ジョン・フォード後期作品

ジョン・フォードの後期の作品をいくつか観た。

 

まずは「ミスタア・ロバーツ」(55)

 

舞台は太平洋上の補給船

ジェームズ・ギャグニー演じるエゴイスト艦長の下で働くヘンリー・フォンダ(ミスタア・ロバーツ)。傍らにはお調子者の部下ジャック・レモンと落ち着いた軍医ウィリアム・パウエル

船という動けない空間での専制政治。自分には学校のようでもあり、人によっては職場のようだったりもするだろう。

下のものの気持ちを考え仕事のできる男ヘンリー・フォンダ、上司ジェームズ・ギャグニーの勝手さ無能さゆえこの船での仕事にうんざりしておりまた現場で活躍したいという気持ちもあって前線に希望を出しているのだが、ギャグニーが書類に判を押さないので蓮実重彦のいうところのいわゆる囚われの身、心理的には曇天。そこからの。。という作品であるが、ヘンリー・フォンダの立派さを描く作品でなく、ヘンリー・フォンダからみれば目先の楽しみばかり追っているジャック・レモンを代表とする兵士たちが起こす出来事がメインであってその構造が素晴らしい。

ジョン・フォードの映画、自分とは縁遠い集団が舞台であっても観ていて自分の周りの物語としてとらえられるところがいい。(この作品に関してはヘンリー・フォンダとフォードの対立など色々あったそうだがそれはともあれ。)

個性強い出演者たちのぶつかりあいの中良き緩衝材となっている軍医ウィリアム・パウエル。上品で素晴らしく他の出演作を調べたら「影なき男」*1でお調子ものの探偵を演じていた人だった。こんな年齢の重ね方されてたんだ。感慨深し。

ふや町映画タウンおすすめ☆

 

そして「バファロー大隊」(61)

騎兵隊の一員である優秀な黒人軍曹に強姦殺人の嫌疑がかかりその裁判の陳述で構成された物語。

黒人の立場がその中でくっきり描かれていく。ジョン・フォードのおおらかなユーモアを交えつつ人間存在に関わる骨太な内容を面白い角度で映画を作る風合いは安心して楽しめる。騎兵隊の中の黒人班はしっかり描かれていてそれが主眼だけどただ最後真相にたどり着く部分は少し早口だったかな。

ふや町映画タウンおすすめ☆

 

後期の作品では少し前に「リバティ・バランスを撃った男」(62)も

 

これはすごい迫力。ならずものリー・マーヴィンが支配する集落にやってきた反武力主義の弁護士ジェームズ・スチュワートと暴力は良くないが力で押さえなきゃしょうがないと思っているジョン・ウェインの対比。そこにほのかな恋愛話まで絡ませてあって勝者はどっち?みたいな形で話が進んだりもするのだがジョン・フォードの恋愛話って品が良くて、そしてロマンチックで愛すべき詩情があってとても良い。「アパッチ砦」にも通じるような伝説への皮肉も込めて深い余韻で話は終わり、どっちの生き方が勝ち、なんてこと決めたくない気持ちでFIN。

リバティ・バランスの暴力の前に卑屈になっている保安官や困っている集落の人々も愛すべきパワーがあったし、迫力のある悪役を務めたリー・マーヴィンのコワモテがまたいい。「北国の帝王*2や「最前線物語*3でコクのある演技をしていた人だと気がつきますます気になる存在に。

こちらはふや町映画タウンのおすすめ度も☆☆☆と星の数が多いことに私も納得。

コールガール

 

71年 アラン・バクラ監督

ジェーン・フォンダが演じるのはNYでオーディションなどを受けてステージに立つ日を目指しながらもコールガール業をしている女性。

彼女の人物造形はとてもしっかりしているしその姿やファッションも街に馴染んでいてとてもいい。

ある事件がきっかけでその調査にきたドナルド・サザーランドと知り合いに。それまで仕事で付き合っていたのとは違うタイプの男であること、お相手はたくさんいてもほんとは孤独だった彼女の心は存分に伝わる。

精神分析に通う彼女の心の言葉にすこく重きが置かれ、そこにも70年代アメリカを感じる。

事件の真相解明のあたりはとりあえず了解はしたもののちょっとすっきりしない運び。ジェーン・フォンダドナルド・サザーランド、70年代初頭のNYを味わうことに関しては満足できた。

撮影はゴードン・ウィリス。「ゴッド・ファーザー」やウディ・アレンの「アニー・ホール」や「マンハッタン」を撮った方。街の雰囲気ぐるみの撮影は堪能。

コカコーラ・キッド

セルビアドゥシャン・マカヴェイエフ監督がオーストラリアで撮ったもの。84年。オーストラリアの青い空って「スピリッツ・オブ・ジ・エア」*1や「プリシラ」でも感じたけれど独特だなあ。

