台湾、街かどの人形劇

 

侯孝賢監督作の常連俳優で、布袋戲という人形劇の大家李天祿(リー・ティエンルー)を父に持つチェン・シーホァンを描いたドキュメンタリー。

チェン・シーホァン自身も台湾の人間国宝であるし、素晴らしい技なんだけど、父が婿養子であり、長男である彼は母方の姓を名乗り、父方の姓を名乗った弟さんが父の劇団を引き継いだことからなかなか複雑な事情が生まれているようである。日本の文楽でも後継者の育成が大きな問題になっているが、侯孝賢映画で自分も知っている有名な父の劇団ではなく彼がスタートさせた独自の劇団であることもちょっとした障害になっているようだし、父親が長男であった彼に非常に厳しくあげくに次男に劇団を譲ったという経緯が彼の心のこだわりになっているようで、彼自身も無意識の心の動きで実力ナンバー1の弟子でなくナンバー2の人間を一番弟子にした、というような弟子による述懐もあり、なかなか単純ではないつくりになっていた。

もともと神事のようなものであったのが今の需要は行政のフェスタ的なものへの参加ばかりということへの不満もよくわかる。そして、プロの矜持があり質素ではあるけど堂々たる魂を感じさせる彼にかなり低レベルな仮装大賞イベントの審査員をさせたりして、あまりの雑なクオリティに彼が憮然とするところなど、人間としての彼が描かれているところが面白い。神事としての人形劇だからいつも彼が携えている神像もとても大事でその像が海外公演のとき移動中になくなりかけ探しもの担当者にはただの遺失物だけどというような気持ちの落差もvividだった。神事としての人形劇、文楽で幕開けに三番叟が舞われることや、太夫さんが語る前に本に会釈される感じにも通じるな。

国の認定だかを受けるため、彼が考えるベストメンバーを訪ね丁寧にお願いし公演を実現させるシーンの呼ばれた一人ひとりの顔、様子、「ブエナ・ビスタ・ソシアルクラブ」*1みたいな雰囲気があった。