舞踏会の手帖、我等の仲間

ジュリアン・デュヴィヴィエ監督作品を二本鑑賞。

 

 

「舞踏会の手帖」はよく言及されているし、いつか観なければと思っていた作品。だいたいの筋は知っていたが、未亡人が昔自分に気のあったような人々を訪ねていってその人たちのその後を探るストーリー、しょっぱなの話からサスペンス風味だったりしてなかなか面白い。和田誠氏と三谷幸喜氏が、一つの映画について掘り下げて語っておられる書物「これはまた別の話」でも「主人公は悪女?」という話が出てくるが、私もそう思った。自分のこと好きでかなり思い詰めていた人のところをまわるとは何の確認がしたいんだ?みたいな・・・和田氏と三谷氏の感想を読んでなければ名作の主人公のことそう思っていいのかな?などと悩みそうではあるが・・「どん底*1の男爵以来、なるほど魅力あるわと思っているルイ・ジューヴェがまたまたいい味。かっこよすぎる位だけど。

そして有名な音楽「灰色のワルツ」。この映画の話をしていた亡き父母の時代を想い感傷的な気分にもなる。先述の本で和田誠さんが「最初に譜面を書いて、それを逆に後ろから演奏して、また逆回転させたそう」とおっしゃっているが、確かに逆回転的な風味。

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 BlueRayの表紙はひょうきんな顔の男優さん(映画の中では美容師さん)が写っているが、彼はフェルナンデルという「この(登場人物の)中で戦後の日本人に一番親しまれた俳優」であると和田誠さんが解説。喜劇役者とのこと。三谷幸喜氏の「周富徳さんに似てますね」という返し、和田さんも同意されているが、私もそう思う。そして話された時代も感じる。

 

続けて観た「我等の仲間」。原題の「La Belle Equipe」は三谷幸喜氏のドラマ「王様のレストラン」のレストラン名として使われている。デュヴィヴィエという名のフランス人も出てくる。(デュヴィヴィエは結構荒っぽくこき使われている印象。)

こちらも音楽が素晴らしい。↓。ジャン・ギャバンの歌声、人を惹きつける力。

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宝くじに当たって大騒動しているところはルネ・クレールの「ル・ミリオン」*2も思い出す。こっそり独り占めとは違う発想。はじめ仲間たちのいろいろな話が楽しくもわさわさ続くが、影となるような女の登場以来話が引き締まる。二種類の結末が作られているそうで、私が観たビクターのVHS版の結末は日本での劇場初公開版とは異った結末が収録されていたそう。

画像VHS版の表紙もとても良い味。中央で笑っているのがパリの街からつれもてやって来た”仲間”とは違う憲兵というのも面白い配置だ。

「我等の仲間」のwikipediaを読んでいると

笠原和夫は代表作『仁義なき戦い』はギャバン主演の『我等の仲間』を手本にして書いたと公言している

 とのこと。(出典は笠原和夫『映画はやくざなり』新潮社、2003年。ISBN 978-4104609017。64p)へえそうなのかという感じ。

 

ステッピング・アウト、旅する女 シャーリー・バレンタイン

ステッピング・アウト(字幕スーパー版) [VHS]

ステッピング・アウト(字幕スーパー版) [VHS]

  • 発売日: 1992/10/23
  • メディア: VHS
 

 

ライザ・ミネリの誕生日にtwitterで「ステッピング・アウト」をすすめておられる方がいらして観てみた。田舎町のタップ教室講師をしているライザ・ミネリの姿がとても健気で、女性の恋愛とキャリア問題もうまく描かれていて入り込めた。

物語が進むにつれじわじわと教室に来ている人の人生がみえてくる。まるで自分もその教室の一員になったみたいに、自分の心に寄り添ってくる、「Shall we ダンス?」の御先祖のような映画。人と人が一堂に会することによって生じる共同社会の縮図みたいなものがあたたかいタッチで描かれ、群像劇の好きな自分にとてもフィットする。

 監督のルイス・ギルバート氏、今までに「フレンズ」*1マイケル・ケインの「アルフィー*2を観ているがどちらも好印象。ふや町映画タウンおすすめに入っている「旅する女 シャーリー・バレンタイン」も撮っておられるのでそちらも拝見。

 

旅する女~シャーリー・バレンタイン~(字 [VHS]
 

