地上

吉村公三郎監督 1957年作の「地上」を鑑賞。

地上 [DVD]

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  • 川口 浩
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MONさんという方のかわいいイラストがビデオジャケットに使われている。

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MONさん、名前で検索したら「あの子を探して」や「点子ちゃんとアントン」の楽しいイラストエッセイも紹介されている。(こちら

VHSのイラストは川口浩野添ひとみに絞って描いてあるが、川口浩の母役田中絹代も転落して仕方なしに芸者づとめをしているけれど奥ゆかしい香川京子も大変好演。

吉村公三郎 人と作品 映画は枠だ!」という本の中の佐藤忠男氏による「吉村監督作品24選」の一本に選ばれている。吉村監督自身も「夜明け前」「足摺岬」に続いて気に入っているとのこと。「足摺岬」は未見だが、「夜明け前」*1確かに良かった。

 

舞台である金沢の風景が美しいのだが、もともと吉村監督は室生犀星が好きで彼の原作の作品を撮りたかったが大映の製作担当重役の川口松太郎に相談すると地味すぎるということで代案として同じ金沢出身で同時代の島田清次郎で一時はベストセラーになった「地上」の方を勧められたという。もともと文学的に高い内容のものでないので、時代も原作からあとにずらし大正8年、労働争議が起きた頃の話にしてあるという。

その労働争議に現場として出てくるのが

f:id:ponyman:20220412082551j:plain日本硬質陶器株式会社

f:id:ponyman:20220412082637j:plain作っている陶器の図柄にも見覚えがあり、調べたら、日本硬質陶器株式会社は現在のNIKKOで、HPの沿革のところに輸出用にもこの種の陶器がつくられたこと、旧加賀藩前田氏と当時の有力者らが尽力し金沢市で創業した旨が書かれている。

www.nikko-company.co.jp

佐分利信が東京から金沢の現場を視察に来る旦那様的な天野一郎という役で「これはなにか前田家と関係のある?前田家の東京の邸宅すごいからな・・」と思ったりしたが、原作や原作者島田清次郎のことを紹介してあるサイト*2などみてみてもはっきりしたことはわからなかった。

前述のサイトをみていると、第一部は主人公が東京で天野の世話になったりするあらすじなのだが、映画はそういう風には描かれていない。香川京子演じる慎ましやかだけど貧しい知り合いの女性も泣く泣く資本家のお妾さんとして上京することになり、資本家には負けておれんぞ、俺も上京するぞ、みたいな流れで原作と変えてある。原作も第二部以降資本家との対決があるのかもしれないが。。今、豊田四郎監督版の「濹東綺譚」を観ているところだが、新藤兼人*3とは設定が違っていて、主人公(芥川比呂志)がさる大旦那様の元書生で旦那様のお手付きの女性(新珠美千代)と結婚、旦那様のこどもの養育費をもらうという状況にイライラしていて、ちらっと「地上」の原作のことが頭を掠めた。

*1:夜明け前 - 日常整理日誌

*2:こちら 友人から名前をきいている「栄光なき天才たち」のことも言及されていて、いろいろに面白かった

*3:濹東綺譚 - 日常整理日誌