皿泉さんと読む「山田太一シナリオ」の愉しみ

里山社というところから「山田太一セレクション」といって「早春スケッチブック」「想い出づくり」、「男たちの旅路」の脚本が刊行されたのを記念に、山田太一ファンの脚本家木皿泉さん(お二人のユニットだけど女性の方だけの参加)とともに、山田太一シナリオを読み込むという会が丸太町の書店、誠光社で開催された。
このところ山田太一のドラマばかりみている私にはとてもうれしい企画。また木皿さんが山田さんのことをお好きというのもとてもうれしく、参加した。
それぞれのドラマで鶴田浩二山崎努が語る主張とかに時々「えっ?」と思ってしまう時があるのだけど、そんな気持ちも汲みあげてもらい、読書会的な楽しさも。(鶴田浩二の方は労働に対する時代の感覚の変化もあり、また山崎努の方は、山田太一さんが寺山修司と友人であって、あの人物、寺山がモデルとかそうではないとか諸説あるようなのだけど、ある程度の人物造形の影響はあっただろうとのことで、その説明が腑に落ちた。)その「えっ?」を超えて、時代を超越して共感を覚える力があるところ(わたしが思うに、「男たちの〜」であれば水谷豊、「早春スケッチブック」であれば岩下志麻に反論させているところがいいと思う。)またドラマの終わるあとほんの何分というところまでこれで終わるのかと思わせながらちゃんとすとんとおちるすばらしさなどを語っておられた。それについては視聴者としてはそんなに意識したことはないのだけど、脚本家の眼なのかなと思ったりも。
木皿さんは年代が近いのか、うなずくことが多くて多くて、その気さくな人柄もあいまって本当に楽しい時間とあいなった。
男たちの旅路」四部の最終話「車輪の一歩」は障がい者の人々が外に出ていくことがテーマの物語だけど、最初車いす6台で障がい者たちが店の前に陣取っているのをガードマンの岸本加代子が、退いてくださいといったことから兄の清水健太郎と住んでいるアパートに、障がい者の暮しの大変さを思い知ればいいとばかり悪意で障がい者たちが乗り込むところから話がはじまる。木皿さんがおっしゃってたけれど、あの時代にそういうところから話を始めるすごさ、またそこから語られるそんな気持ちからのスタートは反省しなければならないし、もちろん節度は必要だけれど人が生きていくうえで「迷惑をかけないように」ということを第一義に考えなくてもいいのではないか、という鶴田浩二のセリフは今の時代に本当に通じている。今のこの時代多くの人に触れてもらいたい作品だと切に感じる。
この作品には三年も調査の時間をかけられたそうで、夫君が車いすに乗ってらっしゃる木皿さんもよく調べてあるなあと思われたそう。わたしもやはり家族の病気から感じたことがここに描かれているように思った。黙って引っ込んでばかりいたらいつまでも社会はその現状を知ることもなくかわらない。
今回この脚本集を出された里山社の方は、山田太一のムック本も作られた方とのこと。そちらの本も興味を持った。

男たちの旅路 (山田太一セレクション)

男たちの旅路 (山田太一セレクション)

余談としておもしろかったのは、「早春スケッチブック」の樋口可南子さんのお芝居の桃井かおりさんからの影響。最近、桃井さんのものをみることが多く、たとえば鶴田浩二、たとえば高倉健などと共演する時、寡黙な男を動かすトリックスター的な役割がうまいなと感じているもので桃井さんの名前があがったのもうれしかった。

また「男たちの旅路」に鶴田浩二に出てもらうときのエピソードなども里山社の本に紹介されているらしい。こちらも興味深い。鶴田さんはテレビドラマには出られたことがなくて、また少しその前にNHKとの関係もぎくしゃくしたりしていて、そこに・・という緊張・・そこも木皿さんが自分の例をあげながらの説明が楽しい。あと今年の「富士ファミリー」、羽田さんの役が役者さんでなくてよかったというようなことをおっしゃってたのも心に残った。