冬の河童、火星のカノン

 

冬の河童 [DVD]

冬の河童 [DVD]

  • 発売日: 2000/08/25
  • メディア: DVD
 

 

火星のカノン [DVD]

火星のカノン [DVD]

  • 発売日: 2003/03/21
  • メディア: DVD
 

 90年代から00年代初期、自分は映画から遠ざかっていてその頃の作品で知らないものが多い。1999年諏訪敦彦監督「M/OTHER 」*1や2001年の万田邦敏監督「UNloved*2など出会いの喜びがあることが多いので、ふや町映画タウンの在庫に入っている未見の監督のものは折々観るようにしている。

そんな流れで観た風間詩織監督作品「冬の河童」(95)と「火星のカノン」(02)。「冬の河童」はロッテルダム映画祭でタイガー・アワード(新鋭監督賞)を受賞、「火星のカノン」は2001年東京国際映画祭アジア映画賞受賞とのこと。

冬の河童」から観たのだが、タッチはジャームッシュ監督の「ストレンジャー・ザン・パラダイス」以降よくみられるようなオフビート感。取り壊しが決まっているピアノがあって猫のいる古家でのひとときの映像は美術監督木村威夫氏でとても美しいのだが、「ストレンジャー~」みたいなユーモラスな部分は少なく、淡々と登場人物の胸の想いが滲み出る生硬な雰囲気に覆われ観ていて少々苦しくなった。

続きで緊張しながら観始めた「火星のカノン」の方は「冬の河童」と同じ「人の想いってどうしようもない、それが同性に向けられるものでも異性に向けられるものでも」というやるせなさがとても観やすく表現されていて素晴らしかった。テーマは重なるけれど時を経てみせる力、まろみがきっちりついているように感じられる。やるせなき作品世界の中に美しい結晶のように佇むのが「冬の~」の方ではこの作品がデビュー作という田辺誠一氏演じるツグオであり、「火星のカノン」の方では中村麻美さんという方の演じるその名も聖(ひじり)という名の女の子だ。

両方の作品とも食事を大切にしているところも生きる基本が感じられて好ましい。「冬の河童」に出て来た大黒柱を中心にした木の机の風景、「火星のカノン」で、いつもインド音楽をかけている一見とらえどころのない聖ちゃんが作るとても美味しいらしいぬくもりのあるお料理・・

二本続けてみたことで風間詩織監督作品これからも気に留めていきたくなった。「火星のカノン」でほんとなんやかやいって身勝手なよくあるタイプの男性をリアルに演じられた小日向文正氏が出演され、物語に救済をもたらしておられた「非・バランス」も風間監督が脚本を書かれていたようだ。

花くらべ狸道中

 

 

花くらべ狸道中 [DVD]

花くらべ狸道中 [DVD]

  • 発売日: 2015/01/30
  • メディア: DVD
 

 狸ものミュージカルに弥次喜多道中記の物語を加えた娯楽作。

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タイトル画からして狸をデザイン的に配してしゃれた感じがするし、

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時代劇なのに大胆な場面展開があり楽しませてくれる。

美術は内藤昭さんという方。

調べたらとても有名な方で京都文化博物館でも追悼特集が組まれていたらしい。

www.enjoytokyo.jp

「夜の河」や「泥の河」の美術を担当されていたのか・・確かによい美術だった。

東陽一監督が聞き手となられたご著書もあるらしく内容をみていたら興味深い。

www.kinokuniya.co.jp

リトルモアという会社から出ている本は面白いものが多いし、京都市の図書館に所蔵あるので読んでみようと思う。

阿波から江戸まで弥次喜多に化けた狸二匹(雷蔵さんと勝新)が宿場でハプニングという筋だが、音楽もマンボっぽいのもあったりなかなか楽しめる。狸だけにはじめは茶髪っぽい感じで出てきてちゃらけているというか時代を超越しているというか・・

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勝新さんは最近座頭市ばかり観ているものではじめ誰だかわからなかった・・

