禁じられた情事の森

 

禁じられた情事の森 [Laser Disc]

禁じられた情事の森 [Laser Disc]

  • 発売日: 1993/07/25
  • メディア: Laser Disc
 

 観たのはVHS版。

こちらも「いいねしてくれた方に印象だけで好きそうな映画を3本おすすめする」というハッシュタグで、twitterで勧めてもらった作品。*1

エリザベス・テイラーというと美女の代名詞のようにいわれるのを聞いて育ってきて、ゴージャスなイメージ、なんだかそこまででわかったような気持ちになっていたけど、実はほとんど出演作品をみてなかった。。この作品では徹底した悪女ぷり。いわゆる権高ないやな女。もちろん彼女演じるレオノーラがここまでなるには理由があるのだけど、いたぶられるマーロン・ブランド演じる夫の惑いが痛々しく「アメリカン・ビューティー」的なテイストも。「ゴッド・ファーザー」以前のマーロン・ブランドってこういう感じだったんだ。。とにかくドロドロとテンポ良く話がすすみ目が離せない。

軍の官舎のようなところの物語なんだけど軍という規律が最も重視される組織で生きていく中でそれまではとりあえず型の中で取り繕いながらやってきた人たちが、正常ってなんなんだ幸せってなんなんだと問い始める、シリアスなんだけど問題点を受け止めるところまでいって良かったというような気持ちになる映画。薦めてくれた方は、テネシー・ウィリアムズの「ガラスの動物園*2や「熱いトタン屋根の猫」もお好きで、その世界と似た空気も感じられ、ご推薦に納得。

タクシー運転手 〜約束は海を越えて〜

 

タクシー運転手 ~約束は海を越えて~(字幕版)

タクシー運転手 ~約束は海を越えて~(字幕版)

  • 発売日: 2018/11/02
  • メディア: Prime Video
 

良い評判をずっと聞いていて観るつもりだったこの作品、テレビ放映を機にアマゾンプライムビデオで鑑賞。

購読させてもらっているブログ「特別な1日」でこの作品についてじっくり書かれている。登場人物4人が並んでいる韓国版のポスターを紹介されていて、

主な登場人物が笑いながら並んでいる韓国版のポスターはこの作品の内容をよく表しています。左から光州のタクシー運転手、主人公のマンソプ、ドイツ人記者、光州の大学生。

と書かれているけれど、まさにそうで、記者を除いたら、闘いのための選ばれし人、プロの物語でなく、目の前で起きたことに対するやむにやまれずの行動であるところがちゃんと伝わり、観ているものの心を動かす。(記者にしたって手探り状態。ちなみに日本のポスターにもソン・ガンホの右にあと三人の顔が配置されている。)

タクシー運転手を演じているソン・ガンホ、「殺人の追憶*1での田舎の刑事の奮闘しつつも悔しそうな顔が素晴らしくて忘れられないのだけど、この映画でも、意識なんか全然高くない、妻に先立たれ子どもを養うだけで精一杯の、ごくどこにでもいそうな人の姿をうまく演じている。悪態ついたり、気悪くするところなんかの表現もおもしろく、「こんな人いるいる」という感じ。(関西人に多そう。)

光州へも、どんな状況か知らずお金目当てでドイツ人記者を乗せて行くのだけど、現地はニュースでも歪められた情報が流されていて孤立無援の状態、外国人記者を乗せて入ってくるタクシーは大歓迎。タクシーは負傷者を運ぶ、炊き出しのできるものはおにぎりの炊き出しをするという風に市民が自分のできることをしている状態で、希望の光である外国人記者や彼を乗せてきたドライバーへのひとびとの温かいふるまいが胸をうつ。そして、この映画のベースにあるものはここのところだと思う。

ポスターにも載っている現地のタクシー運転手、英語のできる大学生と出会い、運転手の家で囲む夕食、お互いの素顔に触れるひととき。音楽の大会に出たいがために大学に入ったという本当にかわいらしい大学生、彼が弟に似ているという光州の運転手、弟に関する話は詳しく出てこないが、深い思いが感じられる。一つの釜の飯を食べて皆がくつろいだところに、事件に彼らが完全に巻き込まれ当事者になっていく。

