湯を沸かすほどの熱い愛

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自分の心に一番触れたのは宮沢りえ演じる主人公の、序盤の長女への向き合い方。いくら心配でも自分で解決させると決めて、でも、やはり心配で心配で、それを次女にみられているところ。タカアシガニを食べに行った先でも、その途中の松坂桃李演じる若者とのやりとりも、いのちの期限を区切って考えているからこその力を感じる。どんな人間もいのちには限りがあるものだけど、それを強く意識できるかどうかで内なるパワーは変わってくるだろうな。長女の学校の問題や最終盤の劇的なシーン、それが見せ場ってところなんだけど、これで大丈夫なんだろうかという気持ちが頭をもたげる。

それにしてもオダギリジョー演じるあの夫は!あの男性の精一杯のシーンも、「グーグーだって猫である*1の苦手のシーンを思い出してしまって・・あんな人だからこそのあの家族なんだけど・・

タカアシガニの女性の扱いは、私が宮沢りえの立場だったらつまらないこと考えそうだな・・少し宮沢りえを立派過ぎる存在にしすぎのようなところもあるように思うのだけど、途中の本音の吐露のようなシーンは好きだった。

長女役の杉咲花、次女役の伊東蒼 二人ともすばらしく達者だ。なんともいえない空気を持っている。

宮沢りえの出てくる最後のシーンほんとに美しかった。ちょっとスターウォーズのアミダラのように・・

銭湯の撮影は文京区目白台にあった月の湯だそう。。最古の木造建築銭湯だったけれど、撮影のあと解体され、今はこの映画の中でしかみられないとか。。ここ、学生の時よく行っていた・・

湯を沸かすほどの熱い愛 通常版 [DVD]

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フランク・キャプラ 第二次世界大戦 1,2

 フランク・キャプラが戦時中在籍していたアメリカ陸軍情報部に依頼され、製作したドキュメンタリーシリーズ。だから当たり前だが日本側の事情、葛藤などは割愛、とにかく起こったことを、みている人がこの連中とは戦わなければならないという気持ちを起こさせるようにうまくまとめてある。42年度アカデミー最優秀記録映画賞受賞作品。

第一巻はムッソリーニヒットラーの台頭、満州事変など

第二巻はドイツのチェコポーランド侵攻 

ドキュメンタリーということで「映像の世紀」のような感覚でみてしまうと、こうだから戦わなければならないという当初の目的である宣伝に、不思議な違和感を感じたりもするが、それだけ、事実の並べ方がきちんとしているということかもしれない。ドラマ映画などではみているが、まとまった戦争の経緯は全然整理できていなかったので順番だけでも頭に入る。

大林宣彦監督の最後の講義という番組*1で、アメリカの作った戦争のドキュメンタリー映画で日本の劇映画が使われている、その方が実戦の映像を使うよりよりしっかりと伝えたいところが伝わるからという話が出ていたけれど、このシリーズなのだろうか?ふとそう思うようなところが、第二巻にもあった。(ドイツの場面だが)今後の巻もみたり、調べたりしたい。

日本の戦意高揚映画もつらい気持ちでみるけれど、こういう映画っていうのはまた違うつらさもあるものだなあ・・

 

フランク・キャプラ 第二次世界大戦 戦争の序曲 Vol.1 [DVD]

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犬ヶ島


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ああ楽しかった。太鼓や、「七人の侍」のテーマや、演歌風のメロディーなど、日本風の音楽や景色がウェス・アンダーソンの手にかかったらこんな風になるんだ。そして、いつものテーマ、父的なものからの独立!少年のきりりと、でもはかなさも感じさせる雰囲気が、なにか天草四郎を思わせたり・・そして犬たちのけなげさ!造形の美しさ。でもその中のヒネた笑いダレない展開。みんな好みだ。ちょっと「キル・ビル」を思い出すところもあったり・・

そして、いまの日本や世界の状況を笑いのオブラートにかぶせ、楽しませながらきっちり描いていて、なにかもう熱いものもこみあげてきた。

 

 

犬ヶ島 (字幕版)

犬ヶ島 (字幕版)

 

 

 

 

 

 

 

怪塔伝

毛利菊枝進藤英太郎がカルト集団めいたもののトップにいるのだけど、毛利さんが、魔女めいた雰囲気で不吉な予言を告げに来るところの不気味なこと不気味なこと。ここらへんは西洋の物語のようでもある。

秘密の隠された大事な品物を巡っての争い、よく歌舞伎でお軸を巡ってというのをみるけれど、その流れを感じた。

鶴田浩二が主演なのだが、時代劇に初出演。珍しい気がする。どこか山本耕史風。

もうそろそろ引退かというような重鎮二人が決起するシーン、羽織の下に隠しているたすきがけがチャーミング。丸根監督らしい魅力を感じる。

怪塔伝 [VHS]

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月山

 少し幻想文学めいた空気も漂う映画。

都会の生活に疲れた大学生が月山の麓の、かっては門前町としても栄えたことのある寒村の寺で一冬を過ごす。芳名録を張り合わせて作った蚊帳のような紙製の風よけの中でたたずんでいる姿や、凍り付いた外の景色、鳥追い、春のはじまりのありさまなどがとても美しい。これぞ高間賢治カメラマンの腕だろうか。。主人公を演じた河原崎次郎氏、河原崎長一郎氏と面差しが似ていると思ったら弟さんのよう。友里千賀子氏がかわいらしく素朴で、よそものの主人公が気になる役柄にあっている。片桐夕子氏は片桐氏らしいマグマを持った女性役。同じ村野監督の「鬼の詩」*1にも出ておられたなあ。

劇中何度も出てくる「おらほ」という言葉、会津の方の言葉と共通だろうか?

