二人が喋ってる。

 

  

1996年犬童一心監督作品。観たのは「二人が喋ってる。」だけ入っているVHSビデオ。

今はピン芸人で活躍している吉本興業のなるみとコンビを組んでいたしずかのトゥナイトという漫才コンビを主人公にした物語。

漫才やり続けるってなんなんだという壁に突き当たったなるみとそれに当惑するしずか、しずかの前に現れる笑いの神様(小松政夫氏)と語られる志ん生の逸話。そして、しずかの悩みは笑いの神でなく、こちらの担当だといって紹介されるのは坂田利夫扮するお笑いの神。近鉄電車と思われる車内の中で夢のように繰り広げられるこのシーン、なんだか神様たちダンディでかっこよい。関西出身ではない監督や小松政夫さんという大阪以外の要素がうまくまざりあって映画の可愛さ良さ倍増。安藤桃子監督の「0.5ミリ*1でも吉本の井上竜夫さんがよい感じだったけれど、どっぷりの吉本流でない吉本の人の使い方ってなかなかいいなとも思った。

そして、なるみとしずかが二人で歌うシーンはまさかの大阪版「ロシュフォールの恋人たち*2。街のさまざまな人の様子を撮っているところ、主人公周辺のそれぞれの人の思いをさらっと描き、街の空気を撮っている感じも「ロシュフォール~」風。愛おしい映画だった。

ラストに流れる

自らすすんで

あるいは知らず知らずのうちに

助けて下さった

大阪の方々、大阪の街に

心から感謝します。 

2つのハート

の言葉、撮影の状況が目に浮かぶよう。

犬童監督、99年の「金髪の草原」も今でも情景を頭に思い浮かべるくらい好き。たまに自分には「これも?」と思うような作品もあるけれど、watchし続けていきたい。

 

2021年1月

youtubeにこのhappyな主題歌がupされ、犬童監督ご自身がtwitterで紹介されていたので私もここに貼っておく。ピチカートファイブの小西さんからも絶賛されたとか。窮屈な時代にこの動画を観ているとシンプルさに胸がうたれ、キュンとする。

www.youtube.com

NHK「100分de名著」ブックス ユゴー ノートルダム・ド・パリ 大聖堂物語

 

 

テレビの「100分de名著」でこの本の話をきき、そこから映画化作品を3本観て*1、ちらっときいていた原作との違いが気になり、講義を担当されていた鹿島さんのこちらの本を読むことにした。

映画をみたとき気になっていた、聖職者フロロの屈折した愛情がおざなりになっていることの問題点、この本を読んでますます感じた。鹿島氏は60年代の映画「コレクター」*2テレンス・スタンプ演じる主人公とも喩えておられたが、まさにプライドが高くコミュニケーションが不器用な感じはその通り。ただの悪役でなく複雑な内実を抱えた人物であり、そこが肝要とも思われる。東海林さだお氏の漫画を引用されたりしながらの解説はカジュアルで読みやすかった。

ノートルダムの怪人カジモドのこともオタクにたとえておられるのもにやっとする。古いたとえだけど彼は「電車男」みたいな要素も強いなあ。とても純である。守り手として聖堂と渾然一体となっている感。

もともとは2017年の2月の放映、放送にあわせた雑誌のテキストが出ていたが、2019年の8月書籍化されることになり、ノートル=ダム大聖堂が建った歴史的背景や建築について書かれた特別章が加えられている。

ノートル=ダム大聖堂の建築の背景として語られていた異教徒の取り込み、ひとつには紀元1100年頃から起きたシトー会の大開墾運動からの森の開梱で森がなくなり、原始の森を信じていた北フランスの異教徒の信仰の対象を奪ったわけだけど、尖塔という森のイメージの大聖堂が建てられることによってその取り込みがなされたこと、またマリア(ノートル=ダム)崇拝が1130から1140年頃からのものでそれはケルトの農民に昔からあった大地母神アナへの異教徒的崇拝を回収したという話は面白かった。(これについては、こちらの「ゴシックとは何か」に付けられている鹿島氏の解説がわかりやすい)

