「カンフースタントマン」からのユエン・ウーピン監督作品

今年の初劇場映画は「カンフースタントマン」。

kungfu-stuntman.com

80年代をピークとする命がけの撮影を支えたスタントチームの仕事ぶりに焦点が当てたもの。

たくさんの証言や撮影映像を切り貼りした作りになっていて凄さは伝わったがちょっと目まぐるしい部分もあった。ただ文字通り命を託して仕事している人たちの表情は映画愛に満ちていて清々しく本当に気持ちの良いものだった。

私の香港映画ブームに先鞭をつけた「蛇拳」や「酔拳」のユエン・ウーピン監督のインタビューも登場。アナログなつくりに固執するわけではないという意味のことをさばっと語っておられたが、観るものにとってどうしたら面白いのか、退屈しないのかということをまず第一義に考える姿勢がとても心地よい。そして確かに彼の映画を観ていると観客を楽しませるための気持ちよく楽しいアクション、ダレない展開に良い舞台を観たあとのような拍手をしたくなることがしばしば。映画の中で、「酔拳」で老師を演じた彼の父も紹介され、直後のふや町映画タウンでの会話から、おふざけ映画「バンパイア・コップ」*1の中で急にキレのいい技を披露されてたのがウーピン監督のご兄弟と知り、ユエン一家への興味が爆増。

家に帰ってふや町映画タウンのおすすめにもなっているユエン監督の「詠春拳伝説」(1994)と「大地無限」(1993)を鑑賞。

filmarks.com

 

 

 

とにかくテンポがいいしドラマとして面白かった。ほんとに言行一致である。「詠春拳~」は、ブルース・リーの拳法の源流である女性拳法家を描いたもので、ミシェル・ヨーが主人公なんだが、幼馴染として登場するドニー・イェンを武道はできるがバカ正直で抜けているという風に描き、これもぴったりはまって本当に笑いを誘う。そして主人公の拳法使いの女性、気持ちよく強いのだけど、いかついわけではないという設定が嬉しい。チンパンジー拳?とかいう猿っぽい武術で挑んでくる山賊とのやりとりはなんとも魅力的な決着の付け方。楽しかった。

「大地~」の方は少林寺の兄弟弟子をテーマにしたもので、年齢は低いが入門が先のそれゆえ弟弟子に振り回される優しき兄弟子をジェット・リーが演じている。年上の野心家の弟弟子との対比がとってもくっきりしていて面白いし、最後自然に太極拳の奥義に観客が導かれ、しっくりくるラスト。こちらも「詠春拳伝説」で主役を演じたミシェル・ヨーが活躍。

詠春拳」も「大地~」も町の大道芸人たちをゆっくりとるカメラの部分も活きており、観客を疲れさせない緩急のつけかたが大変うまかった。気持ち良い時間を過ごせる。

詠春拳伝説」はふや町映画タウンのおすすめ☆☆☆(かなりおすすめ!!!) 「大地無限」は☆(ちょっとおすすめ!)

荒野の決闘

 

名作なんだろうなと思いながら「決闘。。バトルものか。。」と観るきっかけのないままここまで来ていた。

先日からワイアット・アープにまつわるもの*1を観始めたものでその一環として鑑賞。タイトルから誤解してしまったドンパチメインのものでは決してなく、あくまでラストの決闘に至るドラマが面白い。こんなかわいらしい、お花の香りまでするヘンリー・フォンダにお目にかかるとは思ってもいなかった。ドク・ホリディの情婦がらみの話も「これがそうつながるか!」と絡ませ方がうまい!画面の構成、あえて逆光のような撮り方などもとてもキマっていて、無駄に感じる時間が全然なかった。さすがジョン・フォード監督の名作!と唸る。

ワイアット・アープ

 

ウィンチェスター銃’73*1に登場するワイアット・アープが、旅人がその街に滞在中は保安官が銃を預かるということを徹底する、いかにも一目置かれている保安官という敬愛すべき空気に満ちていたので、前から気になっていたローレンス・カスダン監督の「ワイアット・アープ」を鑑賞。

彼の真実の姿を少年期から丁寧に描いているということでビデオでは上下巻の長尺。(191分)。それゆえダレるという評判も目にしていた。冒頭などジーン・ハックマンが登場するところはさすがの空気で画面が引き締まる。ワイアットの父親役でワイアットにも精神的な影響を大いに与えるのだが、登場シーンは残念ながらあまり多くない。

銃不所持のシステムの徹底も反発を招くもので力で抑え込む部分も多く、父親から言い聞かされた「血は水より濃い」という言葉が信条のワイアットゆえ、友人も少ないが、ドク・ホリディという人物との友情は、ドクを演じたデニス・クエイドの何ともいえない色気も大いにプラスに働きみていて気持ちの良いものであった。

