哥(うた)

 

「無常」「曼陀羅」に続く実相寺昭雄監督の三部作とのこと。以前「無常」を観た時、観念的で破壊的な田村亮氏の行動や前衛的な音響についていけなくちょっとした苦行的鑑賞になってしまったのだけどこちらは自分の気持ちのコンディションが良かったのかすんなりと入ってきた。

丹波篠山の山林王の息子三人の物語。

モノクロームの映像、旧家のさま、山の中、そしてポルノグラフィー的シーンまで美しい。

この作品ではヴィヴァルディが使われているが、日陰の存在の息子で、現在は下男として仕えている篠田三郎がただひとり子羊のように禁欲的でかたくななまでの意志で家を守っていく姿がクラシックな響きにぴったり合い、悲壮感極まりあたかも三島由紀夫のさまをみているような目を離せない気持ちに。

岸田森演じる偉大なる父の前に全人的に委縮してしまっている長男、東野英心演じるちゃらんぽらんな次男の二人により醸し出される沒落感が徹底しておりシェークスピア悲劇のよう。

去りゆくものとしての父母(アラカン毛利菊枝)の縁側の恩讐を超えた空気も素晴らしい。

岸田森が引っ越す京都での住まいも多分地元銀閣寺ぽく予想以上に愉しめた。