伊豆の踊子(山口百恵版)

私の周りで評判の良い山口百恵版「伊豆の踊子」。私もすごく良いと思った。山口百恵は哀しみをたたえつつ、健気で。道中を共にする白い素朴な子犬とイメージがぴったり合っている。

そして書生さんを演じた三浦友和の爽やかなこと。世の中をまだ知らない純真な感じがよく出ている。

脇役も豪華で、囲碁を書生さんとする紙屋のおじさんに三遊亭小圓遊。踊子の幼馴染役に石川さゆり←美しい。踊子の兄永吉には中山仁。私にはテレビドラマ「サインはV」のコーチの印象で、彼がお座敷芸で泥鰌すくいをやってのけるところには驚いた。吉永小百合版の大坂志郎氏にはすんなりあっている場面だが。中山仁の目が鋭くて、吉永版にもあった、書生さんが窓から心付けを放り投げるシーンなどは、永吉にしてみたらこんな若造に格差を見せつけられ面白くない気持ちになってるかも。。と、今まで観てきたバージョンと違う感想を持った。ともあれ、永吉という人物は、どこか自分はこんなところにいる人間ではない、というような気配はいつも漂わせているのは確かで、書生さんがまっすぐ学の道に進まなかった時のパラレルワールド上の自我的な存在のようにもみえる。

茶屋の老婆に浦辺粂子。場面をかっさらう。

一座の年長の女性を演じる一の宮あつ子という女優さん、いかにも世慣れた感じがうまい。

終盤に出てくる榎木兵衛。(ですよね?)f:id:ponyman:20200527221645j:image三谷幸喜監督の映画「THE有頂天ホテル*1でアヒルと共演していた腹話術師の人(「みんなのいえ」でも鳶の役をされたり割合三谷作品に出ておられたようだ。三谷氏が好きになられて使われていたのだろうな。味があるものな。)。

山口百恵版と吉永小百合版は両方とも西河監督によるもので、基本的な流れは同じところが多いが、吉永版で書生の年がいった姿を演じた宇野重吉が今回はナレーターとして当時を回想するような感じで話を進めていく。そして、この百恵版はラストの展開がみているものに鋭く突き刺さる。でもこのくらいの思い切りが気持ちよかった。

朧夜の女

movies.yahoo.co.jp

昭和11年五所平之助作品。

この映画での坂本武のお人好しぶりのはなしをきいて観てみた。確かに坂本演じる文吉は全方向的な人の良さ。

現代だったら吉川満子演じる妻の立場を考えるとなかなか難しい展開だけど、昭和11年当時ならこういうのもありだろうし(戦後でも現実にはあったかも)素直に下町人情話としてとらえたいなという感じ。

坂本武の人の良さになんとなくつけこんでる感じもある河村零吉をにやにやして拝見。スパイシーな俳優が気になる自分に新たなる鉱脈。

文吉の妹、お徳役に飯田蝶子。三味線片手に旦那衆に小唄?のお稽古をつけているところとても様になっている。芸達者。息子を何より大切に思っている母親役、それに嫌な感じが全くしない柔らかさ。最近立て続けに飯田さん出演作をみているが*1ほんと良い女優さんだなあ。

隅田川沿いの風景が映るのもとても興味深い。

 

ロシュフォールの恋人たち

 

ロシュフォールの恋人たち(字幕版)

ロシュフォールの恋人たち(字幕版)

  • 発売日: 2014/10/01
  • メディア: Prime Video
 

 小さい時テレビの洋画劇場でみたことがあったような・・で、きちんと観るのが後回しになってしまった映画。ちゃんと観ないともったいない映画だった。気づけて良かった。

サントラも有名だし、きいたことのある曲もたくさん。出てくる人の判断の仕方、反応の仕方、踊り方などがいい意味でとてもフランスっぽい。一糸乱れぬ、なんて感じでなくなんだかラフなところ、予想外のところがある。美しい色彩設計、夢のある衣裳、美しく作られた歌舞伎や文楽の舞台を観ているような、楽しい夢をありがとうというような気持ちになる。

