メイトワン 1920

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「ブラザー・フロム・アナザー・プラネット」*1以降集中的に鑑賞しているジョン・セイルズ監督作品。

明らかな力の不均衡のもと、労働搾取が行われているアメリカの炭鉱。ストをしているところに、スト破り人材が投入され内輪もめで力を分散させられている状況。そこに街の外から組合結成をうながす男(クリス・クーパー)がやってきて・・というストーリー。

内輪もめで力をそがれる・・どんな集まりでも多いのではないだろうか・・

かたまってしまっている街に外からの人間がやってきてという構造、しかも安直に良い結果が出たりしない描き方は「日本人の勲章」*2にも通じるものが。(あちらよりさらにリアリティがある展開かも)

とにかく単純な英雄譚にしていないところがいい。外からやってきた求心力の強い男がなにもかも一人で解決してくれるのではない。いろいろな人ができることをしていく積み重ね、だけどそれが安易にうまくいくわけではない誠実な描き方に好感が持てる。ドラマチックな見せ場は見せ場として用意してあるが、安直なハッピーエンドではない。

私が何より良いと思ったのは、説教師の男の子(ウィル・オールダム)に大事な役回りを担わせているところだ。説教でできることを表すシーン、一番好き。

その説教の時迎えている大きな危機に対峙させられるジェームズ・アール・ジョーンズの存在感、魅力も物語を引っ張る。ダース・ベイダーの声の人らしい。

ロマンス的なものは徹底的に排除して秘めたるものとして描いているのもより魅力的である。警察署長を演じたデヴィッド・ストラザーンの一見優男風からの色気。調べたら「ノマドランド」*3で主人公と大いなる関わりをもつあの魅力のあるあの男性役の人か!

主人公のクリス・クーパー、見覚えがある顔と思ったら、「遠い空の向こうに」で頑固おやじを演じていた人だった。そして、「アメリカン・ビューティ」でもガチガチの嫌なおっさん役やっててこれ観るまで自分の中でそっち系のイメージの強かった人のスタート*4はこうだったか!しかも、その後スパイク・ジョーンズの「アダプテーション」(2003)ではそれまでのイメージを一新しただらしない雰囲気の蘭収集家の役とか!(みたはずだし、その役ぼんやり覚えているのだけど頭の中で一致しない。)

米映画詳しくないもので、地味にみえたキャスト陣には驚きの連発であった。

日本人の勲章

 

 

第二次世界大戦中の米国の日系移民の立場が物語の核。倉本聰脚本実相寺監督のドラマ「波の盆」*1でも日系移民の苦悩を移民家族自体から描いていたが、こちらは、日系移民をみる米国民のこころということに焦点があてられている。

戦後、西部の田舎町に片腕を失ったスペンサー・トレイシー扮する男が降り立つ。すごくマッチョな町で、地元の声のデカい男の力による支配が横行している。スペンサー・トレイシーは彼の命を西部戦線で命にかえて救ってくれたこの町出身の日本人兵士の家族に会いに来たのだ。

何かを隠蔽しようとし、長いものには巻かれておきたい町の空気。しかし、良心のうずきを感じているものもいる。スペンサー・トレイシーの粘り、働きかけ。そこから、浮かび上がる現代にも通じる、大義さえ与えられればそれまで同じ共同社会で暮らしてきた無辜の人間に何をしてもいいのかという問題。そのことを命を救ってくれた男の「勲章」を届けるというわかりやすい形でドラマにしている。

孤軍で乗り込む、しかも片腕しかない設定のスペンサー・トレイシーをハラハラと見守る。彼のアクションシーン初めて拝見。「いま」ともつながるテーマが、サスペンスやアクションなどの色彩もつけながら巧みに描かれている。

新幹線大爆破

 

3月末に山本圭さんがお亡くなりになられた時、この作品での悔しそうな圭さんの演技を思い浮かべて追悼する方が多かった。私の圭さんのイメージは遺作にもなった倉本聰の、テレビ関係者のみの高級老人ホームが舞台のドラマ「やすらぎの郷」シリーズの続編。石坂浩二ミッキー・カーチスとの三人の釣り仲間姿で、えらく穏やかな姿。あだ名も「大納言」。なので、お若い時こんな感じだったのか!という感慨。皆さんがおっしゃるように運動家くずれの青年を好演。

