雪之丞変化

先日の下賀茂映画祭*1早稲田大学演劇博物館副館長の児玉氏の話に長谷川一夫が二度演じた「雪之丞変化」はリトマス紙というお話があり63年の市川崑版を許容する人は歌舞伎に慣れている方(歌舞伎は太った俳優の女形などしょっちゅうだからぽっちゃりしたおじさん年齢になってからの長谷川雪之丞でもok )、35年の衣笠版がいいという方は歌舞伎的変換なしに映画を観ている人という言葉があった。

市川崑バージョンは以前観ていた*2ので35年版をまず鑑賞。

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総集編なので作りは筋を追っているだけという感じのだが、とにかく舞台が凄い迫力。舞台が出てくる映像は、「残菊物語」や「獅子の座」*3「元禄忠臣蔵」など古い年代のものの方が本格的に映してありそれ自体を楽しめる感じでいいと思うのだけど、こちらもそう。

長崎の仇を江戸で討つ構成、実家を滅ぼされた歌舞伎役者の話、頼りになる闇太郎の存在などもしかして吉田修一の小説「国宝」*4に影響を与えているのではないかな?(「国宝」は仇討ち要素は少ないがやはり仇というものがとても大事なファクターなので)

先日甲斐荘楠音の衣裳目当てで観た伊藤大輔監督の「源氏九郎颯爽記 秘剣揚羽の蝶」も一人二役で片一方は高貴な香りのする正統派主人公それを助けるいなせな闇太郎的存在という構造が少し似ていたな。柴田錬三郎の原作だったが。

35年版、仇討ちに関してかなり恨みをのんで亡くなった両親が乗り移りのようなオカルトティックな表現もあった。ラスト、仇を文字通り劇場の奈落で追い詰めるところ、高橋英樹の「桃太郎侍」のような般若面のような姿も。あちらも一人二役の双子の物語だったし、何かしらのつながりを感じる。

京都ヒストリカ国際映画祭で公開された時の情報はこちら↓

historica-kyoto.com

 

続きで大川橋蔵の「雪之丞変化」(1959 マキノ雅弘監督)も鑑賞。

 

こちらはちょっかいを出す裏稼業の女役は淡島千景。マキノ監督らしい群衆使い。団扇太鼓の集団が場面を盛り上げる。大川橋蔵は踊りに力を入れていた方ときくし、舞台で女形の踊りも。これはなかなか綺麗だったが、オフの女形として淡島千景と並ぶとごつさが目立つように感じ、闇太郎姿のほうが銭形平次的で目に馴染む。舞台も35年版の立派さからみると軽い紹介に終わっている。これは観客の変化もあるのだろうな。気づかず観ていたのだが、先代仁左衛門若山富三郎が自分の知っている佇まいではなく出ていたり、見どころもある。↓下の動画で確認できる。

youtu.be

 

そのあともう市川崑のバージョンを再見してみた。

 

ストーリーがしっかり頭に入っている今回ずっと前回観た時よりクリアに楽しめた。市川崑らしい構図、光と影の使い方も素晴らしかったし、配役の華やかなこと。他二つの版でお飾り的だった浪路、若尾文子が美しく演じている。雷蔵さんの可愛らしいこと。たしかに長谷川一夫女形はぽっちゃりしているけれどそれすら忘れるくらいの美しい画面の連続。楽しめたー。舞台シーンは35年版が一番豊かに使っていたなあ。

最後舞台のところで「将門の娘」というセリフがあるので、元の舞台は「忍夜恋曲者~将門」という作品であろうことが推察できる。確かにぴったり。

enmokudb.kabuki.ne.jp

市川崑版は音楽もモダンで良かった。(冒頭にはちょっとウェットな歌謡が流れるものの・・)芥川也寸志八木正生とのこと。