このタイミングで観ようと思ったのはミシェル・ピコリの訃報が流れたとき、この作品での彼の写真を観たから。ピコリの楽器屋のデザインがまたほんと素晴らしい。カトリーヌ・ドヌーヴの早世した姉、フランソワーズ・ドルレアックの良さもよくきいていたが、ドヌーヴとはまた違った骨太にみえるような魅力を感じた。「柔らかい肌」*1のひとなんだなあ。あちらも良かった。

こちらを観てウディ・アレンの「世界中がアイ・ラブ・ユー」も連想し、ちょっと見返したくなっている。

伊豆の踊子(田中絹代版、吉永小百合版)

 ひょんなことからプチ「伊豆の踊子」研究みたいな日々。

twitterで、旧い映画に出てくる「ひと山あてようとする」人物の話*1をしていて、五所平之助監督版の「伊豆の踊子」における河村黎吉という話が出てきた。

伊豆の踊子 [VHS]

伊豆の踊子 [VHS]

  • 発売日: 1991/09/22
  • メディア: VHS
 

 早速借りてみて検証。山師の話が話全体に大きく影響を与え、「こんなお話だったか?」と思うような流れ。ふっくらした踊子田中絹代はものすごくかわいらしい。一途さやはじらいの表現が秀逸で素晴らしい。モノクロ映画だけど、髪の飾りの華やかさもちゃんと伝わる。また、飯田蝶子が踊子の兄に関心のあるちょっと色っぽい女、みたいな役でこれがまたナチュラルに新鮮。

ただ、問題の山師の件は、原作に載っているのか調べてみたら、原作には出てこず、映画独自のものと感じた。兄の零落が踊子たちの旅に関係しているのだけど、想像を膨らませてお話を作った感じ。原作は、大人になりかけている踊子の、大人になりたくないなあというような気持ちをデリケートに表現したものだと思うけれど、五所監督の映画は、ストーリー的には踊子の悲恋ものみたいに大いに盛り上げる調子になっていた。ただ、無声映画なので、当時どんなふうに上映されたかは想像するしかないが、無声状態でみた分にはしつこい感じはなく、田中絹代の可憐な姿を味わうものになっていた。

そして原作を読んで驚いたのは、ラスト近くにスペイン風邪の話が出てくることだ。今と似た心境の世の中の話か・・と感慨深く、辛さの中で助け合う流れになっていて、ヒステリックになるのでなく、これくらいの感じでいたいものだとも思った。

 

伊豆の踊子 (新潮文庫)

伊豆の踊子 (新潮文庫)

 

 原作を読んだあと、みたのが、吉永小百合版(西河監督)。

 

伊豆の踊子

伊豆の踊子

  • 発売日: 2015/09/21
  • メディア: Prime Video
 

 吉永小百合の知的な感じが邪魔するのか、ほんとはもっともっと踊子は素朴な雰囲気なのではないかなとは思ったけれど、(現代で演じるなら広瀬すずとかどうだろうか?)原作にはかなり忠実に作ってあるなと感じた。

一高生を演じる若き高橋英樹のさわやかでかっこいいこと。こちらの映画では浪花千栄子の凄さを感じた。お座敷などでちょっと拍子をつけるさまのなんともナチュラルで練れていること。そして、踊子の将来のことを思うからこその大人の判断。それをちょっとした表情であらわす表現のうまさ。ほんとに彼女のおかげでどれだけ画面が引き締まっていることか!今年の秋の朝ドラは浪花千栄子の生涯らしいが今から楽しみにしている。

そうそうそれと、この吉永小百合版は、高橋英樹が老境になった現代の姿を宇野重吉が演じていて二つの時空を結ぶように作られているのもとても良かった。また、踊子が大人になることのこわさを感じるきっかけになる薄命の酌婦を演じた十朱幸代の儚くも優しい雰囲気、その姉的な存在南田洋子のやってられないよ、という空気、いずれも素晴らしかった。

踊子の兄栄吉というのが、元新派の役者で学生とも話があったりし、一緒に旅をするきっかけにもなったりするのだけど、彼の演じる出し物も気になったりした。五所版では「澤正(新国劇澤田正二郎)の近藤勇」というのを、吉永版では国定忠治や琵琶法師を演じていた。

