「文豪、社長になる」、「忠直卿行状記」

 

菊池寛という人を芥川龍之介直木三十五石井桃子古川緑波など関わりのあった人たちを軸に書いた小説。臨場感の出し方、また取材で集めたエピソードの使い方のタイミングがうまい。

文藝春秋で対談企画の話が出る場面で候補として浦辺粂子の名前があがっている。浦辺粂子、自分は大いにリスペクトしている脇役女優だが、ここでなぜまず名前があがったかを掘り下げたくなる。浦辺粂子のwikipedia を読んでいるとこの小説上で彼女を推挙する(結局名前が挙がっただけのような感じではあったが)古川緑波が、溝口監督の「塵境」という作品での彼女の演技をキネマ旬報で激賞していたらしい。そんなことからのこの言葉だったかな。古川緑波は映画に詳しい青年として出てきていて彼の著作等もあたりたくなっている。

この本をきっかけに寛の原作作品である「忠直卿行状記」の映画も観てみた。

 

徳川家康の孫忠直が主人公。ご乱心の御殿様の物語というざっくりしたイメージを持っていたがプライドと劣等感に政治的な策謀がからんで突き進んでしまうストーリーは、シェークスピア悲劇的趣き。英文学出身、演劇にも耽溺の学生生活だったようだが、石井桃子を使って海外の小説を拾い上げさせダイジェストをきくということをしていた話なども大いにその小説世界の構築の仕方の基礎になっていそうだなと実感。雷蔵が主人公を演じているから、とんでもない行状でも寄り添ってみてしまう。

 

映画を観たことをtwitterで書いたら、忠直が最期を迎えた地、大分(旧豊後)の方が原作にとても感動されたと教えて下さり、原作も読んでみた。

原作の方がシンプルで良い印象。まっすぐに忠直卿の心理が表現されていて、こちらの方がさわやか。映画の、ちょっと恋愛感情的なものまでほのめかしたりする描写は余計に感じる。観ている人を喜ばせるつもりのこういう映画の動作、いつも残念になる。

ちなみに晩年忠直は豊後で茶の湯を愛し、「一伯」と名乗り、その名をつけたお菓子もあるそうだ。