女の一生

南座にて大竹しのぶ主演段田安則演出の「女の一生」を。自分の祖父がこの作品の原作者森本薫氏やずっと主演女優だった杉村春子氏と仕事上で少しつながりがあり、一度はきちんと観ておきたく鑑賞。観客はシニア層が8割以上という感じで自分もそうなのにちょっと怖気づくが行って良かった。芸達者揃いによるくっきりした芝居、観客にしっかり伝わり、観客が感動を伝えようと終演時懸命に手を振る感じ、コロナで延期になったということも手伝い、まさに舞台とは一期一会、演じ手も受け手も全く同じメンバーでここに会するとういことは二度とない得難いものだという感激が胸に迫った。大竹しのぶ演じる布引けいはがむしゃらで日本の発展に一役買ってきたおやじみたいな人物で彼女が女性であるゆえに苦労する部分もあり、その視点も感心したが、もっと広げてがむしゃら人間がなにかを引き換えにしてきたことの悲哀みたいなものも感じた。全編きちんと観たのははじめてだけど当たり役であった杉村春子の声でセリフがきこえるようなことがたびたび。スチールでみたことのある襷をけいと気の合っていた次男が引っ張り合うシーンも写真で見た杉村春子北村和夫の姿が重なりそこにはちらちらと北村和夫氏のご子息北村有起哉氏の現在の活躍なども明滅し、伝統芸能を観ている時のような気持ちにも。また80年代に紀伊国屋ホールで「蒲田行進曲」の勝手で魅力的なスター銀四郎姿を観て以来ずっと注目し続け、遡ってロマンポルノ作品まで追っかけている風間杜夫の堂々たる姿にも喜びを。しかし一番強く思いを馳せたのはこれを三十代で書き上げ夭折した森本薫氏のこと。石田民三の映画「花ちりぬ」*1でも森本氏への関心が高まっていたが、さらに本日この舞台を観て、祖母が口ずさんでいたいた「アニー・ローリー」はこの舞台からであったかーそしてこの曲はこの作品と色々な意味で深く関わっているのだと感得し、私の中ではまさにハロウィン的にあの世とこの世が南座で気持ちよく交錯したのだった。

 

※2023年1月追記

家の整理をしていたら杉村さんの色紙。赤い櫛は、「女の一生」の物語のキーになるものだものな。秋に観ていたのでその意味を味わえて嬉しい。