三人吉三 信州・まつもと大歌舞伎

よく舞台というのはお客さんと作っていくというようなことをきくし、みにいったとき実感もしているけれど、この舞台は本当に客席全体によい空気が流れ、すごい一体感だった。こちらの囲み取材からもその感じが伝わる。
私は七之助さんの悪女姿をみるのが大好きなもので、登場するなりそのうなじとかからも漂う華にうっとり。そして、この芝居でネコを被った状態から、一変声のトーンが変わるところが、予習としてみた浅草花形歌舞伎*1でも大好きだったんだけど、その場面になると、「いよいよ来る、来た!」という喜びがあった。歌舞伎の楽しみ方って、ネタばれ注意とかと反対の世界というか、ネタやせりふがわかっていて予期する部分がとても多いな。
クライマックスシーンでみなが大暴れするところが圧巻なのだけど、勘九郎さんの立ち居振る舞いが亡きお父さん勘三郎さんにとても似ているところがあって(陽気なあばれかたの表情など)先代が思いを込めていた、この松本で、と思うとなんだか感激して涙が出てしまった。ずっと歌舞伎をみている人にとっては当たり前のことなんだろうけれど、やっとみはじめた私にとっては、伝承されていく芸としての歌舞伎の楽しみ方というのを体感できたのがうれしかった。
三人の主役のもう一人尾上松也氏もキレがよく安定感があり引き締まっていて、若い三人の姿をみるがとても気持ちよかった。七之助さんの衣装もかわるがわるとってもきれい。
また弟分にあたる十三郎を演じる坂東新悟さんという方の華奢で上品なこと。なんというかかばいたくなるような感じ。妹分おとせを演じた中村鶴松さんも好印象で、この二人、善人の部類だけど吉三たちからみたらちょっと難儀の種みたいにもみえるところを、重荷感なしに鑑賞させてくれるピュアさがあった。