盗まれた欲情

 

中河内にドサまわりのテント劇団がやってきて、だしものは、ストリップめいたカンカンショーと、みんながよく知っている古典的芝居。テント劇団に場所を貸してやる懇意のケチな地主の息子に小沢昭一。劇場での物販で一儲けしようとするバイタリティあふれる村のおばちゃんに大好きな武智豊子。しゃがれ声が嬉しい。西村晃も若々しくギラギラ。本格派演劇を目指すインテリ主人公長門裕之の悩みなんか知っちゃことじゃないが、「寝盗られ宗助」*1に通じるような芝居小屋の雰囲気がたのしい。

ラスト近く「鏡獅子」のシーンがなかなか良い。それを演じているのは柳澤愼一さん。三谷幸喜の「ザ・マジックアワー*2でかっこいい往年のスターを演じた人だ。

酔っぱらい天国

 

渋谷実監督 1962年。

陽気なタイトル、笠智衆や三井弘次、伴淳三郎がべろんべろんになって威勢だけ良い冒頭でうっかり最後まで楽しむつもりでいたら。。。ああこれは渋谷実監督作品だったな、それだけでは済まされなかったな、とまたまた思わされた。*1

三井弘次氏の御命日にこの作品のことを語っている方をtwitterで何人かお見かけしたが、確かに三井氏の出番も多いし面白味もこの作品では際立っている。戦後の三井氏、図々しかったり辛辣だったりちゃっかりしてたりというクセのあるキャラクターをよく好演されているが、普段より作品のメイン的役回りで、三井氏の毒がちょっと救いに感じるようなところもあり、お誕生日に取り上げられるのもわかる。

www.pasonica.com

 

自分には三井氏、小津監督の戦前の「浮草物語」*2で純粋な前途を期待されている学生を演じていたのが戦後のリメイク「浮草」ではすっかりすれっからしの役になっておられるのがおかしくも印象的でそのことばかり思い出してしまうのだけど、こちらのブログの三井氏の話も良かった。

この映画、笠智衆が主演と感じたがamazonの紹介では津川雅彦の名が一番にあがるんだな。ビデオのキャスト一覧も津川雅彦倍賞千恵子がトップ その次に笠智衆。津川氏、ハンサムで目立つ役ではあったけど、笠さんが一番心を動かされるメインの役だ。前半の呑気ぶり、中盤の立ち直りが後半にじわっと効いてくる。しょっぱな石浜朗との微笑ましい親子っぷり、小津監督の「秋刀魚の味*3(1962 この作品と同年)の後編も思わすような空気だったのに。。どちらが先かは知らないけれど、小津安二郎の常連笠智衆だからこその異化効果なんだけど、なかなか観る側に厳しい演出がちらほら。笠氏が上がり降りするモダンな階段セットなど心に残る。美術 浜田辰雄とある。

*1:直近に観た「現代人」でもエグみに少し驚いたし、「てんやわんや」や「自由学校」を観たときも妙な落ち着きのなさ、踏み込みを感じた。

*2:浮草物語、浮草 - 日常整理日誌

*3:秋刀魚の味、彼岸花、秋日和 - 日常整理日誌

ブラザー・フロム・アナザー・プラネット、希望の街

ジョン・セイルズ監督の作品を二本。

一本目 ふや町映画タウンの【けっこうおすすめ ☆☆】の「ブラザー・フロム・アナザー・プラネット」(1984)

壮大なSFものだったら苦手だな、と思いながらの鑑賞だったが、まるで違った。一応別の星からNYハーレム地域に迷い込んだエイリアンの話だが、その黒人のみなりをしたエイリアンは全くしゃべらなく、ノンバーバルコミュニケーションのみなので、出会った側も、エイリアンとは思っていなく、コミュニティに迷い込んできたちょっと変わった人、として対応していく。迎え撃つ方はそれぞれで、警戒心の強い人、寛容な人、厄介ごとはいやだけど仕方なく関わる人、まあいいかと最初は面倒をみるけれど、状況が変わってきて態度を変えざるを得ない人などなど、グラデーションも豊かでまさに自分の側で起きたことのように楽しみつつ入り込んで観ていける。

黒人に対して保守的な白人はこう思っちゃうよなというところもごく自然に描かれていたり、同じ白人で生活は荒れ気味でももうどっちでも同じでしょみたいな妙なあきらめと寛容さを持ち合わせた対応になる人もあり、何かトラブルになりそうだという気配を漂わせた相手の意外な一面が描かれたり、お役所仕事が皮肉にも良いように展開したり、あらゆる決めつけから自由な展開をし、そして、いかにもNYという感じで観ていてとても気持ちが良い。エンターテイメント性をしっかり保ちながら、自分ならどうする?ということも考えさせるとても爽快な作品だった。

 

で、続けて観たのは「希望の街」(1991)。

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ビデオジャケットの解説の言葉を借りると「30人を超える登場人物たちの織り成す群像劇が政治的腐敗や人権問題など現代アメリカが抱える”街”の姿を浮かび上がらせる。」というわけで、はじめ登場人物が多すぎて何が起きているのかわからなかったが、だんだんに焦点がビンセント・スパーノという俳優の演じるイタリア系青年ニックに絞られるようになると輪郭がみえてくる。観客がこの街に迷い込んだような形で街のことを知っていくこの形式もあとから考えると魅力的かも。最初はとりあえずわからないまま話に巻き込まれていくクドカン形式?

