地獄変

1969年豊田四郎監督。

あるとき(「伊豆の踊り子*1「あこがれ」などを観たあたりか?)から内藤洋子さんの可憐さがとても大好きになりこれもその一環でレンタル。

原作は中高時代に何かの教材で読んだ記憶があったのだが映画を観てその時の印象と違っていたのでもう一度ちゃんと読んでみた。

以前原作に触れた時の印象は芸術のためなら家族をも犠牲にして厭わない絵師の気持ちの凄まじさだったけれど映画は仲代達矢演じる鬼気迫る絵師の良秀を帰化人にしてあり錦之助演じる権力者との相剋が強調。相剋といっても権力者の前には生殺与奪を握られている芸術家は芸術分野以外は無力であり、ミケランジェロローマ法王の「華麗なる激情」(1965)*2なんかも思い出したし、あえて良秀を帰化人としたところに「地の群れ」(1970)*3的な現代にも通じる問題を提起しているようにもみえた。

映画にしろ原作にしろ絵師良秀、権力者双方の自分の領分への執着は凄まじいのだが、原作で際立っているのはそれに対比される良秀の娘の可憐さ。

映画では娘の気持ちは彼氏に向いているほぼ一直線な描き方だったが、原作の方は良秀に似ている猿を娘がかばうシーンからにじみ出る気持ちがとても美しく描かれていて、それが最後物語のクライマックスに向けて強い効果をもたらしている。原作と映画、最終的に起きる出来事は同じでも描く力点は大いに違っていた。

今回久しぶりに読んだ原作、芥川龍之介の紡ぐ文章の難解ではないのに漂う気品とたくみさに感動した。この作品は、もっと繊細にサイエンスSARUの作った「平家物語」や「犬王」*4みたいな風合いに仕上げるのが原作の空気を伝えられて良いのではないだろうか。