 

西部魂

 

西部魂 [DVD]

西部魂 [DVD]

  • 発売日: 2006/12/25
  • メディア: DVD
 

 フリッツ・ラング監督、特集上映の時などの映画好きの方々の熱中ぶりを目にし、学生時代に「メトロポリス」を観たっきりの自分は、かねがねいつかちゃんと観なければと思っていた。

ちょうどNHK BSでの放映があり、この機会にふや町映画タウンのおすすめでもあるこの作品を鑑賞。

1861年ネイティブアメリカンの敷地を通って電線網を張り巡らすウエスタン・ユニオン電信会社の話。ネイティブアメリカンの対処の仕方は時代故なんだか失礼みたいな部分もあったが、いらぬ流血を好まず話し合いで解決しようとする路線は好ましかった。彼らを利用して電線会社を妨害する白人連中というのが出てくるのだけど、1861年というのは南北戦争の始まる年らしく、南北の対立も裏ににじんでいるようだった。

ストーリーはとてもテンポよくまとめてあって、西部劇になじみのない自分にも楽しめる構成に。電線を敷設するために馬車とテントによる大隊で移動していくのだが、笑いも散りばめてあり、特に食事係のおじさんがコメディリリーフで楽しませてくれる。IMDbで調べたらスリム・サマーヴィルという人かな・・ちょっとホテル再建のため滅私でホテルに住み込む人々のドラマ「高原へようこそ」のような群像劇的面白さもある。

ランドルフ・スコットという男前が、電線会社妨害の連中と、会社との間で板挟みになったりするのだが、西部劇に詳しくない自分は検索して、彼に関する↓の記事にたどり着き、参考になった。

www.thecinema.jp

上の記事でもランドルフ・スコットが「有終の美を飾った」とされている「昼下りの決斗」、1/29にNHK BSプレミアムシネマで放映されるようなので録画しようと思っている。

 

どん底

 

どん底(1936) [DVD]

どん底(1936) [DVD]

  • 発売日: 2004/04/26
  • メディア: DVD
 

 

 

どん底

どん底

  • 発売日: 2015/04/22
  • メディア: Prime Video
 

 仏、日の「どん底」を観比べてみた。

山田宏一さんと和田誠さんの「たかが映画じゃないか」で話題になっていたので。

 

 和田さんはジャン・ルノワール監督のエンディングが好きじゃなかったようだけど、自分は好みだった。黒澤版の容赦のない感じ、自分が19年くらい前にみた感想を見ていると大丈夫だったみたいだけど、今回はなんだか堪えた。どん底の人々の苦境をリアルに感じてしまったからか?この20年弱の間に俳優さんのお仕事も少しは詳しくなり、たとえば藤原釜足さん演じる役者が大一番の見せ所「三人吉三」の「こいつは春から~」を唸るところなど、観客を唸らせる花形舞台の決め台詞によって、現実と夢とのギャップをシビアに思い知らされ、ますますつらくなったのかも・・

「たかが映画じゃないか」の中では男爵を演じたルイ・ジューヴェという人のことが話題になっていたが、黒澤版では千秋実さんが「午前様」という役でこれに相当するようだ。元旗本の家柄のような設定。姿かたちはずいぶん違っているし、黒澤版ではルノワール版より余裕のない感じでもあったが、育ちの良さゆえかどこかおっとりしたところ、というのは共通しているように思った。ルイ・ジューヴェの男爵は、彼と友情を結ぶ泥棒のジャン・ギャバンともどもすごくかっこいい。

ルノワール監督版ではジャン・ギャバンと関係のある大家の妻もどこか女心が感じられるような雰囲気であったが、黒澤版の山田五十鈴はもうとことん憎々しい。そして香川京子演じる妹の扱いも容赦がなく・・ここも、今回ルノワール版から観た自分には助けてくれという感じだった。

