ミス・サンシャイン

 

横道世之介」の続編から始まって吉田修一熱が高まった今年。「国宝」を読んで吉田氏の歌舞伎ひいては芸能への熱を感じ、その資質を活かした本をさらに読みたいと探して、往年の映画女優を主人公にしたこの作品に出会った。今回もまたヒロインのモデル探しをしてしまったが、「国宝」と同じく誰がモデルというのではなく、「ある映画女優」としての造形が完璧にされていて、フィクショナルな存在だ。ただ素地となったものには、京マチ子を感じた。大事なのは女優とこの物語の語り手である大学院生がともに長崎出身で、読み手を決してしんどくさせない自然な形で原爆のこと、その後遺症、米国での被爆者の扱いなどが描かれていること、だからといって原爆の小説というカテゴリーのものではなく、それは人にふりかかる様々なものの一例であり、誰かが先に亡くなった誰かのことを偲ぶことというものがテーマである。そして、それが、吉田さんの作品ではいつも感じるのだが、決して湿っぽくなくでもあたたかに寄り添って希望的に描かれる。

「国宝」を読んだ時受けた迫力のまま、映画の世界に置き換えた「国宝」のつもりで読み始めると少しおとなしいかなと思うけれど、戦後の日本映画界の空気を愛すべき横道世之介が吸いにいったと思えば落ち着くような作品。