ええじゃないか

 

少し前に観た今村監督の「女衒」*1の妙な勢いが懐かしく、同じくパワフルそうなこちらも鑑賞。評価が分かれたりしているらしいが、私はとても楽しめた。

幕末に民衆が踊り狂うということのみの知識だったが、長く続いた幕藩政治のひずみ、腐敗がいよいよ我慢ならないところまで来て、という流れは今日的でもある。クライマックスの橋の向こうとこっちでのせめぎあい、その後に起きた、そして今も現在進行形の世界のニュース映像そのままだ。

この作品では元々、自分たちにいい流れを作るため、うちこわしなどを陰であやつる権力者たちがおり、自分で仕掛けたことが制御不可能になって・・という話に作ってあるが、その仲立ちになる見世物小屋主の男を露口茂が演じ、その屈折に静かなる迫力がある。

泉谷しげる演じる主人公源次横浜港沖で生糸の運搬作業中に難破し、アメリカ船に助けられアメリカで暮らした後日本に帰ってきた貧農。彼は現在とはまた違う80年代前半の若き吸引力をまとっていてなつかしいやら楽しめるやら。アメリカ帰りという特異な経験で周りに影響を与えるのがとても自然。

帰国後再会した妻イネは露口茂の小屋でストリップの太夫に。イネを演じる桃井かおりのあっけらかんとした見世物っぷりの魅力的なこと。このたくましさ、そして湿っぽくはならない情感の可愛らしさが映画を引っ張る。ラスト近く、「世直しかんかん」と称してフレンチカンカンの翻案を演じるところなども、着物を組み合わせた衣裳をうまく着こなして良い場面。

桃井かおりと並ぶ先輩、倍賞美津子がまたいい。落ち着いたあの声。時にはライバルの二人の関係の楽しさ、美しさ。そして、桃井かおりよりは若い、新しき世代を演じる田中裕子のつかみどころのない魅力。

小屋周辺の陽気な鉄砲玉的な存在に火野正平。彼がまたいつも突拍子もないカラフルな衣裳をまとって観る人を惹きつける。

草刈正雄琉球の男イトマンを演じる。こちらがまた日々の中では飄々と暮らしつつも歴史的な背景を引きずっており、そのドラマがまたこのええじゃないか踊りの横で静かに映画的に繰り広げられとても魅力的。

少しの出番しかないが、泉谷氏の父を演じる伴淳三郎氏も上州の貧農のあきらめの体現がもうナチュラルでナチュラルで。ずいぶん楽しめた映画だった。

 

追記:

2021年11月11日の京都新聞文化欄に平野克弥さんという方の書かれた「江戸遊民の擾乱」という本の紹介が載っていた。内田孝さんという方の署名記事。

「幕府が演劇や見世物に関わる芸人や弾き語り、動物使い、手品師、踊り子、曲芸師らに目を光らせ、身分の上下など社会規範をみださないよう規制した事例を紹介」とある。映画に出て来たこととの関わりを感じる。