三度目の「七人の侍」

 

 

先日BSで放映していたのを「いつかちゃんと観たい」と言っていた家人と。

私は三度目*1。還暦夫婦には台詞が聞き取りにくく字幕がほしくなる。(録画設定見直し必要か?)録画したものを観るのをあきらめ、配信にあることを見つけ速度調整で0.8倍にしてなんとか聞き取れるように。

今回は左卜全三船敏郎の関わりがとても目にとまった。村人は班分けされ、左卜全は三船班。主に三船がおちょくったりの(といっても感じの悪いものではない)左卜全と三船の関わりあいは何シーンも積み重ねられ、終盤に繋がっていたんだな。左卜全、「どん底」でも大事な役を務めておられるが、黒澤監督にかなり見込まれておられたのだな。

そして一回目には、娘の身を案じるのが頂点に達している村人がいたなあくらいの認識だった藤原釜足、こちらも浅草オペラ出身の彼の音楽を交えたよい仕事を何度も目にしているもので、今回は終盤のシーンで笛を吹いている、さすが!となった。

木村功宮口精二へのリスペクト感なども覚えていたからそれはもう宮口精二のファーストシーンから始まっていることも確認。複数回鑑賞してる旨味を味わう。

ラスト志村喬の有名な台詞・・今回は三船敏郎と他の六人の闘い方の違いなどにも思いを馳せた。

そして音楽の効果も今回また実感。ある時は悲しそうにある時は鼓舞するように流れるあのテーマ音楽、盛り上がる。

*1:二度目はこちら

戦前松竹映画二本

戦前〜戦中映画を二本

1.東京の女

www.cinemaclassics.jp

wowow のリメイクドラマ*1を観たあとこちらを。

オリジナルだけみていると大げさで拙くもみえる悲劇にドラマはうまい肉付けをし、「東京の女」の弟、良ちゃんの持つイノセントさを上手にソフトランディングさせていたな、あのドラマを観たことでオリジナルを楽しめたなと感じる。

オリジナルに出てくるマスコミの土足感もリメイクではそれ自体を見世物にすることなく、マスメディアは絡ませながらも特定のなにかを悪者にして終わるのではない成熟が感じられた。

 

 

2.簪

 

再見

初回の印象*2は温泉宿にいる小言幸兵衛教授 斎藤達雄の面白さが中心だったが今度は再見の余裕からかもっとテーマに沿って余韻に浸れた気分。

日常から離れての温泉でのひととき。相部屋、碁の相手などの交流、そして干渉。。トラブルから生まれる意外と楽しき時間。現代でいうとちょっとシェアハウス的なおはなし。血縁関係はない人たちとも一緒にいるときは濃密に環境による苦楽を共にしたりして。

煩わしさもあるけれど休暇が終わりそれぞれの現実に戻るときこのひとときがなにかを変える力にもなるのかも。。って!すごい良い作品やん!わざとらしい盛り上げもないところがさらに余韻を残して。

こんなに尺とるか?とかいう部分もありつつも、このさりげないスケッチ風のまとめ方がほんと味わい深い。子どもの絵日記の使い方もすこくセンスが良い。

「簪」はふや町映画タウンおすすめペスト1000

台湾、街かどの人形劇

 

侯孝賢監督作の常連俳優で、布袋戲という人形劇の大家李天祿(リー・ティエンルー)を父に持つチェン・シーホァンを描いたドキュメンタリー。

チェン・シーホァン自身も台湾の人間国宝であるし、素晴らしい技なんだけど、父が婿養子であり、長男である彼は母方の姓を名乗り、父方の姓を名乗った弟さんが父の劇団を引き継いだことからなかなか複雑な事情が生まれているようである。日本の文楽でも後継者の育成が大きな問題になっているが、侯孝賢映画で自分も知っている有名な父の劇団ではなく彼がスタートさせた独自の劇団であることもちょっとした障害になっているようだし、父親が長男であった彼に非常に厳しくあげくに次男に劇団を譲ったという経緯が彼の心のこだわりになっているようで、彼自身も無意識の心の動きで実力ナンバー1の弟子でなくナンバー2の人間を一番弟子にした、というような弟子による述懐もあり、なかなか単純ではないつくりになっていた。