外国人記者に報道してもらうために皆がするその人ならではの力一杯の振る舞い、個々の努力が積み重なっていく画面に思い出しても胸が熱くなるし、現地記者の姿なども丁寧に描かれていて、バランス感覚のとれた表現が見るものの気持ちを褪めさせない。派手なアクション表現や勧進帳的な局面でアクセントもつけつつ終盤まで疾走し続ける作品。観る人を楽しませつつ、歴史的な事実を身近なものとして感じさせるすばらしい仕事。

前述のブログ「特別な1日」では当時の報道写真も載せておられるが、1980年のこの事件、自分は高校生で新聞にこの事件が載っていることはみていてもどういうものかちゃんとわかっていなかった。高校の授業で、韓国人の教師がこのことに触れていたことも微かに思い出し、今まで軽くスルーしていたことを恥じる気持ちも起きている。 

南極料理人 ジヌよさらば

アマゾンプライムビデオで二つ邦画を。

南極料理人

南極料理人

南極料理人

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

「ジヌよさらば」

 

ジヌよさらば ~かむろば村へ~

ジヌよさらば ~かむろば村へ~

  • 発売日: 2015/10/07
  • メディア: Prime Video
 

 

南極料理人」は好きな作品の多い*1沖田修一監督。とにかく料理人の料理が食材、条件的にもあんなに限定された環境の中でとても美味しそう。いかにも頭を使って作っている感じが堺雅人にぴったりでそこはとてもおもしろかった。かーっと怒ったりしないけど冷静にいうことはいう、仕事を大切にという雰囲気が心地よい。男ばかりの極限の合宿生活、南極でのお仕事の一端を楽しく知ることができるのは良かった。

しかし、男子が集団でいるときの愛すべき馬鹿騒ぎのノリについていけない自分は何度か置いてけぼりに。

出ている俳優陣は好きな人ばかり。「滝を見に行く」「恋人たち」*2で気になりはじめている黒田大輔氏も出演。悪目立ちしなく場にフィットする持ち味を嬉しく拝見。

良い感じの映画ではあるけれど、ここで観客がウケるように作られてるんだろうなと思いながら、みている自分は画面の前でぽつんとしてしまう瞬間があった。沖田監督は「南極料理人」が商業映画デビュー作のよう。このあとに作られたものを先にみてるので、期待しすぎたところもあったのかも。また2009年の映画ということでその年代その年代のおもしろさの間合いというのもあるのかも。

 

そのあとすぐみた松尾スズキ監督の「ジヌよさらば」は、ものすごく楽しめた。銀行で融資の仕事をしていて貸し剥がしなどからお金アレルギーになってしまった松田龍平がお金を使わず時給自足でやっていこうと東北の村に移住。。←こんな書き方だと「よいはなし」がはじまりそうだが、松尾スズキらしく都会の人間が考える田舎暮らしへの認識の甘さがはじめにたたみかけるように出てきてまずひきつけられる。滑稽で無力な松田龍平。田舎だから善良、にこにことかいう単純な感じでなく、田舎のリアリズムで話が進み、でも生きるってなんだろうってところにちゃんと行き着く面白さ。楽しかった。大人計画皆川猿時、村杉蝉之助が昭和のドロドロ政治ドラマみたいな空気で楽しい。皆川猿時、しつこい嫌がられ役や軽んじられ役が多いように思うが、今回の、小規模な大物感(って!)漂うような役なかなか良かったと思う。西田敏行があくまでも松尾スズキ的世界の中での神のような長老役だが、これがまた良かった。「ここではほとんどのことはなんとかなる。自分の思い通りではなくても」という意味の言葉をいうが、ちょっとカトリック校の宗教の時間にきいた話とも重なっていて。で、深淵一方通行でなく、妙にこの世の人という感じの間合いがすごく面白い。西田敏行の持ち味がぴったり生かされている。