ワイアット・アープが電撃に撃たれたようになる女性はなかなか惹きつけるものがあった。ジョアンナ・ゴーイングという人が演じているけど知らない人だった。

 

wikipediaの「ok牧場の決闘」の項を読んでいると、かなり史実に即したつくりだったことが確認できるけれど、他に魅力的な作品のあるローレンス・カスダン監督の作品*2の中ではあまりすすめられない部類の作品という印象を持った。岩場での闘いもちと「ウィンチェスター銃’73」に似ているところあり。

ウィンチェスター銃’73

ふや町映画タウンのおすすめに載っているけれど「銃かーあまり興味ないかも。。」と後回しになっていた作品。少し前に購読させてもらっているブログにも取り上げられ、大晦日に放映していたのでいよいよ鑑賞。

銃の名品の行方とともに進むストーリー。主演はジェームズ・スチュワート。銃の名手だが、良心の人のイメージを持つ彼らしい性格づけがしてある。はじめての西部劇主演とか?

ワイアット・アープやネィティブ・アメリカンの闘士の襲撃など伝統的な西部劇の要素も織り交ぜつつジェームズ・スチュワートが追う人間との因縁は、ストーリーの中にさらっと入ってわかるようになっていてスマートな構成。ネイティブ・アメリカンの闘士を演じていたのは名前だけ知っていたロック・ハドソン。なかなかの迫力。

ジェームズ・スチュワートの旅路で交差するカップルのストーリーの入れ方も秀逸。ミラード・ミッチェルという役者さんの演じるジェームズ・スチュワートの相棒"ハイ・スペード"が渋い雰囲気なのにちょいちょいかわいいギャグを入れてきたりして映画が真面目一辺倒にならないよい空気を出している。

ワイアット・アープの描き方も良くて興味を持つ。良い構成の秀作。ふや町映画タウンおすすめ度☆☆(けっこうおすすめ!!)

香港映画数珠つなぎ

去年末からのにわか香港映画マイブーム。

ふや町映画タウン在庫で軒並みおすすめ印がついているジェフ・ラウ監督の二本「黒薔薇vs黒薔薇」(1992)と「フル・ブラッド」(1994)を鑑賞。*1

 

「黒薔薇〜」はほんと奇想天外。

黒薔薇VS黒薔薇 [DVD]

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  • レオン・カーフェイ
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松竹新喜劇か?と思うようなイラストのプロローグから始まって恋愛もの、ギャングもの、格闘、京劇?がごったまぜ。「バンパイア・コップ」*2の感想で最後は今までの事情放りだしみんな一緒にラスボスと闘うジェフ・ラウ監督作品の良さを書いておられる方がいらっしゃったが、「黒薔薇〜」もそういう要素あり。格闘シーンのキレの良さは気持ちがいい。怪盗黒薔薇というのが元ネタがあるものやらわからないけれど、ユエン・ウーピンが扱ってるみたいな言及も。覚えたての中華圏の英雄ウォン・フェイホン*3の名前も確か出てきた。自分の香港映画知ってるwordが増えていく喜び。ン・マンタ、チャウ・シンチーなどもセリフに混ざるの、歌舞伎で猿之助が中車を「顔の似ている従兄弟」なんて言葉をはさむのに似た楽しさ。

レオン・カーフェイ、男前ゆえの怪しさをふりまき、盛りを過ぎて変なことをやる、ではなく同時進行でバカバカしい役もシリアスな役もこなしそれがシリアス映画への悪影響にならない香港映画界のかっこよさを感じる。レオン・カーフェイは「ゴッド・ギャンブラー 完結編」*4でも極端でおもしろい役をしていたなあ。堅さからの巻き込まれみたいなのがよい感じ。

filmarksを読んでいると、怪盗黒薔薇を演じた人、香港のシャーリー・テンプルといわれた人だとか。自分はちょつとずつ香港映画の知識を積みましていく愉しみを味わっているところ。

もう一本、「フル・ブラッド」。

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これはふや町映画タウンのオススメ度が高い(☆☆)だけある逸品。ジャケットからは計り知れぬカワイさあり。はじまりはジャケットのまま、アメリカの007みたいなチョウ・ユンファだが、少林寺との絡ませ方がユニークでレジェンド級の人たち*5のカンフー対決が主人公置き去りにして行われたりもう面白い。かっての達人が今、という「網走番外地*6みたいなシチュエーション、私は好きで好きで。 ロマンチックで微笑ましいよきシーンもあり(香港映画のロマンス表現は恋愛もの苦手な自分にもいつもぐっとくるかわいらしさ!)定型的な写真で想像する作品じゃない。