黒人と一口にいっても政治家、運動家、町の不良それぞれで、よく考えれば当たり前のことなんだけど、「黒人として」「黒人を守って」、自分の意に反する行動をとらなきゃならないのか、という問題に意識の高い黒人政治家がぶち当たったり、また白人社会の中でも、仕事を円滑に進めること、社会的に取り繕っていくことと自分の中の正義の葛藤など、普遍的ともいえる問題が描かれ、登場人物に同調しながら物語を追っていける。そして、決着点がきれいごとぽくなくて楽しめた。

木村家の人びと

 

居島一平坂本頼光の暗黒迷画座」という映画紹介トークyoutubeで公開されている。

youtube.com

最初に見た「悶絶どんでん返し」の解説がすごく面白く、続けて「小原庄助さん」の回も拝見。そこで「小原〜」で奥さん役をされた風見章子さんがこの映画にも出ておられることを知り、風見さん目当ての鑑賞。風見さんは昭和の後期に品の良いおばあさん役をたくさんされているが、こちらも少し認知症が始まってはいるものの加藤嘉の心をとらえる美しい老婦人役。加藤さんもとてもかわいい明るい衣装で登場。

木村家はとにかく小銭稼ぎに目のないファミリーなもので人のためにお金を使って立ち行かなくなる小原庄助さんとは対照的。今流行りのアプリ等でポイントをためるポイ活に通じるようなメンタリティーも感じるが、ポイ活みたいに企業等に利用されている感じではなく、自らアイデアを絞ってサイドビジネスの鬼となっており、親戚を泊めたら代金を要求するようなところは滑稽感も漂う世知辛さも感じさせるが、逆に考えたら何でもお金で割り切っていて付き合いやすいようにもみえるし、自ら立案して体を使って小銭を集めることが変でもなんでもないようにみえたりした。この作品が作られたバブルの時代には笑いの対象になっていた小銭稼ぎビジネスが今では笑えないほどリアルだからかな?

お色気電話ビジネスの表現は、反復もありもう少しさらっとした表現でもいのでは?と思った。アルトマンの「ショート・カッツ」とかでは同様の表現に面白さを感じたのだけどな。ピンク映画のなごり?ちょっとした差なんだろうな。竹中直人の廃品回収業者対子ども会の場面も自分からみたらやりすぎの感じ。じゃあどう表現すればちょうど面白いのか?という話なんだが・・ダンス教室のくだりでは、螢雪次朗演じる講師が「Shall we ダンス?」での竹中直人風。これはこちらが先。

カネカネカネの木村家に疑問を感じてしまう小学生の息子は伊嵜充則。「八月の狂詩曲」でも大事な役をつとめ、メーキング*1で黒澤監督にほめられていた子だ。

あなただけ今晩は

 

三谷幸喜氏のビリー・ワイルダージャック・レモンへのリスペクトがわかる作品ときいての鑑賞。

舞台はパリ。ジャック・レモンが途中から英国紳士に化けたりするのだが、そのときの振る舞いがローレンス・オリヴィエマリリン・モンローの「王子と踊子」*1みたい。。と思っていたら劇中でもオリヴィエへの言及あり。イギリス英語といえば、という感じで「マイ・フェア・レディ」の台詞を連発するのも楽しい。

きわどい内容も決して観るものが恥ずかしくなったりしない手腕。ラストへのうねりも秀逸。

ドラマ「王様のレストラン」のラストの謎の展開がこの映画をみてわかった。ここからだったんだな。←ここもとても洒落ている。

ジャック・レモンシャーリー・マクレーンの二人を見守るビストロの主人がものすごくいい味。淡々と仕事に徹していつつの彼のユニークな立ち位置、すごいいい味!これは三谷幸喜の作品に色々生かされていそう。ちょっと思い出すのは「古畑任三郎」の中での八嶋智人の役回りとか。。

雪の断章 ー情熱ー

 

珍妙なところあれど不思議な魅力がある映画ということで観てみた。85年相米慎二監督作品。「探偵物語」(83年)や「Wの悲劇*1(84年 こちらでも世良公則が大事な役)、「はるか、ノスタルジィ」*2(93年 北海道が舞台というところが同じ)など80年~90年初頭のアイドル映画に共通する空気を感じた。少し少女漫画的というかファンタジー的飛躍のある感じ。「ガラスの仮面」のような空気も。みせる力はある。