もともと神事のようなものであったのが今の需要は行政のフェスタ的なものへの参加ばかりということへの不満もよくわかる。そして、プロの矜持があり質素ではあるけど堂々たる魂を感じさせる彼にかなり低レベルな仮装大賞イベントの審査員をさせたりして、あまりの雑なクオリティに彼が憮然とするところなど、人間としての彼が描かれているところが面白い。神事としての人形劇だからいつも彼が携えている神像もとても大事でその像が海外公演のとき移動中になくなりかけ探しもの担当者にはただの遺失物だけどというような気持ちの落差もvividだった。神事としての人形劇、文楽で幕開けに三番叟が舞われることや、太夫さんが語る前に本に会釈される感じにも通じるな。

国の認定だかを受けるため、彼が考えるベストメンバーを訪ね丁寧にお願いし公演を実現させるシーンの呼ばれた一人ひとりの顔、様子、「ブエナ・ビスタ・ソシアルクラブ」*1みたいな雰囲気があった。

賢女気質

京都府立芸術会館にて人間座公演 

去年の12月に公演予定だったのだが出演者に健康不良が相次ぎ前日だか当日だか本当にぎりぎりに涙をのんで公演中止になったものの振替公演


f:id:ponyman:20240210193115j:image12月公演時チラシ

傘寿を迎えられる菱井喜美子さんがほぼ出ずっぱりの公演。観客席からの声援の拍手が気持ちよく、劇場に足を運ぶ良さはこれだなと思う。

自分は同じ原作で中平康監督によって「才女気質」というタイトルで映画化されたものを観たことがある。イノダコーヒが出てきたり京都の風景を楽しんだが、とにかく映画では轟夕起子が演じたこの女主人公がなかなか強烈でそれをからかう姑が清涼剤になっていた。

今回の舞台でもやっぱり女主人公はすごい勝ち気な仕切り屋。それにやっと対抗できるのは飛鳥井かゞりさんという女優さん演じる姑。映画ではもう何事にもお構いなしの婆さんという感じの役なのを洒脱に飛鳥井さんの個性にあわせた役にしてあり感心した。演出は下鴨社窓というところの田辺剛という方らしい。飛鳥井さん、着物の着こなしも洒落ていて粋。猫会議という劇団を主宰されている方らしい。

映画で大坂志郎が演じていた主人公の夫役。12月の公演では多賀勝一さんという私が高校生の時から注目してきたくるみ座出身のベテランが演じることになっていたのだが、今回、かなりお若い藤原大介さんという方にバトンタッチ。女主人公を演じる菱井さんとは実際には大変年の差かあったと思うのだけどとてもナチュラル。今回はこの人が清涼剤となった。(もともとはそれが主眼のはなしだと思う)劇団飛び道具というところの人らしい。

毛利菊枝さんの作られたくるみ座からの流れをつぐ人も創立者はじめ何人かいらして古い歴史を持つ人間座、自分も下鴨のスタジオで公演を観てきたが、ある時急に京都市から一般客向けの公演はできないエリアと指摘されアトリエての公演をあきらめ現在は貸しスタジオ的な運営をされている。そこへ持ってきての昨年の公演中止。今回劇場で心配し心を寄せている人が大勢いるんだなと肌で感じた。

大勢の他劇団からの客演、またいつも劇団から配られるチラシに載っている劇団の創立者である田畑さんの名を冠した「田畑実戯曲賞」の募集など若い息吹を取り入れを育てようという心意気に感じ入る。

↓人間座ドキュメントYoutube

youtu.be

 

 

 

フェイブルマンズ

 

