日本のいちばん長い日(2015年版)

 

日本のいちばん長い日

日本のいちばん長い日

 

岡本監督のバージョン*1と比べそうでずっとみてなかったけれど、モックンの昭和天皇はいいし、これはこれで別物でという声をきいてみてみた。岡本版の緊張感、熱の記憶があると、えらい涼し気に話が進むなという印象。「シン・ゴジラ*2の、会議や役職をちょっとかっこよく描いたあの感じがおとなしく進むみたいな・・ただ岡本監督版をみたとき、こちらにまるで基礎知識がなく、もう圧倒されて、終戦の日周辺にこういうことがあったといううねりとしてとらえたものが、とてもわかりやすく頭には入ってくる。ちょっとどちらかというと歴史ものの再現フィルムをとても豪華に作ったような感じ。

はじまりかたからして違っていて、役所広司演じる阿南陸軍大臣を見守る山崎努演じる鈴木貫太郎首相ということが中心になっている。(鈴木貫太郎侍従長であったとき、阿南惟幾は侍従武官であり、昭和天皇への思いは特別でとても細やかな仕事をしていたというような表現があった。)監督は「突入せよ!あさま山荘事件」も撮っている原田眞人。大きな出来事をある人物にフォーカスして描く手法は似ている。どちらもその重要人物は役所広司

モックンの昭和天皇は評判通りなかなか良かった。昭和天皇の自分の中のイメージと近い。余談だが、先日、NHKスペシャル昭和天皇の拝謁記をとりあげていたが、片岡孝太郎さんの演じる昭和天皇も抑制がきいていてまた特徴も出ていてとてもよかった。

www.nhk.or.jp

 

イタリア麦の帽子

 

イタリア麦の帽子 [VHS]

イタリア麦の帽子 [VHS]

 

ルネ・クレールの映画は中学生時代くらいに「自由を我等に」をみて、おもしろいし、胸をうつし、よい映画だなあと思った記憶が・・そのあと「明日を知った男」*1を割合最近見たがこちらはSF的な、でも基本ゆったりしたムードも流れる佳作だった。

このお話は結婚式の日の当事者、参列者のちょっとした悩み大きな悩みが波のように水打って、それをもちこたえながら式を挙行していくおかしさ、そしてそれがそれぞれ伏線になっていて反応していく脚本のおもしろさを味わえる作品だった。一人一人の登場人物がナチュラルで好ましいし、この人のこのはなしがここにつながりというのが、消込みのゲームをしているようで楽しめた。さらさらっとかいた上手な絵、という風味の映画。

からみ合い

 

からみ合い [VHS]

からみ合い [VHS]

 

小林正樹監督作品。今BS12で「沿線地図」という山田太一の1979年のドラマを放映していてその中で岸恵子さんが町の小さな電気屋さんの辛抱してる奥さんを演じておられるのがすごく良くて、岸さんの出ているもの他にも観たくなっての視聴。もともとわたしが岸さんに持っているイメージのすっきりした美女役。でも、ちよっとおずおずしているところもあり、岸さんの魅力って、「沿線地図」でもだったけど、葛藤や悩みの表現がえもいわれぬところにあるのかもと思った。

グレーな感じの登場人物ばかり。千秋実仲代達矢宮口精二もまじめな顔してて。。という。。だからこそ、作戦合戦が生きるという感じ。歯切れはそんなにいいわけじゃないけど名優たちの演技合戦が楽しい。

丑三つの村

 

 

丑三つの村 [VHS]

丑三つの村 [VHS]

 

村人の集団殺戮などというとんでもない話には違いないのだけどテンポがよく田中登監督の手腕を感じた。村の秀才だった古尾谷雅人が将来への悲観と恨み辛みから停電を起こして、頭につけたライトで村人を照らし襲っていくときのドキュメンタリーみたいな妙なリアリティーのある撮り方とそのときの女たちのはだけ方の職人技!リンチによる制裁とか木下監督の「楢山節考*1でも出てきたけれど、大げさな話でもないんだろうな・・