*1:この時は大庭監督「花は偽らず」の中の斎藤達雄の話

ETV特集 映画監督 羽仁進の世界 ~

先日ETV特集で「映画監督 羽仁進の世界 〜すべては“教室の子供たち”からはじまった〜」という番組を放映していた。

「教室の子供たち」という新しい手法のドキュメンタリーで、羽仁進監督の助監督を務めた羽田澄子監督やドキュメンタリー出身の是枝監督も出演。新しいというのは、それまで例えば教育のドキュメンタリー作品であっても脚本というものがあり、それを現場で演じてもらうような形をとっていたのを、脚本を排除し、いろんな状況を設定し、何かが起きた瞬間の子どもたちの反応を撮ることを目的とした撮影方法ということだ。

羽田澄子氏の著書「私の記録映画人生」*1には文部省の仕事だった「教室の子供たち」に従来にない撮影方法のGOサインを出したのは、当時の文部省視聴覚教育課の担当官工藤充氏で、その後文部省をやめ、フリーになって、岩波映画で羽仁さんの「絵をかく子どたち」「動物園日記」*2法隆寺」など、多くの作品のプロデュースをすることになったという。そして、その後羽田さんとご結婚されたとか。

番組の中では、羽仁監督の「教室の子供たち」や「絵をかく子どもたち」「不良少年」に映っている子どもや少年の現在の姿を撮っていて撮られる側からの話が面白かった。被写体になった子どもたち集めての羽仁監督を囲んでの上映会。貴重な良いものを見せてもらった。

「不良少年」の助監督は、のちに水俣病ドキュメンタリーで有名になる土本典昭監督。不良少年たちは、少年院でしてきたパンを隠す方法などをカメラの前で再現したり、ケンカも本気でしているようだった。巻き込まれている感じの土本氏の姿も楽しい。

番組では、小さい時から決まりにノレなく、ユニークなものが撮りたくてそれをまっすぐに追及する羽仁監督の姿を映し出していた。じーっと観察することが好きで、動物好きになった話、そこからのアフリカでの仕事。。「初恋・地獄篇」*3などのアングラな作品と、動物ものや、初期の教育ものを結ぶのは目の前で起きたリアルを映したいという考え方、そして、羽仁監督の楽しく撮りたいというキャラクターかとなんだか納得がいった。

そして、この番組がきっかけで、ふや町映画タウンの在庫の中でまだ観てない羽仁作品を借りてみた。

ひとつは

 

午前中の時間割り [DVD]

午前中の時間割り [DVD]

  • 発売日: 2019/02/13
  • メディア: DVD
 

 (観たのはVHS版)

もう一つは

 

アフリカ物語 [DVD]

アフリカ物語 [DVD]

  • 発売日: 2000/12/06
  • メディア: DVD
 

 こちらもVHS版で。

 

「午前中の時間割り」は、いかにも70年代、ディスカバージャパンやアンノン族、ヒッピーという単語が頭に浮かぶような作品。17歳の少女二人の8mmの旅の記録。自主映画的なノリ。国木田アコという女の子の70年代っぽいメイクにも惹きつけられる。国木田独歩の曾孫とか。。

「アフリカ物語」は、ジェームズ・スチュアーが老人役で出てくるが、彼の劇映画最後の作品とのこと。(アニメの声の出演の仕事がそのあとあるようだ。)ジェームズ・スチュアートを使ったことで、彼の俳優人生、彼から想像する空気がプラスされ、この映画の価値がかなり上がっていると思う。原案が寺山修司という割に、いかがわしさはない。製作・著作はサンリオ。サンリオの映画や文庫、ユニークで評判がいいが、これも独特の情熱とパワーを感じる作品だった。

浮草物語、浮草

 

浮草

浮草

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 「浮草」はずいぶん前に観ていたのだけど、今回戦前バージョン「浮草物語」と戦後の「浮草」を観比べてみた。「浮草物語」はNHK小津安二郎生誕100年の時に放映したもので、倍賞千恵子寺田農が声をつけていた。(無声映画の字幕の部分を読んだり「かんぴょうが干されています」みたいなちょっとした説明を加えたり・・)

「浮草物語」は、しゃれた短編のような風合い、「浮草」はそれぞれの人物のいい分が濃く描かれていて、名乗りをあげていない息子のことを気にかけている旅芸人の物語という大筋は同じでもニュアンスが違っていた。

