ウィズ

 

「ジュディ 虹の彼方に」*1を観た影響で「OZ」系列のものをなにか観たくなった。悪い評判をちょっときいていたような気もしながらの「ウィズ」。

しょっぱなは、主人公ドロシーが嵐で飛ばされる前の家庭の描写だが、ダイアナ・ロス演じる主人公がもういい大人で内気という設定に違和感を覚えた。しかし飛ばされてからドロシーを迎える世界はNYの暗黒部分を派手に演出したミュージカルという感じで「ん?なかなか面白いのでは?」という気持ちに。ドロシーが出会う相手に対してちょっと説教臭い感じがするのも、学校の先生という設定ならまあ自然かという感じ。一番に出会うかかしがマイケル・ジャクソンと気づいてからは彼にひきつさられる。映画「ドリーム・ガールズ」で、彼がモデルと思われる男の子がダイアナ・ロスがモデルの歌手にあこがれていたエピソードがあったなあと思い出す。スターの歌唱やダンス部分はとてもいいし、仕掛けも凝っているところもある。後半に出てくる「しごき工場」の有様も奴隷労働そのもので社会派監督のシドニー・ルメットらしさも感じたり。ただ話の骨格は適当。楽曲は良し。

 

読書する女

 

読書する女(字幕版)

読書する女(字幕版)

  • ミュウ=ミュウ
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人を食ったようなパッケージの写真をみて長い間敬遠していたが、観てみたらなかなか楽しめた。出張朗読という職業の物語。その話を読む女という二重構造になっていて、本の世界と現実の混じり合いを楽しむ構造になっている。

描かれる出張先で出会う人々との寓話的なつながり。それぞれの訪問先が色分けされていて絵本のように楽しい画面。私も成人相手にものを教える仕事をしているのだけどやりとりしているのは技術というより相手の人生とのかかわりのような気がしていて、自分の暮らしまでが美しいベートーヴェンの曲に彩られたこの映画のワンシーンのように感じられてしまった。この物語の中では将軍の老未亡人、小さな女の子などのシーンは頼もしいし楽しいのだけど男がらみだとなんか勘違いばかりされていてそこはつまらないなあと思ってしまった。

汚名

 

あらすじを読んだ時は「ナチスの残党もの」「スパイ」。。と、なんだかとっつきにくいのでは?。。と尻込みしかけたが、ヒッチコックだしふや町映画タウンのおすすめにも選出されてるし退屈はしないはずと観てみて正解。冒頭のバーグマンとケイリー・グラントの出会いのあたりは、美男美女同士ではいはい、という感じだったが、バーグマンの潜入先のドイツ風のこわい姑登場あたりから俄然面白くなる。やはり敵役の力って大事。謎とサスペンス、まるで将棋のような手の探り合い。クールビューティーが苦手な私でもこのバーグマンは好きだし、かなり肩を持った。あっという間の終演。手さばき良し。

余談だけどヒッチコックは車に同乗させられてハラハラさせられる状況好きだなあ。

「陸軍」と「笛吹川」

木下惠介監督作品を二本鑑賞。

「陸軍」(1944)と

笛吹川」(1960)

 

 

「陸軍」は幕末から始まる小倉の商家三代の物語。1944年のものだけにお国のために身を捧げることが表面上はもちろん是として描かれているし、笠智衆演じる父親が身体を壊したりして前線で活躍できない悔しさを体現し、そこから余計熱心に子どもを戦場に駆り立てる姿なども気持ちがわかるように描かれている。一方笠智衆よりずっと物のわかったその妻の、夫の一件も踏まえて子孫にはきちんと役目を果たす人間になってほしいと願ってはいるものの、優しく育った息子が出征する時の心中の複雑さ・・それが演じる田中絹代の演技によって時を経て観るものの心に突き刺さる。表面上はこれが今生の別れかもなどということは決して語られないがそれを彼女を追うカメラで表現する素晴らしい木下監督の力量。笠智衆の不器用な朴念仁っぷりもしゃれにならん感じでやや滑稽に描かれ田中絹代の苦労が自然に感じられ、よい構成。

