歌舞伎界を舞台に描く「ガラスの仮面」*1的新聞小説。面白い。時は昭和の半ば、もはや戦後ではない日本。長崎の侠客の息子が関西歌舞伎の大名跡の部屋子となり一つの到達点に恵まれるもののみまわれるピンチや陰謀。ここからどう折り返す?というところまで。
はじめモデルは誰?というような気持ちで読んでいたが、多分色んな人や作品のエッセンスが混ざっていると思う。環境や起きた出来事だけみていると玉三郎さん的なところや、十八世中村勘三郎さん的なところもあるし、もともとのお師匠さんにしても映画界での活躍を思うと二世鴈治郎さんを思わすところも、眼のエピソードからは先代の仁左衛門さんのことを思わすところもあり。。とさまざまであり、後ろ盾の重要さなどは十八代世勘三郎さんに早世されたあと歌舞伎評論家の人が口にした危惧なども思い出す。だけどそれらがうまくブレンドされ完全に吉田修一が独自に作った世界となっている。「残菊物語」*2を別展開にしているようなところもあり、歌舞伎絡みの作品に触れていればいるほど楽しめる。歌舞伎の演目についての表現も深く、知っている人にはより味わい深く知らない人も楽しめるつくりになっている。
「よみがえる新日本紀行」で興味を持っていた天王寺の芸人村てんのじ村*3や松竹ヌーベルヴァーグ、そして主人公が長崎から大阪に出てくる特急さくらから「喜劇 急行列車」*4の話がでてきたり、自分の好きな要素満載。青春小説的な部分もあり続きが楽しみ。