「陸軍」と「笛吹川」

木下惠介監督作品を二本鑑賞。

「陸軍」(1944)と

笛吹川」(1960)

 

 

「陸軍」は幕末から始まる小倉の商家三代の物語。1944年のものだけにお国のために身を捧げることが表面上はもちろん是として描かれているし、笠智衆演じる父親が身体を壊したりして前線で活躍できない悔しさを体現し、そこから余計熱心に子どもを戦場に駆り立てる姿なども気持ちがわかるように描かれている。一方笠智衆よりずっと物のわかったその妻の、夫の一件も踏まえて子孫にはきちんと役目を果たす人間になってほしいと願ってはいるものの、優しく育った息子が出征する時の心中の複雑さ・・それが演じる田中絹代の演技によって時を経て観るものの心に突き刺さる。表面上はこれが今生の別れかもなどということは決して語られないがそれを彼女を追うカメラで表現する素晴らしい木下監督の力量。笠智衆の不器用な朴念仁っぷりもしゃれにならん感じでやや滑稽に描かれ田中絹代の苦労が自然に感じられ、よい構成。

笛吹川」は、武田信玄の膝元の貧農の一家の物語。パートカラーの違和感についてはあらかじめきいていて覚悟して観たので、木下監督は新しい試みが好きなんだな、とも思ったし、まがまがしいことや悲しいことが起こる予告としての色付けに気持ちを持っていかれる。「おやかたさま」という呼び方で支配者のことが話されるが、向こうは貧農の命なんか知ったこっちゃないという状況が淡々と残酷に描かれる。テーマは「陸軍」とも重なるように思ったけれど、「笛吹川」の方は、話のトーンが地味で、「陸軍」の持つ、抑えたダイナミズムに心の軍配が上がった。「笛吹川」は叙事詩的な感じで描いていて個人個人があまり際立たないからそういう気持ちになったのかな。。