スピルバーグの映画あまり観てこなかったけれど、やはりうまい。自身や父、母をモデルにしたこの作品、みせる技術と後進への贈り物のような内容に心が満たされる。ジョン・フォードが出てくるときいて観たのだけど、未来につなぐ映画のバトン、アメリカ映画らしい直球、こういうのもとってもいい。敬愛する母親の人間的なクセや優しき模範的技術者である父親の芸術へのごくナチュラルな体の無理解、卒業前の時期に転校し少しだけ在籍した学校での苦くも濃い体験などすべて映画と私という形で語られ、自分にも向けられていると強く感じた。緩急のつけかたもすごくうまく、すごいもんだなあとただただ感心と喜び。「リトル・ミス・サンシャイン*1や「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド*2で屈折感のあるピュアネスという感じの役回りを好演されてきたポール・ダノが父親役。優しき仕事人間で社会人としては評価されているのは間違いないのだけれど、それ故はみ出しものにとってはつらい判断を下すようにみえるあの違和感をうまく表現。

チェン・ユーシュン(陳玉勲)監督

先日宮藤官九郎脚本 山下敦弘監督で京都舞台の「1秒先の彼」を鑑賞

台湾の「1秒先の彼女」

 

という作品がオリジナルなのでそちらも併せて観たらほぼ同じストーリーなんだけど断然台湾版のテンポのほうが良く、監督を調べたら、90年代の「熱帯魚」や「ラブゴーゴー」のチェン・ユーシュン(陳玉勲)監督作品だった。二つとも大好きな作品だったので監督作に再会できて嬉しかったし、可愛らしくて面白い作風が健在でそれが大ヒットしたことに大きなよろこびを感じた。

そんな流れで久しぶりに「熱帯魚」も再鑑賞。

 

「1秒先の彼女」を観てからだと、2つの作品が監督の生んだ姉妹だなとはっきりわかる。ラジオ、美しい海辺、愛情たっぷりに描かれる街の人びと。劣等感。

「熱帯魚」の舞台設定は監督の出身地東石村。*1「1秒先の彼女」にも東石村がとても大事なシーンで出てくる。日本版リメイクではその部分、京都府天橋立や舟屋のある伊根町になっていたが、その選択に納得する海辺の良い雰囲気の町。

「熱帯魚」はまたほんとにテンポがよく笑ってぐっとさせる。誘拐にまつわるコメディなんだか誘拐される子どもたちのあざとくないかわいしさ、凶悪になれぬ誘拐犯の表情が最高で、彼の周辺の人物もたくましく面白く、演じている人の横の受けの芝居も本当に巧みで素晴らしい。良いひとときを過ごせた。

*1:実際の撮影は近隣の台南市・大甲ではあるが

京都不案内

 

谷根千ネットの森まゆみさん、以前仏教大学の文化講座で四条のフランソア喫茶室がテーマになった時講師の一人として招かれておられ*1、京都とも関わりを持っておられるのだなと思ったのだが、京都の気功の先生に師事しておられ身体のために簡単な下宿住まいもされていたらしい。それがまた私の生活圏である左京区で、話題に出てくる話がどれも身近も身近。興味の方向性、ライフスタイルの好みも似ていて興奮しながら拝読。楽しすぎた。小さな京都の町、どこかでご本人ともつながりそうな勢い。

京都で出会った方々とのお話も紹介されているが、稲垣真美さんという1926年生まれの作家の方のお話は、同年生まれの父を思い出す。同じ時代に生きた人らしい発言も懐かしく、ご著書も読んでみようかなと思った。

また京都の水脈についての話、今新幹線工事の是非が問われているが、太古の京都が湿地帯でその膨大な水の層があり、そのせいで夏は蒸し暑く、冬は底冷えがするけれど、その潤沢な地下水のおかげの染物や豆腐や湯葉、麩の味、また井戸水で淹れたお茶や珈琲のおいしさの話をきくと、確かに名店のおあげはそれだけで本当においしかったりするな、やはり水脈に影響を与えそうな工事はよろしくないなという気持ちになっている。