浮草物語、浮草

 

浮草

浮草

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 「浮草」はずいぶん前に観ていたのだけど、今回戦前バージョン「浮草物語」と戦後の「浮草」を観比べてみた。「浮草物語」はNHK小津安二郎生誕100年の時に放映したもので、倍賞千恵子寺田農が声をつけていた。(無声映画の字幕の部分を読んだり「かんぴょうが干されています」みたいなちょっとした説明を加えたり・・)

「浮草物語」は、しゃれた短編のような風合い、「浮草」はそれぞれの人物のいい分が濃く描かれていて、名乗りをあげていない息子のことを気にかけている旅芸人の物語という大筋は同じでもニュアンスが違っていた。

ふや町映画タウンの大森さんはコンパクトにまとまっている分、戦前の「浮草物語」に高めの点をつけておられたが、どちらも良いですよねと先ほどお店で話しあったところ。私も味わいとして戦前版が良いようにも思いつつ、戦後版もどの画面もどの画面も絵葉書になりそうな素晴らしい構図だらけだし(カメラマン 宮川一夫)、鴈治郎さんの息子に久々に会える時の高揚感の表現などがすばらしく(早口になったり階段を駆け上がったり・・)それぞれの良さがあると思う。戦後版の方がエピソードのそれぞれが生々しくなっているという気はとてもする。

戦前版で出し物として舞台が出てくるのが、「慶安太平記」丸橋忠弥の物語。丸橋忠弥って母親の姓を名乗っているというような説があるらしく、この物語とリンクしているなあ。そして戦後版では、息子に「あんなに眼を向いておじさん*1の芝居は時代遅れだよ。社会性もないし・・」などといわれている。それに対し、鴈治郎さんの「丸橋忠弥は昔の人やがな。(だからあれでいいんだ)」みたいな会話も楽しいし、鴈治郎さん演じる旅芸人駒十郎は、自分と同じ道なんかより勉強して上の学校に行ってちゃんとした職業についてもらいたいと願っていて、息子のそんな批判が嬉しいのが伝わりほほえましい。(ちなみに戦後は出し物として国定忠治とか「南国土佐をあとにして」の曲がかかったりしていた。)

戦前の坂本武演じる旅芸人喜八も願いは同じ。息子は自分の芝居なんか観に来なくてよい、という感じ。でも一緒に釣りにいったり、つっこまれたりするのが嬉しくてたまらない。戦前版は旅の一座にいる子ども役の突貫小僧がすごくいい味を出しているのだが、(かわいい貯金箱のエピソードや、おねしょのエピソードなど)突貫小僧の個性あってこそだなあ。先日突貫小僧(青木富夫氏)の晩年の映画「忘れられぬ人々」*2をみていたものでますます気分が盛り上がる。

一座の中で大きくなった娘(戦後版で若尾文子が演じてた役)、戦前版の坪内美子が控えめでかわいくすごくいい感じ。

旅芸人の息子の母は戦後が杉村春子、戦前が飯田蝶子。両方とても良い。飯田蝶子は自分を主張しなくて流れに身を任す感じが(戦前版はどの登場人物もその傾向)、戦後版も杉村さん、程よく地味で落ち着いていて。

戦後版の一座の一員になっている浦辺粂子の姿も楽しい。

笠智衆が、戦前版では(多分)客席でワンカットだけ映るのだけど、戦後版では小屋の旦那としての会話があるのが戦前戦後を結ぶ糸みたいになっている。

舞台は戦後版は海(ロケーション三重)、戦前版は中央線の奈良井。奈良井は現在でも古い町のたたずまいを残していて、数年前に歩いただけにこれも嬉しい。

二作品観比べられて、本当に楽しい時間だった。やはり優れた作品との時間って素晴らしいな。

*1:ということになっている

*2:忘れられぬ人々 - 日常整理日誌