伊豆の踊子(田中絹代版、吉永小百合版)

 ひょんなことからプチ「伊豆の踊子」研究みたいな日々。

twitterで、旧い映画に出てくる「ひと山あてようとする」人物の話*1をしていて、五所平之助監督版の「伊豆の踊子」における河村黎吉という話が出てきた。

伊豆の踊子 [VHS]

伊豆の踊子 [VHS]

  • 発売日: 1991/09/22
  • メディア: VHS
 

 早速借りてみて検証。山師の話が話全体に大きく影響を与え、「こんなお話だったか?」と思うような流れ。ふっくらした踊子田中絹代はものすごくかわいらしい。一途さやはじらいの表現が秀逸で素晴らしい。モノクロ映画だけど、髪の飾りの華やかさもちゃんと伝わる。また、飯田蝶子が踊子の兄に関心のあるちょっと色っぽい女、みたいな役でこれがまたナチュラルに新鮮。

ただ、問題の山師の件は、原作に載っているのか調べてみたら、原作には出てこず、映画独自のものと感じた。兄の零落が踊子たちの旅に関係しているのだけど、想像を膨らませてお話を作った感じ。原作は、大人になりかけている踊子の、大人になりたくないなあというような気持ちをデリケートに表現したものだと思うけれど、五所監督の映画は、ストーリー的には踊子の悲恋ものみたいに大いに盛り上げる調子になっていた。ただ、無声映画なので、当時どんなふうに上映されたかは想像するしかないが、無声状態でみた分にはしつこい感じはなく、田中絹代の可憐な姿を味わうものになっていた。

そして原作を読んで驚いたのは、ラスト近くにスペイン風邪の話が出てくることだ。今と似た心境の世の中の話か・・と感慨深く、辛さの中で助け合う流れになっていて、ヒステリックになるのでなく、これくらいの感じでいたいものだとも思った。

 

伊豆の踊子 (新潮文庫)

伊豆の踊子 (新潮文庫)

 

 原作を読んだあと、みたのが、吉永小百合版(西河監督)。

 

伊豆の踊子

伊豆の踊子

  • 発売日: 2015/09/21
  • メディア: Prime Video
 

 吉永小百合の知的な感じが邪魔するのか、ほんとはもっともっと踊子は素朴な雰囲気なのではないかなとは思ったけれど、(現代で演じるなら広瀬すずとかどうだろうか?)原作にはかなり忠実に作ってあるなと感じた。

一高生を演じる若き高橋英樹のさわやかでかっこいいこと。こちらの映画では浪花千栄子の凄さを感じた。お座敷などでちょっと拍子をつけるさまのなんともナチュラルで練れていること。そして、踊子の将来のことを思うからこその大人の判断。それをちょっとした表情であらわす表現のうまさ。ほんとに彼女のおかげでどれだけ画面が引き締まっていることか!今年の秋の朝ドラは浪花千栄子の生涯らしいが今から楽しみにしている。

そうそうそれと、この吉永小百合版は、高橋英樹が老境になった現代の姿を宇野重吉が演じていて二つの時空を結ぶように作られているのもとても良かった。また、踊子が大人になることのこわさを感じるきっかけになる薄命の酌婦を演じた十朱幸代の儚くも優しい雰囲気、その姉的な存在南田洋子のやってられないよ、という空気、いずれも素晴らしかった。

踊子の兄栄吉というのが、元新派の役者で学生とも話があったりし、一緒に旅をするきっかけにもなったりするのだけど、彼の演じる出し物も気になったりした。五所版では「澤正(新国劇澤田正二郎)の近藤勇」というのを、吉永版では国定忠治や琵琶法師を演じていた。

*1:この時は大庭監督「花は偽らず」の中の斎藤達雄の話