よこがお

 

よこがお

よこがお

  • 発売日: 2020/01/08
  • メディア: Prime Video
 

堪能した。深田晃司監督の何が起きるんだろうという演出、日常を丁寧に描くことからにじみ出る不穏、いつも自分の気持ちをそらさない。

筒井真理子氏演じる主人公が置かれる状況には彼女が訪問看護師として訪れる画家の孫、市川実日子氏演じる基子の心持ちと深く関係があると思うのだけど、基子をとりまく状況などもさりげなく見ているものに届き、うまい。

夏目漱石の「こころ」の先生の遺書にあったように、尊敬や愛情って心が動きすぎて反作用がこわい代物たなあとつくづく感じる。

 

新聞記者、i-新聞記者ドキュメント

 

新聞記者

新聞記者

  • 発売日: 2019/10/23
  • メディア: Prime Video
 

 

i-新聞記者ドキュメント-

i-新聞記者ドキュメント-

  • 発売日: 2020/06/19
  • メディア: Prime Video
 

両方観た方からは「i−新聞記者ドキュメント」の方を推す声をきいていたが、自分も二本続けて観てみて、「i -〜」の方をすすめるな。「新聞記者」は劇映画であり、これ現政権の話やん、というのをよく表現できたなというのはある。けれど最後の方、ちょっと綱渡りすぎやしないだろうか。松坂桃李がやっていた役の人ならもっと綿密にことを運べそうな気もして。そうすると勢いがなくなるか。。白石監督の「孤狼の血」という映画で松坂桃李がやはりとても真面目な刑事だったのが、組織の矛盾に突き当たり、そこからのアクションがなかなか見せ場のあるもので、あの素晴らしさからのこの仕事ではと思うのだけどとにかくなんだかもうこんな情熱だけで押し切る感じでは桃李くんのことが心配で心配で、やきもきして終わってしまった。敵役?田中哲司氏、以前こぐまのように人の良さそうな役をみていたもので、今放映中のNHKの医療ドラマでサイコパス的な患者の役をしていて驚いたのだけど、この映画で既におっかない役。食えなくて不気味な雰囲気。もしかして一時の佐野史郎のように怪優への道をひた走りか?

「i-〜」の方は森達也監督が「新聞記者」の原作者東京新聞の望月記者を撮ったものでこちらはなかなか面白かった。いろんなところに突っ込んでいく望月さん。散漫になりやしないかとかつまらん心配も起こしたが、宮古島の件などでは一定の成果をあげておられほっとした。菅官房長官への望月さんの質問がさえぎられる件は以前からきいていたが、この映画の切り取り方をみていたら、戦略もたてて行動されてるとは思うけど、これでは平行線になってしまうよな、はて、どうしたらいいのだろうという気持ちにもなった。グループ行動がお嫌いというのともちょっと関係あるのかな。そんなことをいろいろ考えさせてくれるのが「i-〜」のいいところだ。

フリーの森達也監督のフリーさを活かしたいろんなアクションはとっても面白い。望月さんの動きと並行しての彼の動き、みているものと同じ地平からのスタートという気持ちにさせてくれる彼の映画の撮り方、これはいつもすごい武器だと思っている。

ラストの感じ、どっち側にせよ、集団的に暴走することのこわさ、その通りである。人間いつもいつも正しい判断ができるわけではないけど、軌道修正する懸命さを持てるようにしていかなきゃな。

ご挨拶

 

ご挨拶 [VHS]

ご挨拶 [VHS]

  • 発売日: 1992/07/22
  • メディア: VHS
 

音楽プロデューサーの酒井政利が監修を務めた全三話のオムニバス作品。第一話は寺田敏雄が脚本・監督、第二話は市川準が脚本・監督、第三話は寺田が脚本・モモイカオリ(桃井かおり)が監督を担当した。

all cinemaより。

 