 子ども二人が独立、夫と二人暮らしでキッチンの壁としゃべりくすぶっていた主婦シャーリーの物語。そもそものあきらめ人生の始まりの学校時代のエピソードがその後の展開にうまく生かされ、よい脚本。描き方のコントラストの付け方がうまい。人生後半期にさしかかる主人公の思考の行く末が頭でっかちでなくちょうどいい塩梅。歯に衣着せぬトークなど友人をみているような気持ちで楽しめた。

酔いどれ博士

 

酔いどれ博士 [DVD]

酔いどれ博士 [DVD]

  • 発売日: 2014/10/31
  • メディア: DVD
 

 勝新が型破り医師役。「『赤ひげ』みたいな話ですか?」とふや町映画タウンで借りる時きいたら、「もっとやんちゃです」という返事。確かにアクションウェイトも高い。(ビデオジャケットのによると勝のために新藤兼人が書き下ろしたオリジナル・シナリオとのこと。なるほど。)

f:id:ponyman:20210325210246j:plain江波杏子さんが軽くて勝新を追っかけまわすようなおねえさん、カルメンお春役をしていて、江波さん、後年の迫力のあるあのスタイルが確立するまで、姿かたちはかっこいいんだけど、ちょっと男性の前では弱いような女性役とかされていたりしたなあと思いを馳せる。

f:id:ponyman:20210325211208j:plain先日観た「座頭市二段斬り」*1に引き続き、娘役の小林幸子氏を拝見。

警官役の東野英治郎氏がよい味。彼の存在がドラマを面白いものにしている。

花のお江戸の無責任

先日「徹子の部屋」で「私が愛した女優たち」という特集をしていて、黒柳さんが大好きな野際陽子さん、池内淳子さん、沢村貞子さんのお三人が出演された時の映像が流れていた。昔、「ぴったんこカンカン」で、岸田今日子富士真奈美吉行和子の三人が出てこられる時などもそうだったのだが、わかりあっている人たちの映像ってほんと良い空気がこちらまで伝わってきてとても楽しめる。 

野際さんはNHKからのおつきあい、沢村さんのことも慕っておられたことを以前から存じ上げていたが、池内さんのことはこの番組ではじめてちゃんと知った。番組の中でも「割烹着を着て朝からお味噌汁を作るような日本の理想のお母さんというイメージをもたれているけれど、実際は・・・」というような紹介。徹子さんとの会話もとてもさばさばしておられ、チャーミング。徹子さんのご友人、野際さんや向田邦子さんなんかもだが、頭が良くてクールでおもしろみがある方というのが多いのではないかな・・

 

そしてちょうどその直後にみた「花のお江戸の無責任」、こちらの映画でも池内さんがとってもかわいい。歌舞伎の著書を多数上梓されている戸板康二氏原案らしく歌舞伎や時代劇によく出てくる幡随院長兵衛や白井権八助六などをからませてあるストーリーだが、谷啓演じる白井権八の彼女の小紫を池内さんが演じている。二人は同郷人という設定になっていて愛すべき雰囲気だった。別の幡随院長兵衛ものだと、白井権八が喧嘩っ早くてややこしくて幡随院が巻き込まれて気の毒・・なんて思うものもあったのだが、この映画では権八、人をなめたようなところもあるが、たくましい異才の人のような準主役的描き方だった。そして助六植木等。ぱーっと派手にふるまったり、大事なシーンで人をひきつけたりするのは植木さんの独壇場、歌舞伎的演目がなかなかハマっている。ハナ肇が幡随院。後年ほど顔が大きくなくスリムでかっこよい親分ぷり、女房役の草笛光子さんに妬かれるのが自然にみえた。 

花のお江戸の無責任 [DVD]

花のお江戸の無責任 [DVD]

  • 発売日: 2006/09/22
  • メディア: DVD
 

 

悲愁物語

 

あの頃映画 「悲愁物語」 [DVD]

あの頃映画 「悲愁物語」 [DVD]

  • 発売日: 2012/04/25
  • メディア: DVD
 

 鈴木清順監督の70年代後半の怪作。日活を解雇され10年ぶりの作品だったらしい。後半江波杏子の暴走、スコセッシ監督の「キング・オブ・コメディ」を思い出したが、あちらの方が後だった。(1982年)

女子ゴルファーをタレントとして活躍させようとして・・という欲まみれの題材だけど、仕掛け人チームの岡田真澄氏とかもう笑ってしまうほどキザったらしいし(ゴルフ姿はなかなか決まっている。おしゃれな人ではあったなあ。)、ゴルフ雑誌の編集でゴルファーの男を演じている原田芳雄氏も、蛮勇という感じでビジネスの世界でもいつものペースだ・・とおかしくなってしまう。