エンドロールや要所に不思議な気配を持つ人形が出てくるが、「自動人形」と紹介され、スタッフ名に小竹信節さんという名前。調べると「天井桟敷」の美術監督をつとめていた方らしい。それで妙に不穏だったんだ。プロフィールには「1991年度スパイラルホール(株式会社ワコールアートセンター)の芸術監督に就任し、人間のいない装置のみによる演劇を試みる。」と書かれている。自動人形とはそういうことかな。

源氏物語」の紫の上的なストーリー、孤児もの、殺人事件など取り混ぜた話の展開はちょっと荒っぽい気がしたのだけど、前述の自動人形風の大きなピエロが不穏に歩いてみたり古典劇のような白装束の人たちがぼんやりとバックにあらわれてみたり、主人公が口ずさむ歌が妙に古風だったり妙に前衛的なにおいも漂わせている不思議な映画だった。

河内桃子がおせんべいをガリガリ齧ったりするちょっと無神経な、カネさんなんて名前のお手伝いさんで意外な気がした。河内桃子といえば、自分の中のイメージではカトリックの布教番組「心のともしび」で朗読。さらには、山田太一のドラマ「沿線地図」でのハイソな奥様役。下町の電気店の店主河原崎長一郎を誘惑してお茶の間に衝撃を与えたりしているようなとにかく上品がベースのイメージなので。成瀬監督の「妻」で高峰三枝子もおせんべい齧ってがさつな妻を演じていたがああいう流れかな・・

地上

吉村公三郎監督 1957年作の「地上」を鑑賞。

地上 [DVD]

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  • 川口 浩
Amazon

MONさんという方のかわいいイラストがビデオジャケットに使われている。

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MONさん、名前で検索したら「あの子を探して」や「点子ちゃんとアントン」の楽しいイラストエッセイも紹介されている。(こちら

VHSのイラストは川口浩野添ひとみに絞って描いてあるが、川口浩の母役田中絹代も転落して仕方なしに芸者づとめをしているけれど奥ゆかしい香川京子も大変好演。

吉村公三郎 人と作品 映画は枠だ!」という本の中の佐藤忠男氏による「吉村監督作品24選」の一本に選ばれている。吉村監督自身も「夜明け前」「足摺岬」に続いて気に入っているとのこと。「足摺岬」は未見だが、「夜明け前」*1確かに良かった。

 

舞台である金沢の風景が美しいのだが、もともと吉村監督は室生犀星が好きで彼の原作の作品を撮りたかったが大映の製作担当重役の川口松太郎に相談すると地味すぎるということで代案として同じ金沢出身で同時代の島田清次郎で一時はベストセラーになった「地上」の方を勧められたという。もともと文学的に高い内容のものでないので、時代も原作からあとにずらし大正8年、労働争議が起きた頃の話にしてあるという。

その労働争議に現場として出てくるのが

f:id:ponyman:20220412082551j:plain日本硬質陶器株式会社

f:id:ponyman:20220412082637j:plain作っている陶器の図柄にも見覚えがあり、調べたら、日本硬質陶器株式会社は現在のNIKKOで、HPの沿革のところに輸出用にもこの種の陶器がつくられたこと、旧加賀藩前田氏と当時の有力者らが尽力し金沢市で創業した旨が書かれている。

www.nikko-company.co.jp

佐分利信が東京から金沢の現場を視察に来る旦那様的な天野一郎という役で「これはなにか前田家と関係のある?前田家の東京の邸宅すごいからな・・」と思ったりしたが、原作や原作者島田清次郎のことを紹介してあるサイト*2などみてみてもはっきりしたことはわからなかった。

前述のサイトをみていると、第一部は主人公が東京で天野の世話になったりするあらすじなのだが、映画はそういう風には描かれていない。香川京子演じる慎ましやかだけど貧しい知り合いの女性も泣く泣く資本家のお妾さんとして上京することになり、資本家には負けておれんぞ、俺も上京するぞ、みたいな流れで原作と変えてある。原作も第二部以降資本家との対決があるのかもしれないが。。今、豊田四郎監督版の「濹東綺譚」を観ているところだが、新藤兼人*3とは設定が違っていて、主人公(芥川比呂志)がさる大旦那様の元書生で旦那様のお手付きの女性(新珠美千代)と結婚、旦那様のこどもの養育費をもらうという状況にイライラしていて、ちらっと「地上」の原作のことが頭を掠めた。

*1:夜明け前 - 日常整理日誌

*2:こちら 友人から名前をきいている「栄光なき天才たち」のことも言及されていて、いろいろに面白かった

*3:濹東綺譚 - 日常整理日誌