ベルカ、吠えないのか

 

この小説、2005年の直木賞候補になった故か2006年に読んでいるのだが軍用犬を通して世界の近、現代史を描く構想が当時の自分には難しく読了するだけでやっとという感じだった。

今年に入って古川氏の「平家物語 犬王の巻」*1を読み、その流れで、これが映画でも観た第二次世界大戦ものとしては珍しく日本軍の成功に終わり後味が悪くないキスカ島からの撤退作戦、その中で唯一心残りだった島に置き去りにされた犬の話から始まると知り再読してみた。キスカの映画*2を観たとき犬たちのことが気になって仕方なかったから。

「犬王」を読んだことも手伝って、古川氏が勝ち組に都合のいい歴史の中でないものとされた側からの物語を描きたかったのだと強く感じることができた。キスカの映画をはさんだことでとっかかりの犬への思いが強くなり、流転しながら生きていく犬の系譜を頼もしく読み、犬に形を借りた自分の物語として読むことができ、ラストでは感動。初回と全く違う読書となった。自分の中ではむごたらしいシャロン・テート事件を題材に別の展開を紡いでみせたタランティーノの「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」*3のような手触り。