江波杏子氏のファンの方が、「映画としてはどうなのかと思うけれど江波さんの演技は良い」とtwitterで書かれていて、確かに、皆さん清順監督の描く狂った世界の中で与えられた仕事をちゃんとこなしておられる。江波さんのこの女ならやりかねないという迫力。江波さんが輝きすぎていて、なんでこんな美しい人が・・っていう部分もあるのだが、そこが面白いともいえるし見続けられる魅力になっているとも考えられる。

江波氏が主人公とからむ現場は、まだまだ造成中のベッドタウン的な色彩のあるところだったり(なぜこんな場所だという疑問・・だけどここゆえ成立するストーリーとも)、なんだか対策も緩くエスカレートしていったり、どうしてこうなるんだというところも大いにあるが、70年代後半日活解雇され久々の仕事だった鈴木清順監督が好きなようにやったという空気も漂っている。(少年と桜、ピストル、ラスト近くの猟奇的だけど画になっている場面など)

ビデオパッケージには松竹・三協映画提携作品とあるが、松竹系列の映画だからか、佐野周二氏が、主人公のゴルフコーチとして出演。

主人公を売り出すための訓練の場面の穏やかなチャームスクール講師、お顔になじみがあるなあと調べたら葦原邦子氏だった。テレビで馴染んでいたのかな。宝塚スターで中原淳一氏の奥様だったか・・中原淳一展で奥様の苦労を読んだりしていたのだけどこの方だったか・・

宍戸錠氏が刑事として登場。場面は少ないがコミカルなキメポーズあり。特別出演のよう。

主人公のゴルファーを演じた女優さんはオーディションで選ばれた白木葉子という女優さんだが、白木葉子といえば「あしたのジョー」に出てくる迫力のある美貌のお嬢様の名前・・この映画の原案も梶原一騎氏だし。最初華々しく登場するあたりは、少し「あしたのジョー」の白木さん的空気があった。

ふや町映画タウンでレンタルした時、「清順ファンの若い人たちに凄く評判の映画」というような言い方をされていた。確かにカルトっぽい魅力。「松竹映画100年の100選」にも選ばれているが、ほめ方にそういう空気。

movies.shochiku.co.jp

岸辺の旅

 

岸辺の旅

岸辺の旅

  • 発売日: 2016/04/15
  • メディア: Prime Video
 

先日NHKで放映していて途中少しだけ観たらもう惹き込まれて。改めて最初から鑑賞。

観始めて小松政夫さんのことをtwitterで褒めておられる方がいらしたなあと思い出す。小松さん、本当に素晴らしい佇まい。

彼岸とのやりとりが描かれちょうど最近身内が亡くなった自分には身近に感じられる。あの世にいった人、あるいは、行方不明者というのは会えたらどう声をかけようかとか一番意識するところだけど、そこから.  生きていて交流しようと思えばすぐできる相手との関係に思いを馳せさせられる。

無駄なものがないと思われる寡黙だけど意味の感じられるシーンの積み重ね。登場人物みな静かな芝居をしていてこちらに染み込む感じ。

小松さん演じる新聞販売店店主が切り絵をするのだが、私は「かくも長き不在」の中で出てくる切り絵に思いを馳せた。

俺にさわると危ないぜ

 

俺にさわると危ないぜ

俺にさわると危ないぜ

  • メディア: Prime Video
 

 またまた左卜全を追っかけての鑑賞。

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卜全氏は小林旭が下宿している忍者研究所(なかなかモダンで立派な洋風お屋敷)の所長という役どころ。

客室乗務員の松原智恵子が事件に巻き込まれそれを助けようとする小林旭。そこにからまるモダンガールズ忍者?軍団。往年のお色気アクションテレビドラマ「プレイガール」みたいな空気。

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今ではしっとりした和服美人のイメージの松原智恵子さん、60年代は日活らしい女優さんだったんだなと認識。お姫様的な役まわりだが、なんと下着姿まで出てきて驚く。

緻密さなんかとは無縁な感じのアクションものだが、沖縄ー米軍というようなキーワードも潜んでおり、森崎東監督の「野良犬」*1ともつながるところがある。

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小林旭氏は今の中村獅童氏に似ているように思えた。かねがねおじさんの錦之助に似ているといわれる獅童氏、60年代風なのだろうか・・