行司千絵さん

京都新聞で気になる記事を見つけると「行司千絵」さんという方の署名記事であることが多い。このお名前、どこかで見た・・と思っていたら、ブックマークして巡回している神戸山さんのブログ「2ペンスの希望」で行司さんの本のことを取り上げておられていたのだった。

kobe-yama.hatenablog.com

春の頃だったか、休眠中で気になっていた京都の雑貨店 西陣alphabetのオーナーが宿屋れもんというところを田辺市で運営されていることを記事にされていたし(オーナーのtwitter IDはこちら。)

6/2の夕刊も京都国立博物館のサイトにあるグレゴリ青山さんのエッセイ漫画について紙面のトップで取り上げておられてなんだか自分の関心に攻め入られている。行司さんの署名記事見つけたらこれからも読んでいこうと思っている。

グレゴリさんの連載はこちら

行司さんのことを調べていたら・・誠光社でも面白いイベントされていたんだなあ・・↓

www.seikosha-books.com

 

二十世紀少年読本、夢みるように眠りたい

京都、左京区に三茶という心惹かれるレトロ喫茶があったのだけど、そちらを林海象監督が2008年にリニューアルされ、「BAR探偵・喫茶探偵」となった。

kyoto.bartantei.com

 

地元なので友人*1と会うのに何度か使っていたのだけど*2レトロ喫茶として楽しみはしていても肝心の林海象監督作品をみていないもので秘密部屋などの工夫や監督作品の細かい話になるとわからなく、ちょっともったいない過ごし方になっていた。

時は経ち、やっと林海象監督作品を観ることに。

まず観たのは「二十世紀少年読本」。 

二十世紀少年読本 [DVD]

二十世紀少年読本 [DVD]

  • 発売日: 2002/03/20
  • メディア: DVD
 

 林海象監督の作品の中で一番好きだと趣味を信頼している知人が語っていたもので、私も観てみた。

モノクロでサーカスにまつわる戦前風のにおいもする作品。まず注目は団長役の大泉滉 さん。大泉滉さんというと、昭和元禄の頃の生まれの自分には胃腸薬のCMの恐妻家風の印象が強かったのだけど、子役時代の映画「風の又三郎*3の、これは確かにロシア系だというような少年ぶりをみて、そこからみる眼が変わった。そして、皆そう思っているかもしれないけれど、ただの胃の悪いおじさんじゃないんだよ、という気持ちが強くなっていたもので、この皆の支柱となるような団長の役、しかも、「風の又三郎」に出てくる印象的などーどどの唄を口ずさんだりされる姿にとても嬉しくなった。

画像

 三上博史が弟とサーカスで育ったけれど、そこから飛び出し、夢を売るのは同じとうそぶくかなりぼったくり系の香具師として登場する。しかし、その口上の気持ちの良いこと。プロの輝き。美術は木村威夫氏。紙芝居のようなロマンスもとても輝いてみえ夢のようなひとときを楽しめた。

 

続いて観たのが「夢みるように眠りたい」 

夢みるように眠りたい [DVD]

夢みるように眠りたい [DVD]

  • 発売日: 2000/11/24
  • メディア: DVD
 

2018年の京都国際映画祭での「サイレント・クラシック映画」の一覧に載っていて気になっていた。上のDVDの表紙も鞍馬天狗風だし。

2018.kiff.kyoto.jp

 

これぞ「BAR 探偵 喫茶探偵」のコンセプトだなと思わせる佇まい。怪しい探偵事務所にやってくる相談者。相談者の老紳士、ものすごく気になるお顔立ちだと思ったら、吉田義夫さんという俳優さんで、実写版テレビドラマ「悪魔くん」のメフィスト博士を演じておられた方だ。奇しくもほとんどテレビや映画を観ない家族が幼い時すごく心に残っていた俳優さんらしい。またまた注目の渋俳優さんが増えた。

二十世紀少年読本」も「夢みるように〜」に共通してヒロインとして出演は佳村萠氏。「泪橋*4にも出ていた人だ。藤谷美和子氏や小林麻美氏もちょっと思い出すような80年代幻想的雰囲気の方。検索すると愛川欽也氏のお嬢さんと出てきたりしている。

拳銃王、ママの想い出

1950年前後のクラシックハリウッド映画を二本鑑賞。

一本目は1950年の「拳銃王」。ふや町映画タウンのおすすめ☆☆(けっこうおすすめ!!)

