下鴨映画祭

「下鴨映画祭」というものが今年の3月に開催され、4/23までその様子が公開されている。日本映画の黎明期を偲ぶ集まりだ。

尾上松之助資料保存会の松野吉孝代表が中心になって事業が進められたそうだが、専門家の解説あり、活弁士と生演奏つきの上映ありで大変贅沢なイベント。

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多数の弁士と楽団による「忠臣蔵」(池田富保 1926)のかけあいなどよくこのメンバーを集めたなと思うような豪華さ。生演奏で、タイミングのための掛け声なども文楽なんかできく声と共通点があり胸を打つ。

メモしておきたいのは、第一部早稲田大学演劇博物館副館長児玉竜一氏の長谷川一夫のお話。

「時代劇俳優における演劇の影」というスライドが大変興味深かった。

時代劇俳優たち、踊りを得意としている人の系列か否かで、前者の出演作はミュージカル的な作品、後者のはストーリー重視の作品となり、メインの映画史的な文脈では後者がゲージツ的といわれたりするが、公開当時は前者の作品群は大変観客に受け入れられておりこちらにも注目していかなければならないというお話。京都国立近代美術館で開催され市川右太衛門の衣裳が多数展示されていた「甲斐荘楠音の全貌」展*1ともからめて面白い講演だった。

以下、太字で記された人たちが「踊りが得意な」面々。いわれてみればその時代劇の分け方とてもよくわかる。

長谷川一夫 ←初代中村鴈治郎林長三郎(又一郎)

市川右太衛門市川右團次

片岡千恵蔵 ←十一代目片岡仁左衛門

大河内傳次郎澤田正二郎

中村錦之助 一初代中村吉右衛門

大川橋蔵六代目尾上菊五郎

そのあと坂本頼光氏が弁士を務めた長谷川一夫の「鳥辺山心中」(1928)、昭和後期のかなり肉付きのよい長谷川一夫メインで知っている人間には驚くほどの美しさ。年齢を計算したら(1908年生まれ)二十歳くらいのようだ。ストーリーは原作からかなりかえてあるらしい。「忠臣蔵」と「雄呂血」*2を混ぜたような話になっていた。

長谷川一夫は、映画会社の移籍時、顔を切られるという事件があり(プロの仕業というその説明も細かく・・)、その傷が目立たないように照明にすごく気を配り、照明のプロといえるほどだったらしい。後年の「ベルサイユのばら」の演出でも、スターの眼に星が光るシーンがあるが、視線を客席のここからここに移すと眼が光るという技術的な指導があったらしい。

第二部では映画『豪傑児雷也』(1921年、日活大将軍撮影所、牧野省三監督、尾上松之助主演)が弁士付きで披露された。これは一度観てみたかったものだ。こどもたちが楽しんでいたらしいが、蝦蟇の親分みたいなの、ローテクでかわいらしい造形。

当初中島貞夫監督が司会をされるところだったのが来場できなくなりピンチヒッターとしてこの会を引っ張ってこられた松野さんが老いの身に鞭をうちつつ頑張っておられたが、松野さんの熱情が伝わり私はとても感動した。

協力もされたおもちゃ映画ミュージアムのブログにも詳細が報告されている。配信とともに読むととても参考に。

toyfilm-museum.jp