ふや町映画タウンの大森さんはコンパクトにまとまっている分、戦前の「浮草物語」に高めの点をつけておられたが、どちらも良いですよねと先ほどお店で話しあったところ。私も味わいとして戦前版が良いようにも思いつつ、戦後版もどの画面もどの画面も絵葉書になりそうな素晴らしい構図だらけだし(カメラマン 宮川一夫)、鴈治郎さんの息子に久々に会える時の高揚感の表現などがすばらしく(早口になったり階段を駆け上がったり・・)それぞれの良さがあると思う。戦後版の方がエピソードのそれぞれが生々しくなっているという気はとてもする。

戦前版で出し物として舞台が出てくるのが、「慶安太平記」丸橋忠弥の物語。丸橋忠弥って母親の姓を名乗っているというような説があるらしく、この物語とリンクしているなあ。そして戦後版では、息子に「あんなに眼を向いておじさん*1の芝居は時代遅れだよ。社会性もないし・・」などといわれている。それに対し、鴈治郎さんの「丸橋忠弥は昔の人やがな。(だからあれでいいんだ)」みたいな会話も楽しいし、鴈治郎さん演じる旅芸人駒十郎は、自分と同じ道なんかより勉強して上の学校に行ってちゃんとした職業についてもらいたいと願っていて、息子のそんな批判が嬉しいのが伝わりほほえましい。(ちなみに戦後は出し物として国定忠治とか「南国土佐をあとにして」の曲がかかったりしていた。)

戦前の坂本武演じる旅芸人喜八も願いは同じ。息子は自分の芝居なんか観に来なくてよい、という感じ。でも一緒に釣りにいったり、つっこまれたりするのが嬉しくてたまらない。戦前版は旅の一座にいる子ども役の突貫小僧がすごくいい味を出しているのだが、(かわいい貯金箱のエピソードや、おねしょのエピソードなど)突貫小僧の個性あってこそだなあ。先日突貫小僧(青木富夫氏)の晩年の映画「忘れられぬ人々」*2をみていたものでますます気分が盛り上がる。

一座の中で大きくなった娘(戦後版で若尾文子が演じてた役)、戦前版の坪内美子が控えめでかわいくすごくいい感じ。

旅芸人の息子の母は戦後が杉村春子、戦前が飯田蝶子。両方とても良い。飯田蝶子は自分を主張しなくて流れに身を任す感じが(戦前版はどの登場人物もその傾向)、戦後版も杉村さん、程よく地味で落ち着いていて。

戦後版の一座の一員になっている浦辺粂子の姿も楽しい。

笠智衆が、戦前版では(多分)客席でワンカットだけ映るのだけど、戦後版では小屋の旦那としての会話があるのが戦前戦後を結ぶ糸みたいになっている。

舞台は戦後版は海(ロケーション三重)、戦前版は中央線の奈良井。奈良井は現在でも古い町のたたずまいを残していて、数年前に歩いただけにこれも嬉しい。

二作品観比べられて、本当に楽しい時間だった。やはり優れた作品との時間って素晴らしいな。

*1:ということになっている

*2:忘れられぬ人々 - 日常整理日誌

エル

 

ルイス・ブニュエル監督 『エル』Blu-ray
 

 主人公のフランシスコは、カトリック教会では信頼されているまじめな男だが、歪んだ独占欲が強く、やりすぎな出来事が多発。ビデオジャケットの解説によるとその偏執狂ぶりはジャック・ラカンの精神病の研究材料として利用される程に話題を巻いたとのこと。省略するところは思いっきり省略し、サスペンス的な要素もあり、あまりに極端でつい笑ってしまうような独特の作品。フランシスコの邸宅の様々な様式をごちゃごちゃと取り入れたようなデコラティブな感じ、これがまたフランシスコの自信のなさ&それゆえに過剰防衛になってしまう感じを表しているよう。ブニュエルの作品に散見されるカトリック教会への皮肉も感じられる。でもひょっとすると、おもしろけりゃいいという感じで作ったのかもしれないな?ブニュエルの人を食ったような感じはそんな気持ちにさせられる。