1991年の作品だが、1988年森田芳光が総指揮と脚本を務め「バカヤロー! 私、怒ってます」あたりからこういうオムニバスものがぽつぽつ出始めたイメージがある。

第1話、「イロイロ、ありまして」。まるで、市川準氏の有名な「禁煙パイポ」のCMのようなタイトル。(第一話は市川準監督の作品ではなく、市川氏の作った第二話はずっと落ち着いているのだけど。)蟹江敬三が、苦労する課長役。こういう、無頼風から出て来た人がサラリーマン役するのも90年初頭の流れのように感じる。(93年のショーケンのドラマ「課長サンの厄年」とか。)話は無理やり大きくしている感じ。それも時代の空気かな。ある種の「世にも不思議な物語」みたいなテイスト。OL役の真行寺君江は美しいし、90年初頭頃の企業の雰囲気は懐かしい。蓮舫氏も友情出演。

第2話、市川準監督の「佳世さん」は、60代の東京の下町のキオスクで働く女性を軸にとらえた佳作。堀切菖蒲園駅あたりも佇まいをゆっくり撮るカメラも良い。タイトルの「佳世さん」は誰のことか後からわかる設定も味がある。あの当時はまだまだ戦争に影響を受けた人たちが現役世代だったんだなあとも感じた。

第3話、モモイ・カオリ初監督作品の「NOW IT'S THE BEST MOMENT IN OUR LIFE!」、こちらはその精神に愛すべきものを感じた作品。久しぶりの同窓会、いつまでも上からの毅然とした先生。なんだかわかる。古尾谷雅人は台詞がなくて立っているだけでも魅力を発散させている。ほんとに惜しいなあ。

劇場

 

劇場

劇場

  • メディア: Prime Video
 

素晴らしい出来と思えた。ヒリヒリしてひきこまれる。原作者又吉氏が太宰治好きなのわかる。東京あるあるというか、若き日の自分や周りの人間を見ているような気持ちになってしまった。山崎賢人氏が演じる永くんという小劇団を立ち上げた男のプライドやら不安の挙句の自己防衛やらもうほんとにどうしようもないのだけど、ヒモのひとによくあるような、頭では離れようと思っても離れられない妙な魅力(肉体とかではなく、弱さや真摯さの表したかたがうまいんだと思う)の出し方が絶妙で、ものすごくわかってしまうストーリー。松岡茉優演じる彼女、さきちゃんは聖母のようで、彼女のほうが彼のことを全部把握しているんだけど。。という物語。切ない。

下北沢らしい人間関係。構造も「アニー・ホール」みたいなところがあり、面白い。(もっと傷口がパックリしている感じだが。。)性的な表現が一切出てこないのがとても良い。最近それ表現しても陳腐なだけ、と思うことがままあって、具体的な描写が一切ないことにとても新しさを感じた。

※この週はほんと又吉漬けで、又吉の書いたドラマ「不要不急の銀河」というのもみたのだが、今の、ドラマを作りにくい、人と接しにくい世の中でどうやっていくかという皆が悩んでいるであろうことにターゲットを絞ったすばらしい出来。2020/8/15に再構成して再放送があるようなのでたくさんの方にみていただきたいな。

www.nhk.jp

僕はイエス様が嫌い

 

僕はイエス様が嫌い

僕はイエス様が嫌い

  • 発売日: 2020/01/03
  • メディア: Prime Video
 

ミッション系の学校に長く通っていたものでひやっとするタイトル。そして、キリスト教の環境が日本映画で出てくると宗派が気になってしまう自分だが、この映画は宗派など関係なく、宗教と救いという「沈黙」*1みたいなテーマを、カジュアルな(でも実はシリアスな)タッチで描いているもの。このお話はキリスト教で表現した方がしっくりみられると思う。

とても透明感のある絵づくりで少女漫画(誉め言葉)のように見やすく、繊細でうっとりと物語に導かれる。でも、峻烈な違和感へのレジストや種明かし。恐るべき映画。