田中美佐子の芯のあるかわいらしさ。つぼみの魅力もあった。

そして、古尾谷雅人と一緒に暮らす原泉原泉の場面もとても多くて嬉しいし、古尾谷雅人にあぶないものを感じる瞬間の二人の演技が絶妙だった。

石橋蓮司さんもまだ渋くなってないええ加減な雰囲気がぴったりの時代。大いに楽しめた。

八月南座超歌舞伎

chokabuki.jp

93歳の伝統芸能好きの父が生協でこの超歌舞伎のチケットを売っているのをみて誘ってきた。初音ミクが何であるかも知らずに。中村獅童初音ミクのコラボ歌舞伎。うっすらと知っているのかと思いきや、初音ミクが登場するなり、「映像か・・」とつぶやいているのを耳にして、それも知らずに観に来たのか・・と逆に感動。

でも今日の南座のお客さんは父みたいなレベルの方多かったように思う。今まで幕張メッセなどで、初音ミクのファンの方々が歌舞伎に近づくという色彩からはじまったであろうこの超歌舞伎、南座ではまた違った苦労をされたのではないだろうか。獅童さんや敵役の澤村国矢さんの奮闘に胸が熱くなった。

この公演ではペンライトの応援、声かけ自由、最後にはポーズをとっての撮影のサービスまであった。ペンライトは幕張メッセでは大半のお客さんが持っているくらいの勢いらしいけれど、南座ではパラパラ。獅童氏も「あっ、京都のお客さんは・・」と、しまつすごいな、というようなニュアンスで。再三懐中電灯がわりにいかがとうながされるも、ペンライト購入者が少ない故、獅童氏よりケータイの音消してバックライトで応援してくれていいとの発言。バックライトの設定に困っておられるお隣の方にお教えしていきなりの一体感。

イヤホンガイドは普段の高木秀樹氏のオーソドックスな部分に加えてニコニコ動画で有名というネットタレントの百花繚乱さんの実況があり、声かけタイミングを教えてくれるので、何度かがんばって「よろずや」「紀伊国屋」と声をかけてみた。普段は声をかけたりしない人たちの声があわさってたどたどしくもほほえましい。だけど、ベテランの大向うの方の声がかかるとやはりいいなあと思う。

パンフレットにも澤村国矢さんの言葉として初音ミクとの台詞のやり取りが一番難しかったとあったけれど、本当にそうだと思う。初音ミクの台詞は、歌舞伎調じゃなく、私も普段の彼女を知らないけれど、きっと初音ミクらしさから逸脱していないものだったと思うから。

獅童氏や国矢氏のパフォーマンスは堂々としていて満足のいく見ごたえだった。また、ニコ動的な書き込みのラッシュみたいな演出も私には面白かった。でも、本当普段とは違った努力が必要だったことは確かで新しいことにチャレンジする姿勢に胸が熱くなった。

 

米 [VHS]

米 [VHS]

 

 1957年今井正監督作品。第31回キネマ旬報ベスト・テン第一位作品。霞ヶ浦水郷地帯で夏・秋の二度にわたり大ロケーションを行ったそう。

「姉妹」*1をみて、中原ひとみさんの出ている作品をもっと見たくなったのがきっかけ。中原さんの出番はあまり多くない。江原真二郎の妹役。江原真二郎は農家の次男坊で次男坊というとあまり独立のために田畑をわけてもらったりもなく、先の見込みもないので、家を出ていき、はえ縄漁の権利を得てワカサギ漁をすることになる。江原氏の母が私の好きな原泉。なかなか厳しい母親役であった。