月山 [DVD]

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 みたのはVHS版

新佐渡情話


www.nikkatsu.com

ビデオジャケットには 「寿々木米松の名調子に乗って描く最もポピュラーな浪曲映画の決定版」とある。

昭和10年の映画でとてもクラシックなんだけど、寿々木米松浪曲が本当にかっこよくすんなりくる。(新のついてない「佐渡情話」の方だけど、こんな雰囲気。いい感じ!)なにか文楽の舞台をみているような、登場人物たちがそれぞれの人間臭い個性を出すというより、役柄に徹し、物語の中で人形のようにストーリーを演じている感じがし、それが心地いい。その感じ小津安二郎の作品にも通じるような・・

薄幸の少女お梅を演じた花井蘭子けなげで美しかった。零落して行倒れた父が連れていた猿回しの猿がまた雰囲気を添えて・・途中展開はユーモラスな部分もあり、入り込みやすい。

新佐渡情話 [VHS]

新佐渡情話 [VHS]

 

 

たそがれ酒場

 先日「東京映画地図」という本を購入した。

 

東京映画地図 (キネマ旬報ムック)

東京映画地図 (キネマ旬報ムック)

 

 

映画をみるとロケ地はどこだといつも気になる自分にぴったりの本なのだが、その本によると、

この映画は現在思い出横丁になっている新宿西口マーケットにあった百円酒場「富士屋」がモデルだとか。列車の音、店の下を通るデモ隊など当時の新宿駅近くの雰囲気がわかる。

とのこと。これを感じたくてこの映画を借りた。

昭和50年代、自分が上京した時、確かにこの一角、副都心などとは一線を画す雰囲気だったように思う。

思い出横丁関係のページ。

shinjuku-omoide.com

 

 まだ全部はちゃんと読めていないが、焼き鳥屋の宝来屋店主金子正巳さんの自叙伝もおもしろい。

www.horaiya.com

 

さて、タイトルの「たそがれ酒場」だけど、これは昭和30年内田吐夢監督作品。中国から帰還した内田監督が「血槍富士」につづいて撮った映画とのことで、戦中を生きてきた人の戦後のつらさがにじみ出ている。去年あたりから満州に興味を持ち、内田監督の満州での苦労もきいていた*1ものだから、なお一層そういうことを経験されたあとの内田監督がこの映画を撮られたのだという思いもあった。

戦後のつらさ、などと戦争体験者でもないわたしが書くと軽い言葉になってしまうが、先日「探検バクモン」というテレビの国会議事堂特集をみていて、田原総一朗氏が政治に関心を持ち続けるのはなぜだという問いに対して、戦後平気で前言撤回する世の中を体験し、本当に政治家のいうことは信用できない、だまされてはいけないという気持ちが骨の髄まで染みた、だからどこまでも問いただすのだという話をされていて、それまで田原さんってもしかして引っ掻き回しておられるだけでは?と思ったりして少し冷ややか目に番組をみたりしはじめていた気分が少し変わった。関心を持たせるための政治討論ショーみたいな部分は否めないけれど、「探検バクモン」での田原さんの言葉はこちらの胸にしみたし、戦争体験者からの生の声が届かなくなる世の中の到来、本当に気をつけなきゃと思った。

どんどん話が映画から離れて行っているが、大衆酒場での一日の群像劇を描いたこの映画、一番目を引くのはストリッパー役の津島恵子だ。本当に美しく、ダンスの素養があるのに裸をさらす商売をしなきゃいけないという境遇のつらさが、津島恵子の持つ品の良さで確かに描かれていた。

この大衆酒場、ピアノと舞台が備えてあって、客が舞台の上で壺阪道中をうなったり、「ソーラン節」に大いに盛り上がったりがあったかと思えば、常連のさしがねで、この酒場の歌い手の実力をみせるためにカルメンの「闘牛士の歌」が演奏されわいたりとなかなかだしものも多岐にわたっている。ほかに音楽はなく、この演奏されているものだけが音楽というのが、ビデオに同梱されていた山根貞男氏の解説によると、ワンセットの劇であるということなどにも並び、内田監督の実験手法であるらしい。

酒場の名ピアニストは成城大学の音楽教授 小野比呂志氏、酒場の歌手には新進のバリトン手宮原卓也氏が扮していたとのこと。

酒場で働く女性たちのなかでスポットがあてられている野添ひとみのやはり群を抜くかわいらしさ。宇津井健が交際相手の男前の役で登場。(出番短い)

野添ひとみをめぐって争うちょっとやくざもの風の男に丹波哲郎。さらっとした出方。帽子のかぶりかたなどしゃれている。

戦争中の上官と兵士の結びつきと哀歓を東野英次郎と加東大助が手堅く演じている。

 

 みたのは、vhsの日本映画傑作全集として出ていたものだけど、参考のためにdvd版の情報をはっておく。このdvdの表紙になっているのが迫力のある美しさの津島恵子

たそがれ酒場 [DVD]

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*1:例えば「満映とわたし」など