教育と愛国

 

教育と愛国――誰が教室を窒息させるのか

教育と愛国――誰が教室を窒息させるのか

 

第55回ギャラクシー賞テレビ部門大賞を受賞したMBSのドキュメンタリー「教育と愛国」を書籍化したもの。第一章はテレビ番組「教育と愛国」の取材ノートというべきもので、1時間の番組の枠ではおさまりきらなく残念ながら放映されなかった情報なども書かれている。

第二章は斉加記者がドキュメンタリー専門になる前、報道記者時代の体験をまじえて大阪の教育行政について書かれたもの。

橋下知事時代、「クソ教育委員会」なる言葉は知事の口からよくきいていたが、どういう話だったのかあまり見えてなかったのだが、つまりは教育委員会の権限を首長が握りたいという話で、番組「教育と愛国」で、安倍晋三氏が語っていた、自分好みの教科書を選ばすには首長が意に沿う教育委員を選んでいけばいいことという話とつながるのだった。橋下氏が「選挙に勝った=民意を反映している」というレトリックを使うこと(すべての項目についてではないだろうに)、また、1997年に誕生した「新しい歴史教科書をつくる会」の藤岡信勝氏は、国際競争に勝つために必要だとして、教育におけるディベートの普及に力を入れており、「つくる会」などの運動を研究した社会学者倉橋耕平氏によれば、その「歴史ディベート」は真実より「説得性」を重視、つまり、事実を積み上げた真実より「その場限りでもディベートに勝つ」ことが重要視されていたとの分析だという。このあたりの話をきいて、映画「主戦場」で自分の感じたことなどとも道筋がついてきたように思う。

政治と教育が結びついてしまうことのこわさを、大阪府君が代斉唱口元チェック事件の時などはよく認識していなかったのだけど(問題点のポイントが見えていなかった)、じわじわと今これはまじめに当たらなければいけない問題だったんだと感じてきた。

日曜日の午前、日曜美術館かこさとし 最期のメッセージ 未来を生きる子どもたち大人たちへ」という番組を放映していた。国のいうまま戦争に突き進み自分の大事な時間を失ったと感じたかこさんは、「自分の頭で考えられるひとになってほしい」という願いをこめて、絵本を作り続けておられたという。そのために、科学的な説明は最新のものを取り入れ、描いていく努力を失われなかったそうだ。それは知的好奇心を持ちながらも戦争に阻まれ、大学への進学がかなわなかった義父の姿、「学校のいうことも間違っていることがある」と語り、自分でいろいろなことを調べる癖をつけるように指導していた姿と重なる。二人に共通するのは学ぶべき時期に訪れた戦争体験だと思う。戦争体験者の声をリアルにきくチャンスがどんどん減っていく現在、やっとのことで獲得した真実を探求し、自分の頭で考えて自分の人生を切り拓いていく権利を無関心ゆえむざむざ失ってしまうのではないかと本当に危惧する。

 かこさんの特集の日曜美術館は7/14午後8時からEテレで再放送あり。

www4.nhk.or.jp

最後にもう一度この本のことに戻ると、今向かっている方向にただ絶望したり詠嘆したりしているのでなく、厳しい現実をなんとか打破しようと努力し少しずつ改善していってる人々のことをきちんと書いているところ、今出しうる処方箋みたいなものを提示しているところがとても良いところだと思う。