アメリカ的なものを象徴、それがNO.1と思っている海兵隊あがりのコカコーラの営業マン、コカコーラ・キッドが赴任先のオーストラリアで自分の今までのルールとは違う文化にぶつかる話だが、これ日本舞台でも作れそうだけど誇張が多く笑わせにかかっているこのままの調子で作られたらちょっとむっとしてしまうかもしれないな。否定されているわけではないけど。

駆け足で最後はストンと終了。最初は面白いものの羅列をただ見たみたいな感じを受けてしまったが、終始祝祭的でそのまま終わるあの感じも味かもしれない。妙にきちんとしっとりされても居心地が悪いだろうな。作った方はあれでも十分しっとりのつもりかもだが。

ja.wikipedia.org

 

↑カンヌのパルム・ドールにノミネートされていたんだ・・

ストリート・オブ・ファイヤー

 

84年

公開当時なんか流行ってるなあという気持ちでいたと思う。ふや町映画タウンのおすすめに入っていたもので観てみた。

ダイアン・レインがロックの歌姫の役。上手!と思ったら吹き替えらしかった。(吹替使った方が説得力あっていいだろうな)

そこに殴り込みをかける粗暴な黒皮ジャンの連中 棟梁はウィレム・デフォー。凶悪。こんな役もしていたんだ。黒皮ジャン集団、「さらば青春の光*1でモッズと対抗していたロッカーズも連想させられる。

その凶悪集団に乗り込む主人公たち・・まじめ系の自分はこれ、警察のマターだよなとちらっと思ったりもしたけれどどうも警察も信用ならん腐敗しきった世の中の話らしい。

あっ酒場での乱闘からの、というシークエンスに西部劇ぽさを感じ、調べるとやはりウォーター・ヒル監督は西部劇好きでそれを意識したものらしいが、西部劇と考えたらすっとする。頼りない保安官、あきらめ半分正義を求める心半分の住民、そこにやってくる救世主。保安官側も救世主に動かされ悪と救世主の対決

事件が決着をみせても救世主に安住の地はなし。

保安官(この映画では警察)も汚職まみれと救世主に理解のあるのと二派でてきて現代の西部劇としてすとんまとまっている。

そこに音楽がからめてあるんだが、途中巻きこまれる黒人グループが車の中で披露するドゥワップシーンは人を勇気づける音楽の力をとても感じるものだった。

そのグループが舞台で披露するのが↓

 

youtu.be

 

この曲はよくよく知っていた。この映画と関係してる楽曲だったんだな。

「エレクション 黒社会」〜「野獣たちの掟」

 

ジョニー・トー監督の特集上映会で「エレクション 黒社会」(2005)鑑賞。

demachiza.com

長老たちのゆったり飲茶みたいな空気の端からの抗争シーンなどもとても良し。「アウトレイジ」(2010)*1なんかも、この辺の空気もらってきてるんじゃなかろうか?ユーモアと緊張。乾いた人間観察の面白さ。

香港映画、いつも本気度が凄いと感じるが、こちらもしょっぱなからかまされる。

衝撃を受けたのは「人は信じず組織を信じる」って風情のニック・チョン。後半にも見せ場があるが乱闘中液体をかぶって白塗りみたいな形相になりつつフラメンコのような足拍子的音とあいまりまるで歌舞伎!ぞくぞくした。ジョニー・トー監督、ストイックに話を進めておいての要所要所見せ場がありこの感じがたまらない。冗長さがまるでない。

「エレクション 黒社会」は二人の中堅ヤクザのトップ争いの話だが、冒頭「グッドフェローズ」のジョー・ペシのごとき振る舞いで感じが悪く尊大な風情のレオン・カーフェイ。これが、途中からなぜかとても気になる人物にみえてくる。そこから振り返ると、冒頭のシーンも強がってはいるが虚勢張ってる弱さも見え隠れしてたなあなどと思い起こさせる演技のさじ加減の面白さ。まだまだ香港映画入門状態なもので出演作を調べたら「黒薔薇vs黒薔薇」*2でかっこいいのにトンチンカンみたいな役を映画自体のめちゃくちゃぶりにすんなり調子をあわせ好演されていた俳優さんだった。

さらにレオン・カーフェイをちょっと追っかけたくなってすぐ観た「野獣たちの掟」(イー・トンシン監督 1987)

狼たちの午後*3中島貞夫監督の「狂った野獣*4などの名作人質ものを香港舞台で、という感じの作品だが、テンポが良くてとても面白い。全く退屈しなくずっと笑い続けた。

レオン・カーフェイはあまり出番がなかったが、上品で犯人に妙に信頼されてる捜査官役であり、「エレクション 黒社会」でのギラギラしてしかし哀感もあるヤクザっぷりとはすごい差。そこも楽しめた。

