「夫婦善哉」や「猫と庄三と二人のをんな」など森繁久彌によるダメ男系の作品がヒットした余波ということもあるのだろうが、一応創作と謳ってはいるものの野口雨情の伝記映画のような体裁なのに、もうとことん森繁演じる主人公の野口雨情が情けなく描かれていた。冒頭、結婚式だというのに嫁もそっちのけで前から馴染みの芸者と煮えきらない逢瀬とかその後の出奔とか観ているものを試すような事柄の数々。森繁が歌って紹介される雨情の作った唄はとても叙情的なのに。途中北海道の新聞社で石川啄木と一緒に仕事するのだがあの啄木がとてもまともにみえる構成。
はじめは、もういい加減しっかりしろ、とか思いながら観ているのだが、木暮実千代演じるしっかりものの奥さんが仕切りすぎると仕切り屋の前では萎縮してしまう自分と雨情を重ねてみてしまいちょっと同情的になって雨情の情けなさが我が身に迫ったりもしてきた。
根気強い優しさをそそぐ隣人に千秋実、あきれながらもなんとか実際的な対応をしようとする藤原釜足、知らんがなという感じのマイウェイ船頭に左卜全、民謡の仕事を一緒にする大御所に山形勲と囲む人々の様子はとても楽し。月形龍之介も成瀬の「桃中軒雲右衛門」*1登場時と同じ雲右衛門姿で登場。