霞ヶ浦という場所は半農半漁という感じで、江原たちとは対岸に住む望月優子も稲作をしつつ漁をしたりしている。漁に関する取り決め、時々断片的にきくことがあるが、この漁をしてもいいが、これはダメとか届け出によって厳しく管理されているらしい。そしてそのことがこの物語の重要なポイントとなる。望月優子氏は、「荷車の歌」*2という映画で運搬業でがむしゃらに働いている姿が印象に残っているのだけど、この映画でも本当生活のために昼夜兼行状態である。できたのはこちらが先だから、この姿が「荷車の歌」につながったのかもしれない。望月優子の夫役は加藤嘉。家族でわらをなってみたり、網をこしらえてみたり、そういう手仕事がとても胴にいっている。望月優子の娘役の中村雅子という人は、望月優子の実の妹らしい。そして、加藤嘉と(どうもこの作品がご縁で)同棲のちに結婚するようだ。*3

ウナギ漁のシーンもあり、今村監督の「うなぎ」も思い出したが、あちらは佐原市で撮っているらしい。

木村功氏が結構ギラっとしたリーダーのような役。なぜか私の木村功氏のファーストインプレッションが清廉な雰囲気なもので、こういう役とか「杏っ子」のように冷たい役とかされていると、いつもと違う珍しい役のように勝手に感じてしまう。

少し映る土浦の街角の様子、駅やデパートなど。貴重な映像だと思う。

*1:姉妹 - 日常整理日誌

*2:荷車の歌 - 日常整理日誌

*3:濱田研吾氏の「脇役本」によると、四度目の結婚。雅子さんの「トランク一杯の恋文」(シネ・フロント社 1983年)という本があるらしい。

太陽の王子 ホルスの大冒険

太陽の王子 ホルスの大冒険 [DVD]

太陽の王子 ホルスの大冒険 [DVD]

高畑勲演出のこの映画に出てくるヒルダという女性のキャラクターのキャラクターデザインの担当は、東京国立近代美術館で催されている高畑勲展に出かけられた友人かなさんによると、森康二さんであるとのこと。かなさんが記憶されていたのは、

ヒルダの造形が非常に難しく、何人ものクリエーターが案を出したという話が印象的だったから。その中には宮崎駿もいました。が、高畑さんが採用したのは森デザインのヒルダ。展示で複数のヒルダ案を見ましたが、どこか陰のある含みを持たせた少女を一番体現していました。宮崎駿はそのヒルダを見て驚愕した、とイアホンガイドの説明もありました。

とのことを、このブログのコメント欄に残していただいて、早速この作品を拝見した。森さんの作品は「わんぱく王子の大蛇退治*1の造形でひきつけられ、「こねこのらくがき もりやすじの世界」*2というかわいらしい作品集でなじんでおり、「こねこのらくがき」などとてもかわいらしい印象なので陰のあるキャラクターというのも興味があった。
ヒルダ、引き裂かれた自己の哀しみをまとう本当に重要なキャラクターで、ヒルダの登場でぐんとこの作品の緊張も高まる。この作画によってずいぶん映画全体の印象がかわってきたと思う。
自己分裂的葛藤は、ヒルダだけでなく、物語全体を覆っている。信じたい心と疑う心。登場するキャラクターのそんな複雑さが物語をとてもおもしろくしており、多くの人に愛されてきたのがわかる作品だった。観るきっかけを作ってもらって本当に感謝。
途中、セル画の枚数を節約して静止画で表現しているところがある。(「止め絵」というらしい。)wikipedeiaによると、凝りすぎて製作が遅れ、予算調整の会社との折衝の中で約束させられたことのようだ。この作品は68年公開だが、「止め絵」の技法、60年代後半のテレビアニメで、乱闘シーンなどでよくみかけたような気がする。
ヒーローが一人で戦うのでなく、全員で戦う理念、キャッチコピーにも謳われているかわいい動物の登場・・とても心憎くすばらしい。
ヒルダの服装などからアイヌのおはなしかなと思ったら、前掲wikipediaによるとやはり、アイヌの伝承をもとにしたた深沢一夫の戯曲(人形劇)『チキサニの太陽』を基とした作品であるという。

東映側はアイヌを題材にした『コタンの口笛』等の興行実績から難色を示し、舞台を北欧とすることで了承した

ということも載っている。そうだったのか・・