主役のティ・ロンってひとは「男たちの挽歌」で有名な人らしいが、未見。そろそろ観るべきか。

「野獣たちの掟」はふや町映画タウンにてレンタル。

「ジャズ・シンガー」と「マラソン マン」

先日鑑賞の「ジョルスン物語」*1で描かれていたアル・ジョルスン出演の映画「ジャズ・シンガー」をアル・ジョルスンの出ているバージョン(1927)と80年代のリメイクと観比べてみた。さらに80年代リメイクでは父親役のローレンス・オリヴィエが良かったものでオリヴィエの後年の作で「マラソンマン」も鑑賞。

 

まずは1927年の「ジャズ・シンガー

ジャズ・シンガー (字幕版)

「ジョルスン物語」でもユダヤ系の厳格な家庭に育ちながら宗教的な勤めからエスケイプした彼を厳格な父が叱責するシーンから始まったがこちらもそのベースは同じ、そして「ジョルスン物語」では割合初期に家庭との問題が解決したのだが、こちらでは父の願い、周りの期待とジャズ・シンガーとして生きていきたい彼の気持ちとの相克がメインのストーリーに。

よく「ショー・マスト・ゴー・オン」なんていって劇場の幕があがったらなにが何でも続けなければいけないというような話を聞き続けている身としたら家のことはしょうがないじゃないかというような気持ちで観続けた。公開当時は今とは家のこととショービジネスの天秤具合が違っていたのかもしれないな。これからデビューのジャズ・シンガーという身分が自分が感じているよりもっと危なげがあり、手放しで称賛されるようなものじゃないという表現も見受けられた。

結局無理矢理八方収まったが「ジョルスン物語」はこの映画のつくりのちょっとすっきりしないところを思い切りカットし一応別の苦みもあるけど結局芸か家庭かという問題を明るいミュージカルに仕立てたものかもしれない。

ジャズ・シンガー」は初のトーキーとは厳密にはいえない、ということを時々読むがパートトーキーでアル・ジョルスンの歌声は味わえるようになっていた。

 

リメイク版の「ジャズ・シンガー」(1980)

ローレンス・オリヴィエ演じる父にとってそしてその元で育ってきた主人公にとってもユダヤ教の教えがいかに大事なものかということが丁寧に描かれていて、1920年代版に感じた息子の夢をやみくもに反対という感じはなかった。ユダヤコミュニティでの音楽もとてもすはらしく、以前観たクレズマー音楽のドキュメンタリー*2を思い出す。スタートもNYの街をゆっくり映し、これは人種のるつぼアメリカの中で自らの起源とアメリカ文化をどう溶け合わせていくかについての映画だと感じさせられた。途中、80年代映画によくあるサービスのつもりっぽいベッドシーンなどは余計と感じてしまったが、最後のニール・ダイヤモンドの「アメリカ」の曲は絶品だし老境に入ったローレンス・オリヴィエの演技はみていてとても気持ちが良かった。

 

さらに後年のローレンス・オリヴィエつながりで観たのは「マラソン マン」(1976)

ダスティン・ホフマン主演。彼は非業の死を遂げた歴史学者の父とエリート・ビジネスマンの兄を持ち、意識した挙げ句違う生き方をしようとしているところがみてとれる。日本にもよくいそうな目立ったり特別扱いの苦手な学生。

その彼がナチスの残党による収容所のユダヤ人から奪い取った金やダイヤモンドを巡る事件に巻き込まれるサスペンスであり人間成長のドラマだが、オリヴィエはナチス側。その憎たらしい程優雅な身のこなしは見どころあり。

冒頭ことの発端であるNYのユダヤ系とドイツ系人種による派手な交通トラブルの話や、ユダヤ人街の貴金属店での空気やらその時のNYの暮らしに密着した話はおもしろいのだが、途中去年日本で流行ったドラマ「VIVANT」に出てきたような超法的な特殊部隊の話など出てくると騙し合戦のようになり混乱する。父がマッカーシズムの犠牲になった話なども冒頭にでてきて、そのこともあって事なかれ主義的な彼が敵から逃げるのでなく対峙する物語ではあるのだが、オリヴィエ演じる歯科医のスキルを生かした拷問など部分が際立つあまり、テーマがぼんやりしてしまったきらいも。

ジョルスン物語

 

 

和田誠さんの愛する作品

「お楽しみはこれからだ」という和田さんの本のタイトルはこの映画の主人公アル・ジョルスンのセリフから。アル・ジョルスンが初のトーキー映画ともいわれている「ジャズ・シンガー」に出たのは 1927年、この映画は1946年の作品で、別の人が演じているが声はアル・ジョルスン自身の吹き替えだという。

もうショーで唄うのが好きで好きで芸道バカ一代みたいになってしまいがちなアル・ジョルスン。好きなことに夢中になりすぎる罪って誰でも多かれ少なかれあるよな。。

実話との乖離もあるだろうけれど彼の少年時代から中年期までテンポ良く一気に描きあげている。

アル・ジョルスンは田代まさしの居たシャネルズみたいに顔に墨を塗って舞台に登場したりする。昭和期には何ら気にせずシャネルズをみていたのに今や知らぬうちに令和ナイズされてしまってる自分はちょっとハッとしてしまう。