カラヤンとフルトヴェングラー

 

映画「愛と哀しみのボレロ」の中でカラヤンがモデルの登場人物がアメリカのコンサートでボイコットを受けるシーン(戦中のカラヤンへの抗議で席を買い占めて一人の批評家以外観客のないコンサートが発生という場面)が出てきて仰天、そんな事実があったのか知りたくて以前友人にコメント欄で薦めてもらっていた*1この本を読んだ。結論、そういうことあったらしい。(席買い占めによるガラガラのコンサートとの表現、他にも鳩を飛ばしたりなどもあったとか)。この本を読んでまたクラシックファンの知人からも話をきいて、自分が物心ついた時点では帝王のようにいわれていたカラヤンだけど、実力ゼロとはいわないが、処世術に長け運の力も大きかったのだなあ、フルトヴェングラーと随分評価が違うのだなあと思った。

フルトヴェングラーの映画を観て、ナチに賛成していたわけではないのにナチ政権下、親ナチ的な扱いを受けたという話ばかり印象に残っていたもので、アメリカでの公演はボイコットされたものの、ヨーロッパや南米では戦後「非ナチ化」認定されてからは晩年ギリギリまで現役で、驚くほどの数のコンサートをこなしておられる姿に驚きを感じた。

著者自身まえがきにも書いておられるように、そんなにクラシックに詳しくなくてもカラヤンフルトヴェングラーの政治闘争や指揮者とオーケストラの相性を読み物としてたのしめる本だった。

J.エドガー

 

宇多丸さんの「アプレンティス」評*1をきいて早合点し、この映画にも悪徳弁護士ロイ・コーンが出てくるような錯覚を起こして観たが、よくよく聴き直したら、ロイ・コーンがこの映画の主人公J.エドガー・フーバー長官と関係もあり、また重なる部分がある、というようなニュアンスだった。でも十分このタイミングで観て味わい深かった。

クセのある人間を演じるディカプリオが好き。弱みの表現も絶妙で。

この映画の宇多丸評もYouTubeにあがっていて、きいてみたら有名な苗字の方の「フーバー」でなく、名前の方をタイトルにしたのは、公の世界でしたことでなく、むしろ個人生活に軸足、という解説をしていて腑に落ちた。

クリント・イーストウッド監督の映画はじめて観たが観やすく、格調は高く作られている。

アメリカの政治の流れに興味を持った。チャップリンの悲劇とも「オッペンハイマー*2で描かれたこともつながっているのだろうな。

サブスタンス

 

サンセット大通り*1や「ヘルター・スケルター*2(但し原作のみ)ですでに完成されている話を現代を舞台にグロテスクにしているだけという気持ちに・・

壮大だし現代要素満載なんだけど、見た目のグロテスクさ、エグさに頼っているところがあり面白い素材が間口を狭くしてる。若き自分の複製を作る話で、なぜこんな医学的施術を自分で?と思ったが,、ネット等の情報に振り回され自己責任を取らされる現代を描いているんだろうな。みせつけられる身体のグロ、ボディ・ホラーという言葉もはじめて知った。

デミ・ムーアの頑張りをよく目にするが確かに彼女は頑張ってはいた。華やかな世界の人間の話だから他人事として消費できる部分も多々ある。

公開時、五月女ケイ子さんによるデミの「人生すごろく」*3デミ・ムーアに失礼だと問題になって公式サイトが謝罪するという出来事があった、自分は五月女さんの作品好きなんだけどな。

生まれ変わりが活躍するところはヴァーホーヴェン風味で妙な面白さがあったのだが。。もういい、と思ってからの30分。。長かった。「キャリー」の影響も指摘され、自分も感じたけれど、「キャリー」のほうがああなる必然性感じた。

今、酒井順子さんの「消費される階級」という本をオーディブルで聴いていて、その本の影響なんだけど最終的に美醜という序列から逃れられない世界観に、もう一歩展開してほしいという気持ちが募ってしまった。あっ観た人をこういう気持ちにさせて問題提起するところまでで完結してるからインパクトあるのか。。

アプレンティス ドナルド・トランプの創り方

 

江戸時代などでは権力者の話を勝手に時代や名前を替えてごまかして上演していたときくが、こちら、現存の政治家をこんなにばっちり描いて大丈夫なのか、その度胸にまず驚く。描かれている事柄のことも気になって、いつも軽挙な映画評はしない宇多丸さんなにかいってないかと調べる。

www.tbsradio.jp

かなりしっかり調べての発言、信用できると思うのだけど、現実の方がエグかったりするとか!