先日NHKBSで放映。以前観たことのあるやはりふや町のおすすめ印の「拳銃魔*1と混同していが、「拳銃魔」の方は「Gun Crazy」、「拳銃王」の方は「Gun Fighter」。「拳銃魔」の方はガンマニアの元々はおとなしい主人公が巻き込まれみたいな感じで逃避行する話だったが、「拳銃王」の方は、渋くて深い大人の西部劇。グレゴリー・ペックがリンゴ・キッドというガンマンをモデルにしたおたずね者の役を演じているが、拳銃王なんていわれ命のやりとりをする人生ロクなものじゃないという苦みがあり、撃ち合いなんて興味のない自分にも十分楽しめる人間ドラマだった。リンゴ・キッド(ジョニー・リンゴ)というのはwikipediaによると、「駅馬車*2ジョン・ウェインが演じた人物であり、「OK牧場の決斗」などにも出てくるらしい。

グレゴリー・ペックがGun Fighterというのも珍しい気がしたが、これまたwikipediaによるとイメージと真逆の役への挑戦だったとか。彼とは昔の仲間という設定のマーク保安官という人物が私にはいぶし銀でかっこよく見えたが、ミラード・ミッチェルという俳優さんで、「雨に唄えば」の社長役だったとか・・どんな感じだったかな?

拳銃王 [DVD]

拳銃王 [DVD]

  • 発売日: 2004/05/21
  • メディア: DVD
 

 もう一つは1948年「ママの想い出」。

アメリカのつつましくも、信念を持って生活をしている家庭の物語。「信念を持ってそれを表明する」「大事なものを見極める」、「拳銃王」でもだったけれど「わが谷は緑なりき*3や「必死の逃亡者」*4「招かれざる客」*5などでもそれを感じたし、こういうことがクラシックなアメリカ映画ではしばしばきちんと描かれて事なかれ主義者の自分は感心する。*6 この映画ではお金に替えられない豊かな時間の価値というのを決然とママが態度で表現するところが心に残る。

そして、ネコ派の私にはたまらないネコのエピソードやしゃれた演出も。

みんないい人、なんて設定でなく、姉妹のやっかみとか黒い感情も描かれていて現実的で面白い。

ママの想い出 [DVD]

ママの想い出 [DVD]

  • 発売日: 2005/12/26
  • メディア: DVD
 

 

*1:拳銃魔 - 日常整理日誌

*2:駅馬車 - 日常整理日誌

*3:わが谷は緑なりき - 日常整理日誌

*4:必死の逃亡者 - 日常整理日誌

*5:招かれざる客 - 日常整理日誌

*6:「招かれざる客」は67年と時代が後だが、オールドハリウッドの流れを持った映画と感じている。

ジェーン・カンピオン監督

ピアノ・レッスン」(1993)で有名なニュージーランドジェーン・カンピオン監督の作品をいくつか観た。

まずはtwitterでタイトルを拝見した「ルイーズとケリー」(1986)。

movies.yahoo.co.jp

10代の少女の気持ちを事実の積み重ねで描き簡潔で充分な表現。時系列が新しいものから古いものへとすすみ種明かし風でもあり、そういうことを踏まえての今なのかと最初のシーンが違って見えるような構成。ドラマ「木更津キャッツアイ」の巻き戻しのシーンも思い出す。ラスト近く手紙のシーンで表現される登場人物のこころの世界がみずみずしくも切なかった。

 

次に観たのは「ある貴婦人の肖像」(1996)。

ある貴婦人の肖像 [DVD]

ある貴婦人の肖像 [DVD]

  • 発売日: 2011/09/09
  • メディア: DVD
 

こちらはヘンリー・ジェイムズの大河小説の完全映画化とのこと。ジェーン・オースティン作品のような女性×結婚のテーマを、ニコール・キッドマンを主役に据え、シリアスでとてつもなく贅沢に美しく描いている。