おもしろさとリアリティのある中で夢も与えるようないかにも松尾スズキらしいよいよき作品。すごく堪能した。

フランスの思い出

フランスの思い出 [DVD]

vhsにて鑑賞

母の出産のた母の田舎の友人のところに預けられた9歳の少年のある夏の物語。

そこは、生老病死が身近な当たり前のものとしてある社会。管理されてないゆえのリスクもあるが、本来人が生き生きと生きていくってそういうことなのではないかという気持ちにもなる。

現在自分の前に立ちはだかる疫病。予防は大事だし気を使っているつもりだけど、安全第一が行き過ぎて人から自由を奪い過ぎたりそれがエスカレートしたりして煎じ詰めるとただ呼吸している期間を長く伸ばせばいいのかというところまできかねない。くそまじめゆえ、年寄りかかえてどう生きていくかそれだけで鬱々としかねない時間を送ってきたのだけど、少しは大胆になれ、人生を減点主義で考えるのではないぞ、ということを少年が預けられた隣家の10歳の女の子や、預け先の逞しき大工、墓掘りの年寄りなど通して語りかけてくれる映画だった。田舎の村でもイデオロギーの全然違う人が混在して生きていて、相手は相手、自分は自分という感じで生きているのに肝心のときにはそれぞれの力を貸し合ったりして、なんだかこういうのいいな、万全でなくてもこれでいいんだよという気持ちになれた。

そして前述した隣家の女の子、色々知ってるんだけど究極は変な方向に走らない生命力の持ち主。すごく魅力的。「マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ」のたのもしい中性的女子に耳年増的俗のエッセンスもふりかけたような現世的な可愛さ。「転校生」における小林聡美のような大胆さがまだまだイノセントな感じで魅力的。

手で仕事をしていくことの自然さ、それぞれのつらさ、いろいろなものを内包しながら、これぞ人生という感じでみていて気持ちの充たされる作品だった。


f:id:ponyman:20200601190435j:imageビデオジャケットは懐かしきペーター佐藤さんの絵。

下町の太陽

 

下町の太陽

下町の太陽

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 観たのはVHS版にて。1963年山田洋二監督作品。

「下町の太陽」というタイトル、そして倍賞千恵子主演ということで寅さん系列の映画を連想するし、しかも、めちゃくちゃやってる初期の寅さんでなく後年の説教臭い感じもなきにしもあらずなんだけど、モノクロでちょっとドキュメンタリータッチな、ぶつ切りっぽい撮り方、ジャズっぽい音楽もあわせている雰囲気は、ヌーヴェルヴァーグとは一線を画した監督とはいえ、時代の影響も感じる。

団地暮らしが若者のあこがれとして描かれている。この先ににっかつ「団地妻」シリーズが出てくるのかな・・対比してのお年寄りのアイドルみたいな下町暮らしのヒロイン。どういう人と結婚したいかという理想を語り合う二十代の人たちより、下町のお年寄りたちが濃くて面白い。


f:id:ponyman:20200531105638j:imageツイストを披露する左卜全。横縞のシャツが軽妙でいい感じ。


f:id:ponyman:20200531105656j:image小柄でしゃがれ声の武智豊子。昭和のテレビや映画にちょろっと出ては強い印象を残しておられるイメージ。

このお年寄りたちの、後半に出てくる偽悪的なノリがちょっとおもしろい。

藤原釜足演じるヒロインの父。職人気質な一徹ものの雰囲気がとても良い。羽海野チカさんのコミック「三月のライオン」のおじいちゃんみたいな感じ。

東野英次郎が、少し悲劇的なペーソスのある役なのだが、つらさの表現がうまい。うますぎる位だ。それと、前述した老人たちの偽悪ノリがつながってるのだけど、ちょっと山田洋二の考え方がみえるようなところでもある。

 

伊豆の踊子(内藤洋子版)

ja.wikipedia.org

 