國村準が大変贅沢な使い方をされている。

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國村さん結構香港映画にちょいちょい出てくるらしい。

「チャイニーズ・ゴーストストーリー」(1987)、「スウォーズマン/剣士列伝」(1990)

香港映画を山ほど借りてきてるもので続々鑑賞。今日の二本は両方私の好きな俳優さんウー・マが出ている「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」(1987)と「スウォーズマン/剣士列伝」(1990)。「奇蹟」*1や「ハイリスク」*2(1995)ではスター俳優を、「北京の休日」では孫を、あたたかく見守り、時には鮮やかな技を繰り出す優しい顔の苦労人という風情が好きになったのだが、「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」ではバリバリ現役の導師。

「チャイニーズ〜」は、「雨月物語」や「牡丹燈籠」的な霊界の女性がこの世の男性に関わりを持つストーリー展開なのに主人公 二人のかわいらしさで成物していない女を応援してしまう。結構セクシー強調描写もあり。

般若波羅蜜という言葉や鈴の音で退散、お香のついている間だけの効力などの設定に日本でも馴染んでいる仏教儀式の源流をみる。 
怪人は生瀬勝久に似ている。

 

スウォーズマン/剣士列伝」(1990)は秘伝書を巡り二重三重の争奪戦が。。というストーリーだが、サービス精神ゆえか入り組みすぎて117分に長さを感じてしまった。軽い娯楽としてみる分には善と悪、二項対立くらいでもいいかも。

ウー・マの笑顔は良いしいい役どころなんだけど登場場面は少ない。横山光輝の「三国志」を読んでいた時も感じたが中華圏の物語によく出てくる老賢人、老達人って魅力ある。

こちらの悪役(役人)は西村晃似。少数民族漢民族の闘いのようなものも底流として感じる。酒呑童子の物語のように。

 

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/外伝~アイアンモンキー」、「タイガー・コネクション」

 

酔拳」でジャッキー・チェンがコミカルに演じたのは中国では有名な人物(黄飛鴻 ウォン・フェイホン)で「ワンス・アポン・ア・タイムイン・チャイナ(ワンチャイ)」シリーズではシリアスな造形の主人公になっているときき興味を持つ。ワンチャイシリーズ、正編から観なくても大丈夫とのことで、ふや町映画タウンのおすすめである外伝(1993 ユエン・ウーピン監督)を鑑賞。
外伝には少年時代のウォン・フェイホンが登場。
まじめな武闘家+漢方薬売りであるウォン・フェイホンの父と対比して民衆に人気があり奇想天外の動きをみせる義賊の鉄猿(アイアンモンキー)が配置してあり、抑揚があって楽しいし、アクションものに興味のなかった自分も楽しめる技の数々。ユーモアとアクションの絡ませ方も上手で本当に気持ちよく観られる。さすがふや町映画タウンおすすめ度☆☆☆(かなりおすすめ!!)。アマプラで視聴可。

 

気をよくしてさらに同監督の「タイガー・コネクション」(1990)を鑑賞。

意識していなかったのだが、監督だけでなく主演のドニー・イェンも共通。

ドニー・イェンがおっちょこちょいのところもあるような兄ちゃん風の元刑事役で、まじめな「アイアンモンキー」での姿(ウォン・フェイホンの父役)とかけ離れており、同一人物と気づくのに時間がかかった。ほんと香港の俳優は芸域広い。何でもやる。

ストーリーは、マネーロンダリング事件に巻き込まれるという話で登場人物も入り乱れ、観ている方は事件そのものをじっくり推理するというより、弁護士のオフィスでの恋愛話からあれよあれよと展開する話に身を任せその場その場を楽しむ感じ。

歌舞伎の「棒しばり」的な手の自由をなくしてのアクション。観るものを楽しませるためにかけるストレス。

一緒に事件に巻き込まれるロザムンド・クワンという女優さんが演じるのが注意散漫な弁護士で、でも心意気はいいやつ。注意散漫人間の自分には嬉しい。香港映画では女優がただ守られるだけの存在でない描き方が多いなと感じるが、これが大変心地良い。

香港映画のなんでもそこら辺にあるものを武器にして闘っていくところも、ふや町映画タウンの大森さんが指摘しておられたが、確かに魅力である。返還前に行った香港に漂っていた、何でもありでたくましく生き、結果オーライな空気を感じる。

途中闘いの現場になるダブルデッカーのバスには「夜のヒットスタジオ」の宣伝と下部にはフジサンケイグループのマーク。

こちらはふや町映画タウン☆(ちょっとおすすめ!)作品。