世間的な常識から逃れ、美の信奉者を選んだ主人公の悲劇。19世紀という時代設定ならではの大がかりさで面白みが増しているけれど現代にも通じる話だと思う。嫌ったらしいディレッタント人間をジョン・マルコヴィッチが好演。この人が一番いいのにと思ってしまう病弱な従兄弟を演じたのはマーティン・ドノヴァン。ハル・ハートリー監督作品の常連だ。ハル・ハートリー監督とは趣が全く違うこの大時代な作品の中で十九世紀的人物をしっくり演じており同一人物と全く気が付かなかった。

もう一人有力候補として出てくるのがヴィゴ・モーテンセン。最近は映画「グリーンブック」でまた違った魅力を出しておられるときいていて興味を持っているが、私には「ロード・オブ・ザ・リング」のストイックな勇者として記憶している彼が、ちょっとヒネた感じも持つ青白い炎が気になるような求婚者として出てくる。

ヴィゴ・モーテンセンやマルコヴィッチに惹かれそうになるキッドマンの演技が官能的だ。産む性として、また社会的な縛りの中であの輝ける少女時代はどこに・・という部分が多くの女性にはあると思うが、その始まりの感じをとてもうまく美しく表現している。

三番めの作品は「エンジェル・アット・マイ・テーブル」(1990) 

エンジェル・アット・マイ・テーブル [DVD]

エンジェル・アット・マイ・テーブル [DVD]

  • 発売日: 2005/06/24
  • メディア: DVD
 

監督の母国ニュージーランドを代表する女流作家ジャネット・フレイムの自伝3部作を映画化したもので、今回観た三作品の中で私はこれが一番好きだった。「ピアノ・レッスン」を観た時*1、映像の美しさを感じる一方、動かしがたい雰囲気の登場人物たちに圧倒されもしたのだけど、この映画にも冷厳な現実は横たわっているものの内気なジャネットの小学校の失敗談から始まって親しみやすい語り口。異性への興味と異性からの無理解、そこからの悲劇は「ある貴婦人の肖像」とも「ピアノ・レッスン」とも通じる。いずれの映画も悲劇的な部分はしっかり描かれるけれどそれだけで終わってない。そこからの再生(あるいは再生へのともしび)が安易でない形で描かれおり、悲劇を売りものにするのでなく、いろいろあるけれど生きていくさという感じが気持ち良い。

アラン・シリトーが出てくるがImdbをみると、本人が本人役で出ているわけではないようだ。交流があったんだな・・映画で描かれているが、誤診でロボトミー手術の寸前までいくとはそら恐ろしい・・

ピアノ・レッスン」も今観るともっと深く鑑賞できそうだ。20年前友人が掲示板で書いてくれていた「女性の立場から感じる愛や官能を描いている」という言葉が今また響く。

物語の深刻さを和らげてくれるはっとするような美しい映像もどの作品でも特徴的だ。

死刑執行人もまた死す

 

 大傑作。ふや町映画タウンのおすすめ度も高く、父もビデオ録画版もあるのにDVDであえてさらに買っていてこれは・・と鑑賞したが、本当に観てよかった。

タイトルから重々しい話なのかと手に取るまでに時間がかかったのだが、とってもうまい作り。「死刑執行人」というのは、チェコを支配していた人間の異名。チェコの人々が強いられている状況が冒頭少しの描写でわかるようにしてあり、あとはどんどん話にのっていくだけ。そしてパズルのようにたくみに人や人の動きが配置され、それがご都合主義でなく皆その人の必要にかられての自然な行動として感じられる。すばらしい配置。暗殺ものだけど、その実行を描くのでなく、暗殺が起きたあとのチェコの人々の対応を描くユニークさ。脱走もののようなハラハラ感を味わっている中に人の持つ崇高さが描かれその加減がすばらしい。影の使い方、モノクロ画面の美しさなどこういうのをドイツ表現主義と呼ぶのだろうな・・と味わう。「フリッツ・ラング」「ドイツ表現主義」などの単語から、敬わなきゃいけないけれど気合いのいるもののように勝手にハードルを設けていたが巧みな話術によって退屈させない作品で、自分の先入観は誤解だった。「THE END」の文字の前に流れる「NOT」の大書。力強い。(論座に載せておられる藤崎康さんという方の記事を読むとナチスとの戦いが現在進行形であるという意味と書かれていたが、自分には作られた時を超え、こういう闘いは観ているあなたの前でも現在進行形なんだよ、と自分にダイレクトに迫るものがあった。)

wikipediaによると、当初は120分版だったが、134分の完全版が1987年に公開されたそう。ふや町映画タウンでは120分版が★★★(むっちゃ、おすすめ!!!!)、私の観た134版(完全版)は☆☆☆(かなり、おすすめ!!!)評価。

