タクシー運転手 〜約束は海を越えて〜

 

タクシー運転手 ~約束は海を越えて~(字幕版)

タクシー運転手 ~約束は海を越えて~(字幕版)

  • 発売日: 2018/11/02
  • メディア: Prime Video
 

良い評判をずっと聞いていて観るつもりだったこの作品、テレビ放映を機にアマゾンプライムビデオで鑑賞。

購読させてもらっているブログ「特別な1日」でこの作品についてじっくり書かれている。登場人物4人が並んでいる韓国版のポスターを紹介されていて、

主な登場人物が笑いながら並んでいる韓国版のポスターはこの作品の内容をよく表しています。左から光州のタクシー運転手、主人公のマンソプ、ドイツ人記者、光州の大学生。

と書かれているけれど、まさにそうで、記者を除いたら、闘いのための選ばれし人、プロの物語でなく、目の前で起きたことに対するやむにやまれずの行動であるところがちゃんと伝わり、観ているものの心を動かす。(記者にしたって手探り状態。ちなみに日本のポスターにもソン・ガンホの右にあと三人の顔が配置されている。)

タクシー運転手を演じているソン・ガンホ、「殺人の追憶*1での田舎の刑事の奮闘しつつも悔しそうな顔が素晴らしくて忘れられないのだけど、この映画でも、意識なんか全然高くない、妻に先立たれ子どもを養うだけで精一杯の、ごくどこにでもいそうな人の姿をうまく演じている。悪態ついたり、気悪くするところなんかの表現もおもしろく、「こんな人いるいる」という感じ。(関西人に多そう。)

光州へも、どんな状況か知らずお金目当てでドイツ人記者を乗せて行くのだけど、現地はニュースでも歪められた情報が流されていて孤立無援の状態、外国人記者を乗せて入ってくるタクシーは大歓迎。タクシーは負傷者を運ぶ、炊き出しのできるものはおにぎりの炊き出しをするという風に市民が自分のできることをしている状態で、希望の光である外国人記者や彼を乗せてきたドライバーへのひとびとの温かいふるまいが胸をうつ。そして、この映画のベースにあるものはここのところだと思う。

ポスターにも載っている現地のタクシー運転手、英語のできる大学生と出会い、運転手の家で囲む夕食、お互いの素顔に触れるひととき。音楽の大会に出たいがために大学に入ったという本当にかわいらしい大学生、彼が弟に似ているという光州の運転手、弟に関する話は詳しく出てこないが、深い思いが感じられる。一つの釜の飯を食べて皆がくつろいだところに、事件に彼らが完全に巻き込まれ当事者になっていく。

外国人記者に報道してもらうために皆がするその人ならではの力一杯の振る舞い、個々の努力が積み重なっていく画面に思い出しても胸が熱くなるし、現地記者の姿なども丁寧に描かれていて、バランス感覚のとれた表現が見るものの気持ちを褪めさせない。派手なアクション表現や勧進帳的な局面でアクセントもつけつつ終盤まで疾走し続ける作品。観る人を楽しませつつ、歴史的な事実を身近なものとして感じさせるすばらしい仕事。

前述のブログ「特別な1日」では当時の報道写真も載せておられるが、1980年のこの事件、自分は高校生で新聞にこの事件が載っていることはみていてもどういうものかちゃんとわかっていなかった。高校の授業で、韓国人の教師がこのことに触れていたことも微かに思い出し、今まで軽くスルーしていたことを恥じる気持ちも起きている。