小津週間?

少し前にNHKのヒストリアで小津安二郎を取り上げていて(こちらはその時のブログ)、そこで紹介されていた松阪の小津安二郎青春館を訪ねた。

f:id:ponyman:20200926124515j:plain小津安二郎が青春期を過ごしたその場所で若き日の小津監督の資料をたくさん集めておられる。こちらで館長さんの説明を受けて、あまり小津作品をたくさん観ていない家族が小津作品もっと観てみようということになりプチ小津鑑賞ウィークとなった。

まず観たのは青春館にジオラマのあった「秋刀魚の味」(再見)。ヒストリアでも岩下志麻が何度もリテイクさせられた話が紹介されていた。

岩下志麻演じる娘もそろそろ結婚適齢期だけど、妻も亡くなってなんとなく娘が家に居てくれるこの暮らしが続くのも悪くないよな、急ぐことないかという気持ちの笠智衆演じる平山氏。同窓会で、東野英治郎演じる元教師がずいぶん落ちぶれ、それを支える娘、杉村春子も疲弊しきっているのをみて、何年後かの自分を意識させられ・・というストーリーだけど、今回は東野英治郎の姿に感心しきった。これじゃいかん、と教え子に思わす反面教師ぶり。宴席での貪欲さ、卑屈さ、着こなしetcにそれが残酷なほど滲み出ていて説得力あり。前回観た時より小津監督の好きな赤いモチーフなんかの話も意識して観て、意識し始めたらほとんどといっていいほど多くの場面に赤の差し色が使われているのを実感。筋を追っかけるのでない二度目(で胸をはるのも恥ずかしいが)ゆえに多少はしっかり観られた鑑賞だったかな・・

 

秋刀魚の味 ニューデジタルリマスター版

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 その次に観たのは「父ありき」。また元教師の転職もの。笠智衆が元教師の父役。小津監督、「東京物語」とか(と、いっても情けないことに少し中抜けの状態で何度か観ている。テレビ放映でリアルタイムで観たもので)、親孝行について問われているような気に勝手になり、名場面はあれど、苦しい気分になるイメージもあるのだが、(中抜けありゆえなんともいえないだけど・・)、今回この二作品を観て、「父ありき」でも、「秋刀魚の味」でも、別に子どもを縛り付ける部分はなく、みている人を道徳的に導いたりするのでなく、スケッチしているという風に受け取れた。笠さんがなかなか筋の通った、子どもを育てる気概があり、時には厳しい言葉も辞さない父親ぶりであった。笠さんの息子役佐野周二も、心優しき気持ちを持った、しかし、現実はまた別という境遇の役を演じきっていた。 

父ありき

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 もう一本観たのが「麦秋」。こちらは大学生の時、今はなき、銀座の並木座で鑑賞したのだけど、50代後半の今観てその時よりずっと心に響いた。

OL原節子がやんちゃ坊主の甥っ子たちと叔母さんらしい自由さでつきあっているのがとても好ましい。良いなあととても思う。大和のおじさん、なる人物が出てくるのだけど、中野翠さんの「小津ごのみ」*1などにも「叔父さん」と表記されているものの、えらく耳が遠い。大叔父?でもその耳の遠さが俗世と距離を置いた感じで愉快でもある。歌舞伎見物に出かけ、実況中継を家でほかの家族がラジオで聞いているのも時代を表していそうで興味を持った。

菅井一郎演じる原節子の父より、実権は原節子の兄である笠智衆が握っている。この笠智衆の子どもに対する態度・・いかにもこの時代である。きつく叱ってこどもたちがプチ家出みたいになっているのに自分は自分の時間・・気になってないわけではないだろうが、こういう風にするのが当たり前だったんだろうかな・・

最終的には菅井一郎たちがなぜこういう段取りにならなきゃいけないのか?と思わないでもなかったが、 そこは物語に乗っておく。自分と同じ年ごろ(あるいは下)ではないかと思うけれど、リタイアの年齢ということだろうな。

とにかく、ほんわかと時は流れていくものということを感じさせてくれる好ましい作品だった。

 

秋刀魚の味」「麦秋」はふや町映画タウンのおすすめ星取表で最高の★★★がついている。(むっちゃ おすすめ !!!! 評価) 

 

麦秋
 

松阪の小津安二郎青春館は資料を近々移転される話が出ている。小津安二郎が青春期を過ごしたあの場所で資料を味わうにはお早めに・・

www.chunichi.co.jp

 
おまけ・・・松阪のおみやげに買って帰ってきた 老松の牛肉しぐれ煮まるよしの松阪牛ビーフカレー、いずれも本当においしく満足しました。老松の、贈答品に使いたいくらい。