ウィリアム・ワイラー祭

続けざまにウィリアム・ワイラーの作品を観てる。先日観た澤島忠監督のインタビュー*1でもお手本として言及されていたし、twitterでもふや町映画タウンの常連さんがふや町がおすすめとして紹介してくれたおかげで出会えた作品としてワイラーのものを挙げておられたから。

「偽りの花園」「西部の男」「デッド・エンド」「探偵物語」「孔雀夫人」と観ていきどれも退屈しない。

 

まず観た「偽りの花園」

どろどろの一族もの。「華麗なる一族」みたいに金に目がくらんだら兄弟でも・・みたいな話で楽しめる。要点が絞ってあって上質。夫の高邁さにつきあいきれんわいと思いながら投資話に加わらそうと画策するベティ・ディビス。海千山千な美女って感じなんだけど、最終的には彼女の内なる孤独もとてもナチュラルに表現されていてそこが凄い。登場人物のそれぞれのクセが残酷なまでに端的に表されていてぞっとするやら楽しめるやら。「鎌倉殿の十三人」、この映画からもインスパイアある。三谷幸喜氏はクラシック作品よくご存じだからな。旧作邦画で面白いのは、脚本家がハリウッド映画の面白いのを研究している人だったことを思い出す。

ふや町映画タウンおすすめ☆☆☆

 

西部の男

西部劇、自分にとって観るのにきっかけのいる分野なんだけど、これは観始めたら面白く、まじめなハンサムのイメージのゲイリー・クーパーがウィンクが似合うような役で意外さも手伝っての好感。まず、名前だけはきいたことのある保安官ロイ・ビーン、これが自分ルールでどんどん絞首刑とかを断行する曲者で、胸くそ悪い気分になりかけたところにゲイリー・クーパー演じる流れ者が登場。ロイ・ビーンの攻めどころを心得てのやりとりがなかなか楽しい。ロイ・ビーンにしても、曲者だけどかわいいところもあって、それがうまく出ている。善悪がくっきりしていないところがとても楽しい物語。ロイ・ビーンを演じたのはウォルター・ブレナン。晩年の「夕陽に立つ保安官」*2を観たことがあるが、飄々とした味をみせていた。この映画でもいやな奴一辺倒ではない変な魅力のある政治家みたいな役をうまく演じていた。

ふや町映画タウンおすすめ☆☆☆

 

「デッド・エンド」

 

これもふや町映画タウンのおすすめ(☆☆☆)でもあり、好きな人も多いのだが、面白く観たもののなぜか他の作品の方が好きだと思った。ちょっと焦点が多めだったからかな。

貧民街に隣接して立ったNYの高級住宅地。そのエリアでの物語。フィクションでなくこういうことはあるなあという実感は持っている。子どもの描き方、格差の表現も容赦ない。

ハンフリー・ボガードが悪役。顔まで整形して故郷にやってきている。母親には認められたいのにという心情などはデ・パルマの「スカーフェイス」なんかにも受け継がれているかも。それを受ける母親の態度はわかるなあ、良い描き方だなあとなった。

ボガードがこどもたちに悪い事を教えたりして、なんか心底あかんなあという気にさせる登場人物。そういえばワイラーの「必死の逃亡者」でもボガード、これと同じく、これはなんとかしてほしいと思うような悪い奴だったな。

真の主人公は、貧民街に住んでいる若き男性でアッパーエリアのお嬢様に恋愛感情を持ちつつも階層の差はいかんともしがたくという経緯を経て、ボガードとの対決となるのだが、存在感はボガードの方が大きかったな。

 

探偵物語」は

 

探偵でなく刑事部屋の物語だときいたが、本当に。なんでこのタイトル?なんだが、話は面白い。父親への恨み故厳格で独善的になってしまう若き刑事カーク・ダグラス。周りの温情派刑事たちとの温度差。自分が正しいと思い込む罪。こうなるかという展開。すぱっと明快に描かれているが、余韻の残るラスト。

ふや町映画タウンおすすめ☆

 

そして、「孔雀夫人」は

淀川長治さんもおすすめ作品。これ主人公たちの年齢が近いせいか面白かった。孫も生まれるような年齢の孔雀夫人。アメリカの実業家の妻。年より若く見え、いつまでも落ち着かない。仕事人間だった夫は初老期に差し掛かり仕事が一段落した時、彼女の求めに応じて一緒にヨーロッパ旅行に出かけるが、そこでいつまでも恋のお遊びをやめない孔雀夫人。夫の「老いることを恐れている」という孔雀夫人評、その通り。1936年の作品、アンチエイジングの実態を喝破。

ワイラーってとんだ下衆人間を辛辣に描くのうまい。「我等の人生の最良の年」*3とか「偽りの花園」でも徹底していた。もう孔雀夫人の衣裳からほんとに調子こきで。良識的な人間が耐えて耐えて。。結論は?とほんとにハラハラスリルを感じながら最後まで観させる。

イライラするほど我慢強い夫は「雨」*4ウォルター・ヒューストンジョン・ヒューストン監督のお父さんか!