黒澤版では、左卜全氏演じる巡礼の台詞などがとても救いになっているのだけど、どん底下宿に住む一人一人をよく見ていて、心に届く言葉をかけていくところ、これは少し台詞に出てくる阿弥陀如来への導き手か?とも思える。そう思うものには思わせておこうというような話の流れ好ましい。

小津安二郎監督の「浮草物語」で純粋な息子、戦後の「浮草」ではうってかわってすれっからしの役者*1を演じて覚えた三井弘次氏が本当は魂の救済を求めているシニカルなキツネのような役。

黒澤版はふや町映画タウンおすすめベスト1000に入っている。

レイニーディ・イン・ニューヨーク

longride.jp

楽しみにしていたウディ・アレンの新作。衰えぬ職人芸。

過去の作品の登場人物たちが形を変えて出てくるような構成に長年のファンの自分は終始ニヤけながら楽しい時間を過ごす。

主人公の若い男性*1と、中年の脚本家がウディ・アレンっぽく、特に脚本家は口調まで似せていたが、ジュード・ロウだったらしい。驚き。挫折感をごまかしているところ良かった。コメディセンスありとみた。

NYの街角に「雨に唄えば」のように黄色いレインコートの人が歩いていたり、有名なハリウッド映画が下敷きになっているなと感じるところがあったり*2ウディ・アレンの埋め込んだものに気が付けた部分は嬉しかった。主人公が恋人の無知にがまんならなくなる台詞の元ネタはわかなかった。あそこでさっと笑えるようになりたいものだ。

主人公が元カノの妹にダメ出しされるシーンの生き生きしていること。ウディ・アレン映画の楽しき定番だな。

*1:ティモシー・シャラメといって注目されている人らしい

*2:めぐりあい」かリメイク前の「邂逅」(←未見だが。。)かなというシーンあり

時代屋の女房、生きているうちが花なのよ死んだらそれまでよ宣言

 

時代屋の女房

時代屋の女房

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

 

生きているうちが花なのよ、死んだらそれま [Laser Disc]

生きているうちが花なのよ、死んだらそれま [Laser Disc]

  • 発売日: 1986/07/21
  • メディア: Laser Disc
 

 森崎東監督映画を二作品観た。「時代屋の女房」は、ふや町映画タウンおすすめ☆☆(けっこうおすすめ!!)。

時代屋の女房」(1983)は同じ村松友視原作の「泪橋*1(1983)と、「生きているうちが花なのよ~」(1985)は「原子力戦争」*2(1978)とイメージが重なった。「泪橋」も「原子力戦争」も黒木和雄監督のもの。黒木和雄監督は1930年、森崎東監督は1927年と生年も近いこと、反権力の通奏低音、キャストの重複などが自分の中で重なったか?トータルで今まで観た作品群からの印象だと、黒木和雄監督のものの方が端正にまとまっており、森崎監督のものは強い勢いでどこに飛んでいくのか・・というところを感じるのだけど 、この二作品に関しては似通った空気を感じた。

 

時代屋の女房」を観た時、80年代に原作を読んだときはもっとさらっとしたイメージだったのだけど・・という気持ちになり、原作を再読した。

P+D BOOKS 時代屋の女房

P+D BOOKS 時代屋の女房

 

 この「P+D BOOKS」というのは、現在入手困難となている作品をB6判ペーパーバックス書籍と電子書籍で発売する小学館のブックレーベルらしい。「時代屋の女房」、直木賞受賞作品だし映画とのメディアミックスで売れに売れているイメージがあったけれど、入手困難になっていたのか・・80年代ぽさは満載の作品ではあった。

やはり自分の印象通り、原作にないことがいろいろと映画に付け加えられていた。夏目雅子が二役を演じている美郷という女性*3と主人公との関係は原作と変えられていて、自分には悪い意味の追加という風に映る。主人公の女房への誠実さに疑問を感じるような寄り道展開にわざわざなっている。80年代という時代の空気もあるのか?

