テレビの嘘を見破る

 

テレビの嘘を見破る (新潮新書)

テレビの嘘を見破る (新潮新書)

  • 作者:今野 勉
  • 発売日: 2004/10/01
  • メディア: 新書
 

 テレビのドキュメンタリー番組の作り方、状況をわかってもらうために再現的に撮ることのどこまでが許容範囲かということをドキュメンタリー番組を巡って起きた事件を追いながら読者と一緒に考えるような体裁になっている。

厳密にその場で起きたことを撮影するだけではスタッフの拘束時間、金銭的にも番組は成立しないというのはよくわかった。

テレビで映っていることうのみにはできないのだろうなと薄々気が付いている人は増えているとは思うけれど、今野さんがテレビ的に許容範囲内と考えておられることは視聴者の考えているものより枠が広いと感じた。

今までみてきたドキュメンタリー映画についての種明かしも色々載っていた。「現地の人が物語を演じているような感じ」と思ってみていたドキュメンタリーの父フラハティの「アラン」*1は、映画のクレジットタイトルに堂々と配役が表示され、撮影時の50年前のアラン島の生活を島の人に頼んで再現したものだったとのこと。やはりそうだったか・・さらに「ナヌーク」*2についてもフラハティ監督の日記や共同プロデューサーをつとめる妻のフランシス・フラハティの回想記から氷の家の内部の光量が不足しているため、半分に切って光を入れ、ナヌーク一家は撮影時はその半分の家で日常生活を送ったとか。。。そのあたり知らない事実だった。それでも、どんな生活があったのか記録を残すための撮影であるからこれはあり、であるというような話の流れであった。

何も知らないでみていた亀井文夫監督の「戦ふ兵隊」*3は戦闘日誌をもとに再現されたものであり、そこにあった本質を伝える一番有効な手段であれば再現映像は大いにありという考えのもとに作られたようであった。

亀井氏が撮影上の再現について論じた小論文*4にある戦争ニュース映画の、中国兵が日本兵に打ち倒されるシーンは捕虜の中国兵の生命の犠牲があったことを示唆するような記述があるのは本当にぞっとした。著者は

本当だとすれば、再現シーンの是非の議論など、ふっとんでしまうような恐ろしい話ですが、間接的にとはいえこの内幕を日中戦争のさなかに暴露した亀井文夫という人はやはり信念の人であり、勇気の人であったことは認めざるをえません。

と結んでいる。

ドキュメンタリー、額面通りになぞ簡単にできるものではない、というそこだけはしっかり伝わる本であった。