映画のタイトルになっている「アプレンティス」というのは、ドナルド・トランプが一度破産してからまた世間に名を売ったリアリティショーのタイトルであり、「見習い」という意味でもあるから、トランプを創ったという悪のカリスマ弁護士ロイ・コーンとの出会い、はじめはひよっこみたいだったトランプが、ロイ・コーンの言葉を実践しているうちにお互いの力関係が変わって・・というその見事な変化を味わうような作品であった。

宇多丸さんの話に出て来たロイ・コーンとFBI長官フーバーの関係が描かれている関係もあり、似ているところもあるFBI長官という「J・エドガー」の方も観たい気持ちが高まった。

トランプのチェコ出身の妻、NYに住む東側美女ということで「アノーラ」*1とも重なるものを感じる。

祇園の姉妹

 

20年ぶりの鑑賞

以前観た時*1山田五十鈴の鮮やかさに目を奪われ、姉役の梅村蓉子さんのことを存じ上げてなかったので父に聞いて「梅村蓉子はええな」という返事をもらっていた記憶。

確かに年をとってからみると、梅村蓉子のしっとりした気持ちに寄り添ってしまう。(あと男性にとっては山田五十鈴的な芸姑さんは脅威的すぎるだろうな。)

今回は志賀迺家辨慶という方が演じる古沢さんという、梅村蓉子の零落した元パトロンが気になってしょうがない。「小早川家の秋*2鴈治郎が演じた旦那や「夫婦善哉*3の柳吉を思い出す関西の軟派ダンナの妙な愛嬌、本宅を離れてのくつろぎっぷり。家財売り払ってどん詰まりの生活の中で浄瑠璃(と、断言して良かったか?あとになってわからなくなっているが鼻歌まじりのシーン旦那の身につけた教養も感じられ良かった)を口ずさんで歩く姿の、なぜか悲壮感がなく飄々としてさまになっていること。そしてずるさ。

呉服屋は声で進藤英太郎だと思ったが、なんか後年のイメージよりほっそりしていて、声は進藤さんだが。。という気持ちになる。

姉妹の住む家の暖簾越しの画面などに「残菊物語」*4の簾越しの画面を思い出す。趣がある。

京都の路地裏の影の使い方も美しく、堪能した。

 

ムービング・オン 2人の殺人計画!?

 

2022年 ポール・ワイツ監督

シニア世代になったジェーン・フォンダ、リリー・トムリン、マルコム・マクダウェル共演

お話の骨格の復讐譚は行き当たりばったり感があるけれど三人の演じている「シニアの暮らし」は共感を覚え、なかなか良かった。

なんといっても惹かれたのはリリー・トムリン。かっこいい年の取り方。

マルコム・マクダウェルは憎々しい存在になり切れる人だなあ。(「タイム・アフター・タイム*1などたまにかわいい役をされていてその落差がいい感じだが・・)

 

※これを観て、リリー・トムリンの過去作観ようかなという気になって・・「『パルプ・フィクション』に出てたっけ?ファミレスシーンで・・トム・ウェイツと・・」なんて混乱して検索したが、それはアルトマンの「ショート・カッツ」*2だった。。これもまた観たいな。

ミッキー17

 

ミッキー17

ミッキー17

  • Robert Pattinson
Amazon

ポン・ジュノ監督  2025

全編英語でとてもアメリカ映画。教えてもらわなきゃポン・ジュノと気づかないレベル。

追い詰められ宇宙で文字通り使い捨て人間としての生活をしている主人公。終盤、先住の異生物とのシーン。ポン・ジュノ監督、そういえば「グエムル 漢江の怪物」*1なども撮っていたな。普段からこういうシチュエーションでの異生物への対応が気になっている自分には痒いところに手が届く流れにしてあった。「グエムル」の時より思想的に進んでいる気がする。

アジア系含む有色人種の大活躍にも注目したけれど、これは現代のハリウッド映画なら当たり前の潮流なのかな。

思いきって残酷なところは残酷で最後までみさせる力がある作品。

wwws.warnerbros.co.jp