悪童日記

 

映画*1がとても良かったこの作品、信頼できる方が原作も是非とおっしゃてたので読んでみた。海外文学から遠ざかって久しく東欧圏の話ともなれば読みにくいのではないかと手に取るのが遅れたが、まるっきり杞憂。とても読みやすい。なのに、しっかりと作品世界に引きずり込まれる。

訳者のあとがきによると、「悪童日記」というタイトルは、作品の内容をより具体的にーそしてやや反語的にーイメージさせることを狙った訳題なのであって、原題を直訳すれば「大きなノートブック」とでもいった意味であるらしい。戦争中祖母のもとに疎開することになった双子の書いた日記で構成されているこの本、主人公たちは「悪童」という言葉からイメージされるいたずらの過ぎる子あるいは不良みたいな感じでなく、生きるためにセンチメンタリズムを排し、学び、自分たちの判断で前に進んでいく人間であって、神はこういう判断をするといいたくなるような神々しさと、途上の人間が訓練していく美しさ、そして驚きを備えている。全編ストイックさが漂っていて判断が彼らのルールにのっとってフェアであり、読んでいて爽快感がある。

今感想をまとめていて浦沢直樹の「Monster」はこの本がヒントになっている部分はないだろうか?とふと思った。双子、優れた頭脳と一般常識的モラルとのアンバランス、ヨーロッパの昏さというような要素から。

地名、名前などを排して書かれているこの作品、これはどこのことかな?と思いながら読むのだが、*2この匿名性がまたすっきりしていて汎用性を帯び、物語に入り込みやすくなっている。

*1:悪童日記 - 日常整理日誌

*2:訳者によるとハンガリーのクーゼクという町と推測されるらしい