笛吹川」は、武田信玄の膝元の貧農の一家の物語。パートカラーの違和感についてはあらかじめきいていて覚悟して観たので、木下監督は新しい試みが好きなんだな、とも思ったし、まがまがしいことや悲しいことが起こる予告としての色付けに気持ちを持っていかれる。「おやかたさま」という呼び方で支配者のことが話されるが、向こうは貧農の命なんか知ったこっちゃないという状況が淡々と残酷に描かれる。テーマは「陸軍」とも重なるように思ったけれど、「笛吹川」の方は、話のトーンが地味で、「陸軍」の持つ、抑えたダイナミズムに心の軍配が上がった。「笛吹川」は叙事詩的な感じで描いていて個人個人があまり際立たないからそういう気持ちになったのかな。。

シネ・ヌーヴォで「ザ・ハリウッド」

大阪 九条のシネ・ヌーヴォ野村惠一監督の没後10年の特集。

cinenouveau.com

 

その中でも1997年の「ザ・ハリウッド」は、今通っている旧作ビデオ店 ふや町映画タウンのオーナー大森さんとも、また伊勢の進富座のオーナーとも関わりのある映画ときいていて、以前観たのはそれらの場所にちゃんと出会う前*1だったもので確認の意味で大阪まで出かけた。

moviewalker.jp

行きかう人への「あなたにとって大事な映画ってなに?」という問いかけと共に、映画と並走する人生、元気づけられ、人生行路に影響まで与える映画の話が出てくるのだけど、観てみて、ふや町映画タウンのおすすめのものが多数登場していて驚く。野村監督は、大森氏がふや町映画タウンを作る前にアルバイトしていたビデオ店で、名画の棚をがんばって作り、店がなくなる時には自ら研究して集めたその在庫を引き継いだ姿をしっかりみておられたそうで、まさにその話がベースになっており、大森氏所蔵のビデオの一部も映画の中で登場する。

私とふや町映画タウンの出会いは、大量にビデオリリースされているようなものでなく、ミニシアター系の珍しいものをなんとかして観てみたいという気持ちからだったけれど、大森氏や多分進富座のオーナーにもあるであろう、珍品を集めるのがいいのでなく、人生に力を与えてくれる名画を届けることをしたいのだという気持ちが映画からダイレクトに伝わってきた。

前回観た時よりは私も映画の鑑賞本数が増えて、登場人物が語るアラカンさんの「危し!伊達六十二万石」*2のことも骨格をなすオーナーと「フィールド・オブ・ドリームス*3の関わりももっと具体的かつ深く受け止められたし、ラスト近くで自分にとって大切な映画をこたえる街の人が、大森氏は大のおすすめだけど、自分にはピンとこなく、愛好者の方々との間に踏み絵のようなものを感じるアルトマンの「O.C.&スティッグス」*4を挙げられていて思いっきりニヤっとしての楽しい幕切れを味わえた。

ジュディ 虹の彼方に

 

オズの魔法使い」主演のジュディ・ガーランドがハリウッドによって薬物漬けにされていたという部分はきいていたので、「サンセット大通り*1を観るかのようなこわいものみたさみたいな部分も持ち合わせつつそのことにうしろめたさを感じながらの鑑賞。

途中はひりひりするし、これじゃあかん・・という気持ちにもなるが、イヤなまとめ方でなくて安堵。(ジュディの周りの人の心中など察して細かいことは気になったが・・)

晩年(といっても40代後半)のジュディ・ガーランドを演じているのが、レネー・ゼルウィガーと知り驚く。いつまでも「ブリジット・ジョーンズの日記」の気持ちでいたら、シャーリー・マクレインみたいな風格。しかも吹き替えなしで歌っていたとか!

人は何かを得てしまうとそれが枷になるのだなという気持ちにも。

LGBTQへのジュディの理解はよくきくが、それが脚本に生かされている。

ろくでなし

 

吉田喜重第一回監督作品。

確かtwitterで話題が出ていて借りたものの、ジャケットをみた途端、虚無を抱えた若者の鬱屈、暴走・・みたいな自分が苦手な系列の映画か、と身構えた。

確かに新しい映画作りを意識したあえての棒読みみたいな60年代のクセは感じたのだけど、タイトルバックやカットがとてもしゃれている*1し、観ているうちにだんだんに松竹ヌーヴェルバーグ的な空気にもなじんできて、ストーリーも意外と意外と真摯だったと後味は悪くなかった。60年代ファッションは、昭和一桁生まれの母の若い頃のワードローブに似ていて、こんな時代を経て来たんだな、などとも思った。

*1:撮影 成島東一郎