皆さんの再三の評判をきくまで、パニックムービーだしなあと後回しにしていたのだが、「シン・ゴジラ*1的とでもいおうか、守る側も犯人側も人間描写がとても丁寧。守りの方の国鉄ー警察ー国の考え方のせめぎあい、組織や社会と人間が力強く観客を引っ張る形で描かれ、固唾をのみながらラストまで連れていかれた。何回か用意されているハラハラもよい出来。ビジュアル的な工夫も良い。

クライマックスシーンの運転手役の千葉真一の行動はなぜここで千葉さんが?職務的にどうなんだろう?・・これは千葉真一に花を持たすだけのシーンになってないか?などとちょっと思ったが、wikipediaによると千葉真一の発案だったらしい。

wikipediaを読んでいると国鉄の運転の指令長役だった宇津井健が当初犯人役という想定もあったとか。それはそれでよかったかもしれない。宇津井さん清廉なイメージだが、近年の三浦友和みたいな意外な役の姿も観てみたかった。

私の周辺で評判の良い、宍戸錠さんの弟でちあきなおみ氏の夫、郷鍈治氏、この映画でお姿を憶えた。すばらしい存在感で話を盛り上げる。

志村喬氏の国鉄総裁姿、シーンは少ないが貫禄があり嬉しい。こんなところも「シン・ゴジラ」的だと感じた。

人生劇場 飛車角

 

「人生劇場」、こちらも名前はきいていたが未体験ゾーンの映画である。色々な監督のバージョンがあるらしいが、東映明朗時代劇で馴染んでいる沢島忠監督版(1963年)のこちらをまず観てみる。

いきなり村田英雄の「やあると思えば」から始まりこてこてである。しかし配役一覧の中に加藤嘉田中春男など好きな俳優さんの名前が出てきて期待する。

主人公飛車角は鶴田浩二

割合早い時間に加藤嘉が鶴田が恩義を感じている小金親分として登場。早速嬉しくなる。品のあるような、それが逆に弱さにも通じそうなはかなさがあり早速小金親分に肩入れ。ストーリー上、小金親分が魅力的でないと話が成立しない大事な役。

金親分はストーリーを回す引き金になるのだが、この作品の中で何より魅力的なのは月形龍之介が演じる年老いた侠客吉良常だ。縁のある坊ちゃんの下宿で事件にまきこまれ警察の取り調べにあう体で登場するが、もう登場するなりただものではない気迫があり、すっかり参った。月形さん、twitterでもファンの方の熱い投稿をみかけたりしていたが、鋭いのに少しとぼけたような魅力も兼ね備えているところがなるほど良い。そういえば大久保彦左衛門も彼が演じている時*1の方が古川ロッパが演じているものより企みがなさそうな感じで好きだったな。

鶴田浩二の子分役で高倉健。女を巡るあれこれは自分にはどっちでも良く早く切り上げてほしかったが、高倉健が物語の中でぱっと光が当たる車引きとしてのシーンは「ジャコ萬と鉄」*2的な元気でやんちゃな時代の健さんでいいなと思った。

田中春男は、獄で大阪弁でしゃべっている人物かな?

若大将対青大将、アルプスの若大将

 

若大将シリーズを観たことがなかったのだけど、気楽なものを観てみたい気分&田中邦衛さんが亡くなられた時、若大将シリーズの青大将が代表作に挙げられることが多かったので一度は観とかなければと「若大将対青大将」(1971)を鑑賞。シリーズ17作目、青大将もずいぶん時間をかけて大学卒業、加山雄三扮する若大将も社会人で次世代に若大将を譲るという話になっていてシリーズも熟している雰囲気。

加山雄三のモテモテや歌唱はどっちでも良くて、だからこそ観るのが今に至ってしまったのだけど、邦衛さん演じる青大将の滑稽な敵役としての活躍ぶりはものすごく楽しかった。様々な衣装がえ。お坊ちゃま役だけにとても豪華。

加山雄三のことが好きな文書課の女子に懸想して、文書課に入り浸り、好きでもない女子に追っかけられるのだけど、その邦衛さんを追っかけてる女子の声に聞き覚えがあると思ったらアニメ「ひみつのアッコちゃん」の初代アッコちゃんの声の担当の太田淑子さんという方だった。

邦衛さんも大学生というには随分年をとっておられるのに松村達雄に「パパ」とか甘えてみたり、お手伝いさん千石規子さんにいつまでも心配をかけたり、とにかく青大将周辺が楽しくて、調子に乗ってもう一本みたのが「アルプスの若大将」(1966)。