またまた「伊豆の踊子」探求。このバージョンは吉永小百合版(1963)*1と話の筋や言葉遣いがそっくりで、脚本家の名前が吉永版は「三木克己、西河克己(←吉永版の監督)」、こちらは「恩地日出夫井手俊郎」となっているもので、なぜこうも似ているのかと驚いたが、「三木克己」は、井手俊郎の変名とのこと。やっと合点がいった。そうでなければ納得がいかないほどのそっくりさ加減。

はじまりの文学的な気配や、旅芸人たちの泊まる宿のリアリティの出し方などには誠実に作られている感じがとてもしたのだが、直前に山口百恵版をみており、三浦友和の清々しい書生さん姿が焼き付いていたものだから、このバージョンの黒沢年男演じる書生さんには新学期のクラスに馴染めない子どもみたいな気持ちになったまま終わってしまった。

ヒロイン内藤洋子はものすごくかわいらしい。じーっと相手の顔を見つめるアップの顔がとても魅力的。踊子の感じにぴったり。内藤さん、調べたら喜多嶋舞のお母さんで、「白馬のルンナ」を歌っていた方らしい。

吉永版で、十朱幸代が演じた若き儚い酌婦役が二木てるみ。久しぶりに見たが、こちらも本当に良かった。素朴さと哀しさが、踊子のごく身近な現実として迫ってきて。その姉貴的な役回りを団令子。吉永版では南田洋子がものすごい勢いで迫力があったが、この版では台詞が説明的になっていてキレが悪かった。団さんも美しいが、やけっぱちの感じが南田版のほうがいい。脚本や構成の問題と思う。

旅芸人周辺の人物たちに味があり、書生と囲碁を指す紙屋はこちらでは小沢昭一。小沢さん自身が大衆芸能に詳しい方いうイメージがあるから、囲碁を指しながら旅芸人とは、という話をするとき、説得力が漂う。そして、紙屋とからむ女中のお時に園佳也子。60年代の映画でよくみる顔だ。軽妙なやりとりが板についている。

西村晃演じる鳥屋のおじさん(踊子に「水戸黄門漫遊記」を読んでやる)も独特の良い持ち味。踊子の兄の姑役に乙羽信子。こちらも吉永版の浪花千栄子とはまた違った柔らかさが増す空気。

踊子の兄がお座敷で謡を披露したり、踊子たちの芸もこの映画は本格志向な設定になっていたと思う。

終わり方も扇情的ではなく、淡々と踊子の日常を映し出しており、全体的にリアリティを感じるバージョンだった。

 

熱いトタン屋根の猫

 

熱いトタン屋根の猫 [DVD]

熱いトタン屋根の猫 [DVD]

  • 発売日: 2015/12/16
  • メディア: DVD
 

 

「いいねしてくれた方に印象だけで好きそうな映画を3本おすすめする」というハッシュタグで、twitterで勧めてもらった。以前ポール・ニューマン監督作品の地に足ついた良さを認識しあっていた方から。 

テネシー・ウィリアムズ原作。冒頭からの濃い人間ドラマ、凄い迫力で目が離せない。のっけからカリカリしているエリザベス・テイラー演じるマギー。ポール・ニューマン演じる夫のブリックに疎まれても仕方ないかと思うような調子からのスタートなのに、一代で財をなした夫の父ビッグ・ダディのことをちゃんと理解しているのは苦労してここまでやってきた彼女だからこそなのだなと理解が進むにつれ、応援したくなってしまう。「ブルージャスミン*1ケイト・ブランシェットが演じた俗物の主人公に対して、時の経過とともにうまくいけばよいがというような気持ちになってきたのと似た感情。「ブルージャスミン」もテネシー・ウィリアムズ原作「欲望という名の電車」とたとえられているしなあ。

ビッグ・ダディという人物の欺瞞を嫌う感じが良い。仕事や事業が何よりな人物によくある家族との乖離。溝の深まった息子と命がけのぶつかり合い、そして奈落からの展開。登場人物と一緒に心の旅をするかのような良作。心の支えになるようないい台詞も。

若きポール・ニューマンは白いシャツが似合う。純粋でそれゆえの葛藤。良き展開。とても堪能した。