松坂慶子氏つながりの「女ざかり」と「死の棘」

大林宣彦監督の「女ざかり」を鑑賞。 

原作丸谷才一氏。大林監督らしい古い家や町並みをノスタルジックに撮っているシーンが冒頭にあり、ひきつけられ軽い気持ちで観始めたら集中することに。新聞社で家庭欄から論説委員に異動になった吉永小百合に豪華な出演陣がいろいろな形で関わる作品で、映画として胸に迫るものがあるとかいう種類のものではなかったけれど、楽しむことができた。

いかにも昭和のブンヤという感じのちょっと気取ったような会話の応酬も面白かったし社主として出てくる水の江瀧子氏の威厳のあること。水の江さんの映画もちゃんと観てみたくなった。

吉永小百合扮する女性記者のことを大切に思っている人間が何人かいて彼女がトラブルに巻き込まれた時尽力しようとするストーリー。交際している津川雅彦氏は、大学教授の役。政治家に談判に行って、次元の違う話をする時の妙に得意そうな空気や吉永小百合の家庭ごっこに対する冷ややかさ、彼女の職場の話の聞き方がお山の大将的であの時代の感じがとても出ていた。今もそういう傾向がある場所にはあるかも。高島忠夫吉永小百合には丁寧なやくざの親分。こんなことあるかなという話でもあったが、やくざの親分の孤独な部分、ロマンチックなところを表現するのに使うのにはふさわしい表現でもあるのかと思いもしたりなんか笑っちゃうような気分にもなったり。上背のある高島氏が上質のコートをまとい、にこやかでありながら裏でやることはやっている雰囲気など決まっていて、こういう人いるかもなと思わせるのだけど他の人物描写も含めもしかしたらこの作品は人をかなり類型的に描いているのか?という気持ちにもなる。(だからこそ見やすいのだけど。)高島氏のラストの印象がクイズの司会者だったので、こういう仕事をされているところを観るのは嬉しかった。

社会部から論説委員に吉永氏と同時に異動してきた三國連太郎氏が、少年の心を持った不器用なおじさん風情でとても良い。三國氏ならではの魅力の出し方。

政界にも力を持つ書の老大家に片岡鶴太郎氏。特殊メイクで不気味さを出しているところに大林監督風味を感じる。岸部一徳氏が政権与党の幹事長役なんだけど、こちらも額の狭いかつらをかぶって戯画的な演技。中村玉緒演じる芸者さんと多分座頭市の唄を披露する一幕は観客サービス的なコマかな?

月丘夢路氏が往年のスターで、吉永氏のおば役。昔交際していて別れた山崎努氏演じる総理のところに吉永氏の窮地のために訪ねていく、このくだりのロマンチシズムもほんと大林監督らしい。そこに出てくる総理夫人松坂慶子氏の精神のバランスを崩しながらもそれがとても美しい感じは幻想的で素晴らしかった。それで、ふと、松坂氏が精神のバランスを崩す役をされている「死の棘」に今こそ挑戦できる時か、と導かれる。

 

 「死の棘」は夫の不貞を責めて神経を参らせてしまった松坂慶子氏がえらくコワいときいたことがあったのだけど、遠藤ミチロウ氏のドキュメンタリー*1で、遠藤氏が島尾氏をとてもリスペクトしておられたこと、ふや町映画タウンのおすすめになっていて、カンヌ映画祭でも審査員グランプリを受賞していることなどで、観るタイミングを図っていた。

妻を襲う発作は本人にも制御不能の感じで、松坂氏もとりつかれたような演技であった。妻は奄美出身で、両親が出てくるときや、時々はさまれる島の映像などからもともととてもおおらかな人柄であったのが、行き場を失った情念がこういう形になっているのかなとも思わされた。妻のモデルになった島尾ミホさんのことを調べているとソクーロフの映画「ドルチェー優しく」に出演されていたり、満島ひかり主演の映画「海辺の生と死」もこの島尾夫婦のことを描いたものだと気がつき、石牟礼道子さんとの共著もあったり、またテレビで話をきいていてひかれていた梯久美子さんも『狂うひと 「死の棘」の妻・島尾ミホ』という本を上梓されているらしく、彼女のことをもっと深めたくなっている。

「死の棘」ついて、wikipediaには三島由紀夫のこんな意見を載せているが、

三島由紀夫は、世俗の実際的解決(妻の発作が酷くなる前に入院させ、いたいけな子供たちを守ること)に背かせるにいたった根本理由がわからないとし

私も映画を観ていてこどもたちのことが気になって仕方なかった。さすが「泥の河」の小栗康平監督、こどもをナチュラルに哀感こめて撮ることにはとても長けておられる。