のぞきからくり」というものを求めて盛岡に行くシーンは映画独自のものだったが、こちらはよかった。出てくる「のぞきからくり」というのはなかなか隠微なところもあり、この辺で映画の「泪橋」の世界とも重なって感じたけれど、「時代屋~」の方が猥雑だけどからっとした表現になっていた。

映画で津川雅彦が演じるマスターの関西なまりは、原作通りであった。津川雅彦、普段あまり関西弁の姿をみかけないように思うけれど、津川氏が関西弁を使うところはさすが京都生まれという色気やたおやかさがありとても好ましかった。

渡瀬恒彦演じる主人公はいなくなった女房真弓を恋しく思って意気消沈、プレイボーイを演じる津川雅彦も引き際を意識するような年齢に、飲み屋でつるむ相手クリーニング屋の主人大坂志郎も昔のロマン求めて元気になったりしぼんだりと、今を生き抜く女のたくましさに対して男たちの元気のなさは・・というあたりは森崎監督作品らしさだろうな。

原作では違う日付だった、大坂志郎のかばんから出てくる切符の日付を2・26事件の日と重ねてあったり、津川マスターと時代屋主人が過去を話すとき学生運動が関係しているのかというような会話を織り込ますところなどは森崎東の社会性を感じた。学生運動というワードは映画の「泪橋」とも重なった。*4

 

「生きているうちが~」の方は、冒頭中学生たちが平田満演じる先生を誘拐しというところから始まり、原発ジプシーといわれる原発作業員、ドサ周りのダンサーなどをからめてある話。森崎監督作品で時々*5見受けられるあふれる意気は十分すぎるほど伝わるけれどいよいよ終盤話が凝りすぎてわからなくなってしまう部分があるようにも感じた。

倍賞美津子はとても魅力的。原田芳雄を恋しく思っている表情での表現が素晴らしい。

平田満も、「女は度胸」の河原崎健三のようなひ弱だけど一生懸命な頭でっかちを好演。

*1:泪橋 - 日常整理日誌

*2:原子力戦争 - 日常整理日誌

*3:変装に弱い自分には別の魅力的な女性にみえた

*4:原作を読んだら「泪橋」の方は官憲と追われていると勘違いされ匿われた元ホストの物語で、映画「泪橋」とはいろいろ設定が違っていると感じた。

*5:ロケーション」、「野良犬」など

ナイチンゲール

 

観たのはVHS。収録はミック・ジャガーが中国皇帝を演じる「ナイチンゲール」のみ。

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ジャケット裏の左側の音楽長の女方のような身のこなしが気になって気になって・・twitterで質問したらIMDbで探してくださった方が現れる。感謝。

m.imdb.com

 

 「ハロルドとモード 少年は虹を渡る」の少年役バッド・コート氏らしい。「ハロルド~」前から観たいと思っていた作品だ。自分の観た作品の中では「ポロック」やウェス・アンダーソンの「ライフ・アクアティック」に出ておられたらしい・・再見したら気が付くかな?

IMDbを拝見して、出演者の中に名前が載っているけれど、出番がわからなかったアンジェリカ・ヒューストンの出番を特定できた。

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顔は識別できないけれど、森の妖精として出ておられたそう。自分の印象では右側?

TV番組で悪役などはシンプルにえらく滑稽に作ってあるのだけど、話の骨格(アンデルセン原作)は心に染みた。 森にいる鳥ナイチンゲールの心根の美しさ。

 

 

 続けてこのアンデルセンの原作を赤木かん子さんが絵本にしたものを読んでみた。

テレビ版よりさらに凛とした為政者への願いを託したお話。アンデルセンというのは生活から生まれた気持ちを作品にこめていた作者なのだなと思いを馳せる。他者の意見に耳を傾ける、どんな立場の人間であれとても基本的なことだ。それを説教臭い感じでなく、美しい物語として編み出していく、そこに才能があったのでは?と。


↑はじめ、この絵本を読んだ時為政者のあるべき姿ということで「幸福の王子」と重ねて感想を書いたが、「幸福の王子」はオスカー・ワイルド作だった。。反省。