帝都物語

 

帝都物語

帝都物語

  • メディア: Prime Video
 

 岡本喜八監督の「大菩薩峠*1を観たあたりから西村晃氏のことが気になり始め、この作品では、日本で初のロボット「學天則」発明者である実父西村真琴氏を演じておられるときき、観てみた。荒俣宏氏の博物学知識に実相寺監督の仏教的色彩がミックスされた作品。

クリーチャーなどは力が入っていたけれど、SFXの戦闘シーンなどは年代がたつとチャチにみえるところもあるし、もともと自分があまりそういうシーンが好きでないものでこれは映画でみるより本で読んだ方がよいのではないかという気持ちになるところも。(作って見せてしまった時点で限界があると思うので。ただ造形物の中に千手観音的なものがあったりするのは楽しかった。かねがね持ち物を持たれたり、乗り物に乗ったりされている仏様を拝見するたび、現代のゲームに登場してもおかしくないと思っていたので。)

しかし明治以降の中央政府のありかたに将門の霊をからませ、大正の終わりから昭和の初めの頃を描く切り口は面白いし、その時代への興味ということからは楽しめる。

泉鏡花役、なにかほかの出演陣と間合いが違うと思ったら坂東玉三郎。 

いとうせいこう氏が考現学今和次郎氏役。ぴったり。

渋沢栄一、先日「100分de名著」でその著書「論語と算盤」を取り上げていて、「資本家=欲のかたまり」みたいなシンプルな捉え方はあまりに滑稽であったと気づかされたのだけど、この映画では勝新太郎が演じていて、自分のイメージより軽い印象。私のイメージによるキャスティングなら三國連太郎かな、と思ったりもした。

www.nhk.or.jp

 

石田純一がものすごい霊力を秘めた将門の子孫なんだけど、当時は今より正統派二枚目扱いだったとは思うけれど、もう少し凄みがほしい。

東京のえくぼ

 

東京のえくぼ [DVD]

東京のえくぼ [DVD]

  • 発売日: 2005/09/22
  • メディア: DVD
 

 この映画を観たきっかけは大好きなHP「キネマ洋装店」での紹介。

cineyoso.movie.coocan.jp

 

ちょっと「ローマの休日」(1953)*1の男女を逆にしたようなストーリーなんだが、こちらのほうが早く作られている。(1952)オードリー役というか承認ハンコに明け暮れる社長役が上原謙

f:id:ponyman:20210511122100j:plain彼の会社(紀伊国屋物産)の社長(世襲制)は代々眼鏡と髭を蓄えることになっているようで、ちょっとトニー谷氏のような姿での登場。キネマ洋装店さんで書かれているようにかなりボンクラ。最終的な結論もハッピーエンドのようではあるけれど、これでいいんかいな?と思うようなもの。

ヒロイン丹阿弥谷津子の父が柳家金語楼紀伊国屋物産の嫌な専務に古川緑波、ヒロインの友人婦人警官役が高峰秀子。この三人が出てくると引き締まる。

脇役を演じる柳家金語楼、先日観た「右門捕物帖 片眼狼」*2でもそうだったのだけど、出すぎない感じがいい。顔も売れているコメディアンである彼、映画を映画として成立させる「ほど」を心得ておられる気がとてもする。

古川緑波のアクの強い専務、これがうまかった。関西訛りで上原謙の坊ちゃん社長との対比がしっかりしている。ロッパはwikipediaをみていると、関東生まれ、一時福岡におられたみたいだけど、そのあと早稲田に進まれたようで、関西と関係がなさそうなのだけど、声帯模写に秀でておられたことが載っており、この辺の耳の良さから関西言葉もとても自然に聞こえるのかなと思った。一言一句は違っているのかもしれないが、関西弁の雰囲気を出すのがうまい東京の人っていると思う。十八代目中村勘三郎にもそれを感じた。

上原謙がホルンを吹くシーンがたくさん出てくるが、上述のキネマ洋装店たかぎさんの記述によると、上原氏は大学時代にホルンを吹いていたそう。