こちらは監督も前者とは違っていて、小松政夫の自伝ドラマ「植木等とのぼせもん」で鬼のように精力的な撮影っぷりの古澤憲吾監督作品。確かにこの映画、盛りだくさんなんだけど、元気なひとが撮った映画という感じ。スキー部の競技シーンが至極きちんと撮られていて時間も割かれているのだけど、スポーツ観賞に関心のない自分には長くて辛い。加山雄三の歌も聴かせどころなんだけどそちらもどちらでもいいもので、もっと青大将が出てこないかなーと待望んでばかりになってしまった。加山雄三のことをアイドル的に好きな人、スキーの好きな人には楽しめるのだろうな。ゲレンデのコントラストなどは美しかった。

若大将の実家が出てくるのは楽しい。おばあちゃん役に飯田蝶子さん。カラー時代になってからの作品、自分はあまりお見かけしてないかも。飯田さんはとても良かった。

そして、イーデス・ハンソンの出演。関西では幼い頃ほんとに良くお見かけしていた。ふと、幼き頃の外国人ブーム、ヒデとロザンナやフランソワーズ・モレシャン、クロード・チアリなどの名前を思い出す。

お相撲の千秋楽での懐かしいパンナムのえらいさんの「ヒョウショウジヨウ」という言葉も収録されている。時代を感じる意味では楽しかった。

最果ての地

 

最果ての地 (字幕版)

最果ての地 (字幕版)

  • Mary Elizabeth Mastrantonio
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ジョン・セイルズ、監督作の「ブラザー・フロム・アナザー・プラネット」「希望の街」*1や脚本作品「ブレイキング・イン」の手際の良さ、面白さに感銘を受け、またまたこちらの監督作を鑑賞。

タイトルからジャケット、出演者、すべて地味なんだけど、これがなかなか面白い。

原題「LIMBO」はカトリックで幼児が洗礼を受けない状態のまま亡くなり、魂が天国でも地獄でもない場所におかれるという意味らしいが、そこからどっちつかずの意味にも使われているらしい。この作品では、自由に生きる女、その娘、そして二人と出会う、育ってきた土地で過去には敬われつつも事情があって遠ざけられているような孤独な男の三人が軸になって話が進む。男の置かれている現在も「LIMBO」、そこから起きる事態も「LIMBO」、奔放な母がつきあいだしたその相手の男に実は以前から好感を持っていた娘の状況も「LIMBO」である。さらにいえば、アラスカという土地をテーマパーク的に使う時に普通の生活者の暮らしが開発デベロッパーからみると見た目悪く立ちふさがっている存在でありそれを作られた空間に置き換えようとする、その折り合い、こんなことも「LIMBO」であり、このことは京都に住んでいるとえらく身近だ。

娘の想いについても、時々見受けられる「愛した女は過去に愛した女の娘だった」式の男の勝手なロマンみたいな下世話な感じに描かれているのでなく、繊細に事態は事態として冷静に話を進める監督の語り口がいい。

三人が気軽な旅に出かけたはずが・・というストーリーだが、危機に際しての三人の姿が本当にそういうことあるだろうな、自分もこういう風になりかねない、というリアルさに満ちていて、それが結果どうなった、という結論ばかり追い求めるパニックムービー的な描き方でなく、じっくりとこちらに考えさせる構成。

この連休、netflixのドラマをいくつかみていて、それはそれで現状への切り込みをわかりやすい形で描いていたり、人の目を惹く構成に感心したりもしたのだけど、久しぶりにじっくりと文学作品に触れるような風合いのこの映画に出会ってこれこそ豊かな時間だしこういう時を大切にしていきたいなどとも思ってしまった。

日本の黒幕

 

これは一体。。テンション高めの芝居の連続で長い予告編を観ているような気に。ロッキード事件の話だけど特別その内実がわかるわけでなく知っていることを変な脚色で見るだけ。

田村正和佐分利信演じる児玉誉士夫がモデルとされる男に仕える人物だが、ダンデイーな彼、作務衣とか似合わないなあ。出番は多いし大事でシリアスな役なんだが残念な感じ。役名は今泉。ドラマ「古畑任三郎」で西村まさ彦が演じたなんだか軽んじられ続ける田村さんの相棒刑事の名前でこれには驚いた。三谷幸喜氏これ観て付けた?

ちょっと佐分利信の屋敷のセットもパーツがちゃちに感じられることがあり、豪華出演陣の無駄遣い的な空気も流れているが、終盤の田中邦衛の気迫は画面が引き締まり素晴らしい俳優さんだったなあと再認識。

佐分利信がネコをかわいがってるのは「ゴッドファザー」の影響?なんか劇伴もだしちょいちょいいただいてるな、と感じた。